怒涛の9カ月連続放送! 今の『転スラ』を見逃すな!――『転生したらスライムだった件 転スラ日記』生原雄次(監督)インタビュー

アニメ

公開日:2021/7/12

転生したらスライムだった件 転スラ日記
TVアニメ『転生したらスライムだった件 転スラ日記』 (C)柴・伏瀬・講談社/転スラ日記製作委員会

 スライムに転生してしまったサラリーマンが始める新しい異世界ライフ! 主人公リムルは彼を慕い集った数多の魔物たちと<ジュラ・テンペスト連邦国>を建国し、「人間と魔物が共に歩ける国」というやさしい理想を形にしつつあった。だが、この世界には、魔物に対して敵意を向ける存在がいた――。

『転生したらスライムだった件』は著者の伏瀬が小説投稿サイト「小説家になろう」で連載し、人気を集めた作品。川上泰樹によるマンガ版が執筆され、そのマンガ版をベースにアニメ化が行われた。アニメの第1期は2018年10月からスタート。第2期の第1部が2021年1月から3月まで放送され、4月からはスピンオフ作品『転生したらスライムだった件 転スラ日記』のアニメ版も放送。そして第2期の第2部が現在放送中だ。

 今回のインタビューは『転スラ』シリーズ(以下、本編)でグラフィックデザイナーとして、「大賢者」など本作の重要なパートを担当する生原雄次にインタビューを実施した。その仕事ぶりがあまりに多岐にわたるため、例えば社内では「撮影行き」「CG行き」などの管理名も「生原行き」となるなど工程が個人名になっているという。『転スラ日記』で監督を務めた生原氏に、『転スラ』シリーズの関わり方をたっぷり語っていただいた。

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「大賢者」のシーンでは、あえてデジタル的なアプローチをしないように作っています

――生原さんはアニメ『転生したらスライムだった件』には第1期から深く関わっていらっしゃいます。まず、最初にこの作品と出会ったとき、どんな印象をお持ちでしたか。

生原:これまでファンタジー小説を読んだことがなくて、『転スラ』で初めてこのジャンルに触れました。実際に読んでみて、マンガ的な面白さと小説的な時間軸の壮大さがあって、とても面白いと感じました。数多くのキャラクターが出てきて、読者を片時も飽きさせない。転生した世界は生きるだけでも精いっぱいの過酷な場所なんですが、主人公のリムルが現代人っぽい感覚を持っていて、常に余裕があるんです。「大賢者」というすごいスキルを持っているからかもしれないですが、平和を知っている人だから持っている、心の鷹揚さがあります。異世界の人びとにはちょっとズレた存在だけど、そこがとても魅力的に見えるんですよね。その描き方がとても面白くて、現代で生きる私たちにも共感できる作品だなと思っていました。

――生原さんが共感したポイントはどこでしたか?

生原:私が仕事人間だというのもあるんでしょうけど、リムルと仲間の距離感は、仕事の同僚のような雰囲気があるんです。みんなそれぞれ得意技を持っていて「頼むぞ」というと、すぐに「任せろ」と返事をしてくれる。みんなが活躍できる場があって、それぞれが活き活きしているところが、読んでいて気持ち良いです。

――生原さんは第1話からCGIプロデューサー/グラフィックデザイナーとして活躍されています。あらためて生原さんのお仕事をご説明していただいてもよろしいでしょうか?

