「挫折した経験をプラスにするには、どうすればいい?」と悩んだときに読みたい、芸人・紺野ぶるまのエッセイ

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公開日:2021/7/11

「中退女子」の生き方 腐った蜜柑が芸人になった話
『「中退女子」の生き方 腐った蜜柑が芸人になった話』(紺野ぶるま/廣済堂出版)

 生きていると、思いもしない局面で挫折することがある。

 5月27日、松竹芸能所属の人気芸人・紺野ぶるまさんによる初のエッセイ集『「中退女子」の生き方 腐った蜜柑が芸人になった話』(紺野ぶるま/廣済堂出版)が刊行された。「中退女子」と銘打たれてはいるが、学校を中退した女性に限らず、悩みを抱えた人たちすべての支えになる書籍だ。

 幼い頃から病弱で、先天性の病気・卵巣嚢腫で2回手術したという紺野ぶるまさん。

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 タイトルの一部にある「腐った蜜柑」は、テレビドラマ「3年B組金八先生」の第2シリーズで、教師が不良少年の悪影響を喩えた表現だ。反抗的だった高校生時代の紺野さんを指して校長が言い、退学を通告したときの言葉でもある。学校側の判断で、「強制退学」ではなく「自主退学」になった。

 紺野さんはその後、すぐに芸人になろうと決めたわけではない。

 ニート生活を経て通信制高校に編入、高校卒業認定資格を得た。卒業後はモデルに憧れ、芸能事務所に所属する。しかしそこで高額なレッスン代と宣材写真代を支払わされ、騙されていることに気づいた。「お金の話が出たらまず疑わなければ」と紺野さんは学ぶ。

 新たな情熱を持ち芸人になってからも、彼女の人生は決して順風満帆ではなかった。

 ピン芸人最大の賞レース「R-1グランプリ」。決勝は全国のテレビで放送される。寝ても覚めてもR-1のことを考え、決勝に進むためのネタを考え努力していたが、決勝進出までに7年かかった。そして現実は「決勝にさえ行ければ人生一発逆転!」というわけでもなかった。

 自分より3年後輩のキンタロー。さんが、3カ月で売れたときはパニック状態になったという。しかし「経歴と実力は比例しない」という現実に打ちのめされても、考え方の角度を変えると異なる世界が広がっていた。

 紺野さんはキンタロー。さんを、天才子役と呼ばれた芦田愛菜さんに置き換えてみたのだ。それは「嫉妬するのはカッコ悪い」「“人の才能を認められる才能”くらいは持っていたい」という思いに繋がった。

 女性の芸人に限定した賞レース「THE W」では3年連続で決勝に進出したが、3年目で最低得点を叩き出した。当時を振り返り紺野さんは綴る。

“「3年連続で決勝に行ったのに0点だった爆弾級の恥ずかしさや不甲斐なさ」は、きっと誰にもわかってもらえない。わかるはずがない。だって、自分しか経験していないんだから”

 後輩に追い抜かれたときのように、見方を変えてみた。すると、そこには「自分にしかわからないことができた」という事実があった。

“これこそが一生懸命戦った証であり勲章である。これを大事に隠すも、本に書いたりトークで活かすも自分で決められる。なんだ、意外に悪くない”

“「知っていること至上主義」で生きていけば、負けてる人間だって特別になれる”

 紺野さんは、挫折を経験したからこそ、それをすべてプラスの方向に変えていく力を身につけたのだ。これは芸能人ではなくても使えるスキルなのではないだろうか。

 とはいえ、疲れたとき足を止めることは紺野さんにもある。「今日も12時間寝ちゃった。みんなが働いてるときに私なにやってんだろ」と辛くなった日には、「人類皆アーティスト。生きてるだけで二重丸」と思えば自分を嫌いにならずに済むと紺野さんは述べる。

 本書には、他にも母親との関係の変化や結婚までの経緯、SNS護身術など、自らの経験を土台にした再現性のあるエピソードが掲載されている。

 辛い過去をなかったことにするのも、生かすのも自分しだい。そう思うと、読者である私たちも自然とパワーが湧いてくる。

文=若林理央