メタル大航海時代/メタルか?メタルじゃないか?⑮

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公開日:2021/7/10

 “新しいメタルの誕生”をテーマに“BABYMETAL”というプロジェクトを立ち上げ、斬新なアイディアとブレること無き鋼鉄の魂で世界へと導いてきたプロデューサー・KOBAMETAL。そんな彼が世の中のあらゆる事象を“メタル”の視点で斬りまくる! “メタルか? メタルじゃないか?”。その答えの中に、常識を覆し、閉塞感を感じる日常を変えるヒントが見つけられるかもしれない!!

メタルか? メタルでないか?
Photo by Susumu Miyawaki(PROGRESS‐M)

 メタルは生真面目な人の方が断然向いている音楽だ。

 これは、ワタクシがこれまでの経験から得た真理だ。以前にも触れたので、簡単におさらいすると、曲の構成の複雑さ、演奏レベルの難易度、キメの多さなど、単純なノリ一発、みたいなことでは到底クリアできないハードルがメタルの楽曲には随所にあるからだ。

 そのようなメタルの特性はデジタルとの相性ということと、実は密接に関係している。

 レコーディング機材のデジタル化というものは著しいもので、2、3年前のものが古いと感じられるほどのスピード感だ。すべての音がデジタルに置き換えられるわけではないのだが、しかしメタルにおいては8割、あるいはもっと高い割合でデジタルに代用することが可能なレベルにまでなっている。

 レコーディングの一昔前のイメージでいうと、スタジオにバンドが集まってドラム&ベースのリズム録りから始まり、ギターを録音し、最後にボーカル。もしくはせーので一発録音してしまう。さらにはコントロール・ルームのエンジニアやプロデューサーと喧々諤々、朝方まで根を詰めて作業をする――そんな感じではないだろうか?

 今はもう――特にメタルの現場では――それはほとんど見られない光景となった。

 まず、ドラムを実際に叩いてのレコーディングはかなり減ったと感じる。レイヤーによっては叩く場合もあるが、ほとんどは打ち込み。打ち込みといっても、別にダンスミュージック的な音ではなく、あくまで生のドラムにしか聴こえないようなものが今ではサンプルとしてふんだんにあるのだ。しかも音がいい。はっきり言って。

 メタルにとって、高速でなおかつ正確なリズムを一曲にわたってキープし続けるのは、至難の技。もちろん名うてのプレーヤーが集まってこそのメタルバンドなので人力でやればできるのだが、多少のブレというのは生じるもので、いざ作品ともなれば、そういった疵はわずか一箇所でも許されない。そうすると一回録音したものを部分的に修正して、というやり方をするよりも、最初から打ち込んだ方が作業効率も上がるし、何より理想とするリズムがクリエイトできるのだ。

 ドラムにしろベースにしろ、それぞれのフレーズは個々のプレーヤーが考え、生み出しているが、レコーディング現場で実際に演奏をしている場面というのはかなり減ったのだ。

 では、ギターの場合はどうか。

 現状では、ギターだけはどんなにがんばってもなかなかデジタルに置き換えることができない、というのが正直なところだ。ストロークするときのアタックの強弱やフレットを押さえたときの微妙な力加減など、独特の揺らぎがあって、それがまた各ギタリストの個性として音に反映されやすい楽器であるがゆえに難しいのだ。同じように、トランペットやサックスといったブラスセクションや、ヴァイオリンなどのストリングスも完全なデジタル化はまだまだ改善の余地ありといったところだろうか。

 そう考えると、例えばアドリブなどを重視するジャズやファンクといったジャンルと比べて、より精度を高めていくメタルのデジタルとの蜜月具合がよくわかるというものだ。

デジタル化とともに進化するメタル

 実は、ライブにおいてもデジタル化は顕著になってきている。

 昔のメタルバンドのステージには、必ずと言っていいほどギターアンプがいくつも積み重ねられた光景があったものだ。いわゆる「マーシャル・タワー」というやつだ。しかし今は、アンプすら置いていないのが現実だ。アンプシュミレーターというものがあって、そこからダイレクトにPAに行き、他の楽器の音とミックスされた音がスピーカーから流れる。ちなみに、プロユースのアンプシュミレーターには、会場のサイズを想定したスピーカーの鳴り具合などがインプットされていて、アンプをいちいちセッティングしていた時代とは、音の再現における効率と正確さにおいて雲泥の差だ。

 そして何よりスピーカーがないということは、他の楽器の音との被りがないということで、よりクリアな音をオーディエンスに楽しんでいただけるという最大のメリットがある。

 このように、メタルはデジタル化とともに進化していっているのである。

 それはまた、録音やライブの技術に限った話ではなく、例えばSNSをはじめとしたネット文化との相性といった点においてもメタルのデジタル化は止まらない。

 そこには、メタル独特の村社会文化が大いに寄与していると考えられる。それまで、世界各地に点在する各村独自のメタルを村の外に伝達しようと思ったら、ごく限られた専門媒体しかなかった。ところが、YouTubeなどを通じて公開すれば、あたかも村を飛び越えた回覧板みたいな感じで、その筋には広がっていくのだ。

 言うなればデジタルによって可能になった「メタル大航海時代」の渦中に今まさにいるわけだ。

 

 そして、いよいよ「メタル大航海時代」の今、ワタクシも次なるステージに行かねばならないようだ。

 昨年から続けてきたこの連載もいよいよ次回でラストとなる予定。

 最後まで楽しみにしてほしい。

 

 いよいよ次回最終回!!!

 

メタルか? メタルでないか?
Illustration by ARIMETAL

<第16回に続く>

KOBAMETAL(コバメタル)〇プロデューサー、作詞家、作曲家。