朝起きてスマホを眺めてダラダラしないと動き出せない…はメンタルのプチ不調? 心療内科医の先生に聞く、“うつうつ”から脱け出すテクニック

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更新日:2021/7/8

無意識のため息が驚くほど消えて うつうつしなくなる
『無意識のため息が驚くほど消えて うつうつしなくなる』(KADOKAWA)

 このごろ、ちょっと「うつうつ」した気分になることはないだろうか。実際、長引くコロナ禍の中、メンタル面のプチ不調を抱えた人は増加しているという。このほど『無意識のため息が驚くほど消えて うつうつしなくなる』(KADOKAWA)を上梓した心療内科医で産業医である石川陽平先生に、コロナ禍の中でのメンタル事情を聞いてみた。

(取材・文=荒井理恵)

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救急医と産業医。両方やってみえたコロナと心の問題

石川陽平先生
石川陽平先生

――先生は現在、産業医として働かれていますが、以前はコロナの最前線にいらしたそうですね。

石川陽平先生(以下、石川) 昨年の3月まで聖路加国際病院の救急医をやっていました。まさにコロナ第1波の時は最前線にいて、感染が報道の発表より目に見えて広がっていくのを肌で感じていました。翌4月からもともと救急と並行して活動していた産業医と医療系企業の企画の仕事を中心に活動するようになりました。救急医と産業医という2つの視点で多くの患者さんと関わらせていただくと、コロナでメンタル面に影響を受けている人が多いのを実感しました。ニュースでは感染状況や感染対策については詳しく報道しますが、生活の変化についてのサポートはあまりないのでギャップの大きさを感じてこの本を書きました。

――医師として両面体験されているのは大変心強いです。具体的にはコロナでどんな環境変化がおきたのでしょうか。

石川 大きいところではまずは「リモートワーク」。これまで対面で話していた人と話ができないという状況はコミュニケーションのストレスとしてかなり影響を与えています。あとは「自粛生活」により外食できない、映画館に行けないなどの環境変化。日本人は我慢が得意で少々のことには適応してしまうのでなんとかやってきましたが、そろそろ限界でしょう。こうした社会変化に我慢をして目をつぶるのではなく、「実際にしんどいことだよね」、と感じ取ってあげることも、自分にとってのストレス源を知る意味で大事な作業です。たとえばリモートワークは自分にあってないとか、リモートワーク自体はいいけど実は家族とずっといるとしんどいとか、そういう環境要因がみえてきますから。

――先生ご自身はうつうつとされたりしませんでしたか?

石川 急激な環境変化でオンオフの切り替えができなくなりましたね。去年の3月31日の夜23時半くらいまでひたすら救急で働いていたんですが、4月から働き方が変わったら明らかに歩かなくなりましたし、誰かと「直接話す」ということも少なくなってしまいました。気がつくと夜中まで仕事していたりして体調を崩しかけてしまって、本書で紹介した「パジャマを買う」とか「マインドフルネスを取り入れる」とかのコツは、そのときになんとかしようと自分で実践したものでもあるんです。

まずは「自分の感情を確かめる」こと!

――本書に紹介されているコツは、本の順に実践していくのがよいのでしょうか?

石川 まずは本の最初に紹介した「自分の感情を確かめる」ことをやっていただくのがいいと思います(第2章「感情のクセから脱け出す」参照)。そもそもみなさん自分の感情に実は気づいていないことが多いです。海外の方は「I’m angry.(私は怒っている)」とはっきり言葉に出しますが、日本人はあまり自分の感情を言葉にする機会はなく、何となく思っているけど、実際に自分の意識として明確になっていないことが多いです。なのでまずは自分の感情を言葉にして、どんな感情をもっているのか、言葉にして気づいてみてください。なんとなく自分で考えていた感情と、深掘りするとみえてくる感情とでは違うなんてことはよくあることで、たとえば「上司への怒り」だと思っていたら、その根底には「自分自身への不安、さみしさ」があったりなんてこともあります。感情の確かめ方は「紙に書く」などありますが、紙でなくてもデジタルのメモでもなんでもいい。とにかく自分の感情を言葉にすることが自分の深掘りになります。

――日頃からそういうクセをつけるといいんですか?

石川 ずっとやっていたらかえってまいってしまいますから、「しんどいな」と思ったときだけでいいでしょう。ネガティブな感情というのには〈怒り〉〈嫌い〉〈悲しみ〉〈恐れ〉の4つがありますが、そのどれなんだろうと考えてみてください。自分のマイナスの感情の種類に気がつくだけでもうつうつの正体を知るきっかけになりますし、それが明確になったらそれに応じた対応をしていけばいい。あるいはそういう感情を知ることで自分自身を素直に認めてあげられるようになって、うつうつが減っていく人もいます。

――実践テクニックには「感情」「思考」「体」「行動」の4つの面のクセから脱け出す方法が紹介されています。どれから実践すればいいのでしょうか?

石川 4つはすべてつながっていますから、取り組みやすかったり気になったりすることからはじめていただいて大丈夫です。本という形式だとどうしても順番に書くために「感情」や「思考」からはじまっていますが、実は「思考」を変えるのは割と大変な作業です。今回、うつうつした人が陥りやすい思考のクセを「怪獣」にたとえてわかりやすくしていますが、まずはそういうものがあると押さえていただくだけでもいいでしょう。ちなみに、あえて怪獣にしたのは、第三者的なレッテル貼りをすることで「自分」と引き離して考えてほしかったからです。そう考えてしまうのは自分が悪いのではなくたまたまそうなってしまっただけで、「怪獣」だと意識すれば手なずけることもできるかもしれません。

無意識のため息が驚くほど消えて うつうつしなくなる

――最終的にはやはり全部やったほうがいいんでしょうか?

石川 うつうつする方は基本的に真面目な方が多いので、そう思われる方もいるかもしれませんが、「できること」で、しかも「どれかひとつでも」大丈夫です。本に線をひいていただいてもいいですが、付箋をはりまくるような感じでは疲れてしまうでしょうから、むしろなんとなく読んでもらう感じでもいい。真面目というのは悪いことではありませんが、少しがんばりすぎている面があるかもしれないので息をぬきましょう。どんな小さなところでもいいから、まずはひとつやってみるとつながっていきますよ。

朝、体が重い、休日でも疲れる…はメンタル要注意!

――「睡眠」についても詳しく書かれていて参考になります。睡眠の大事な役割に「睡眠は老廃物を水で洗い流す役割をしている」というのに衝撃を受けました。

石川 あれは医学的にも大発見なんです。最近出たアルツハイマーの新しい薬がありますが、その薬が取り去ろうとしている老廃物を睡眠はシャーっと洗い流してくれているんですね。ですから実はアルツハイマーの大きな予防薬のひとつは睡眠ですし、睡眠が8時間以上ならアルツハイマーの可能性が3割減るともいわれています。眠れなくてサプリや市販薬を使われる方もいますが、医師としては上手な使い方ができている人をあまりみたことがないと正直思います。そもそも睡眠に対する知識が間違っている人も多いのが現状ですので、特に睡眠については「睡眠リズムを整えるための7つのポイント」など詳しく書いたので参考にしてもらえればと思います。

無意識のため息が驚くほど消えて うつうつしなくなる

――いろいろ参考になりまくりです。とはいえ調子が悪いと自分の感じ方や心が悪いと、自分を責める人もいませんか?

石川 そういう方にはまず「あなたは別に悪くない」と伝えたいですね。どうして自分にはストレスがたまってるのかわかっていないし、そもそもそれを考えるきっかけや時間がないという人が多いのではないかと思います。忙しいから目をつぶっちゃうんですよね。目の前の仕事をとりあえずやらなきゃいけないから、とりあえずやる。で、疲れたから寝る。あれ? 体調悪い…みたいな状態になってしまう人が多いのでしょう。とりあえず目をつぶらずに振り返ってみてほしいと思います。

――ちなみに「無意識のため息」以外に、どんな行動がみえたら要注意でしょうか?

石川 朝起きたときに疲れたと感じたり、ベッドから出るときにちょっと体が重いなーと思ったりする人。起きて出かけなきゃいけないのについスマホを見てダラダラしないと体が動かない人。前まで好きだった趣味がしづらくなってきた、する気が起きなくなってきたという人。せっかくのお休みなのに疲れてしまう、土日で疲れがとりきれないまま月曜日だーと思う人。こうした覚えがある場合はちょっと気にしてほしいと思います。実はこれらはうつ病診断の目安でもあるんですが、別にひとつ当てはまったからうつ病というわけではありません。ひとつのわかりやすいサインとして見逃さないでほしいと思います。

――心療内科を受診したほうがいい目安というのはどのへんでしょうか?

石川 うつうつの場合は波があるんですが、波がなくなってべたーっと常にうつうつしてしまう方。しかもそれが1カ月以上続いたら、ちょっと心療内科や精神科の受診を検討してみてください。蟻地獄からまったく脱け出せなくなってしまう感じですね。そうなる前に、さきほどのようなサインがあったら、ちょっと立ち止まって振り返ってみてください。

 今は世の中全体がうつうつとした閉塞感の強まったままの低空飛行のような時代です。だからといってそれに自分をあわせる必要はないですし、そんな中でも自分を少し「ご機嫌にさせるような方法」を身につけておけると、そのあとの自分の人生も、明日もきっと変わってくると思います。そのためにこの本がヒントになったら、うれしいことだと思っています。