生原:この作品に参加することになって、最初に監督(菊地康仁/第1期監督)から相談を受けたのが「大賢者」のパートでした。「特徴的なキャラクターなので、その表現を独特なものにしたい」という話があったんです。じゃあ、どういうふうにしようかと。あまりCGっぽくもしたくないし、かといって作画で表現するのも難しいだろうと。そこで「頭の中の世界」を描こうと思ったんです。私はもともとモーショングラフィックスや実写の仕事、クラブのVJをしていたので、音楽に即興で映像をつける仕事を長くやってきました。そういうインスピレーションを重視した感覚でやってみようかなと。眼を閉じると、誰かが語りかけてきて、自分の脳みその中にいる自分が忘れかけている記憶まで引き出してくれる。そのイメージをビジュアルとして表現してみようと思っていました。

――その想念の世界をどのように作っていったのでしょうか。

生原:「大賢者」のシーンって、画面全体にチリチリとしたノイズが光っているんです。あれは、明るいところで眼を閉じると、チリチリとした残像が見えることがあると思うんですが、そういう表現を入れることで生っぽい映像にしようと思ったんです。

――「大賢者」のシーンではさまざまな形の図形が出ます。そこについては、どのように考えていましたか。

生原:あの図形を描くときは……まずパッと眼をつぶって脳裏に浮かぶものを、身体全体を動かしながら、身振り手振りで表現するんです。そうやってかたちが見えてきたら、デザインをしています。

――身振り手振りで図形を描く。ダンスの振付のようですね。

生原:あえてデジタル的なアプローチをしないようにしているんです。できるかぎり生々しさが画面に残るようにしていました。「大賢者」は、序盤は自我がないように描かれているんですが、自覚がないだけで無意識の中にちょっとだけ自我があるのかなと。機嫌が悪いときは雑なCGになったり、多彩な記憶を引き出したときはこってりとしたCGになったりすることで、「大賢者」のキャラクター性を出そうと思っていました。

――「大賢者」シーンの分量はとても多いと思うのですが、制作チームの中には「大賢者」担当チームがあったりするのでしょうか?

生原:「大賢者」は私がひとりでやってます(笑)。ファンのみなさんが期待しているシーンだと思うので、限られた制作時間の中で最大限にできることをやろうと考えています。

――第2期に放送された第35話「魔王誕生」で「大賢者」は「智慧之王(ラファエル)」に進化します。ここもまたグラフィックデザインの見せ場でしたね。

生原:あのシーンは原作の小説でもコミカライズ版でも、「大賢者」が進化に何度も失敗するところが印象的だったので、限られた尺(時間)でたくさんの失敗を表現するにはどうしたら良いだろうと。画面を分割することで、たくさんの失敗を重ねたことを表現しています。

――まさに「大賢者」のシーンの最大の見せ場でしたね。生原さんは「大賢者」のシーン以外では、どんなところを担当されているのでしょうか。

生原:魔法陣のデザインは、私が全部担当させてもらっています。魔法やシーンの意味をもとにかたちや文字を考えています。わかりやすいところでは、ヒナタの神聖魔法「霊子崩壊(ディスインテグレーション)」のシーン(第2期第31話)は魔法陣のデザインをしたあとに、魔法陣を動かすように撮影処理を担当しました。

――デザインだけでなく、撮影まで担当されていたんですね。

生原:特殊なカットでは撮影も含めて、担当させてもらっています。あと、テロップや筆文字も担当しています。

――え? リムルたちが必殺技を放つときに表示される筆文字は……生原さんが書かれているんですか?

生原:そうです。私の机の横には、墨汁と筆があります(笑)。私が担当しているのは3DCGだけじゃなく、2Dだけでもない。その全般を指して、グラフィックデザイナーという役職になっているんです。

転生したらスライムだった件 転スラ日記

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『転スラ日記』では原作の柴先生の魅力を映像へ込めていこうと考えていた

――『転生したらスライムだった件 転スラ日記』では、生原さんは監督を務められています。こちらで監督に就かれたのは、どんな経緯があったのでしょうか。

生原:メーカーさん(バンダイナムコアーツ)から『転スラ日記』をアニメ化するという話をいただいたときに、うち(エイトビット)で作ることができるかどうかという会議を行いました。私自身はアニメに関わって今年で5年目になりますが、エイトビット以外ではアニメの制作に関わったことがないんです。映像をまとめたり、若手の教育をすることは経験があるのですが、それぞれのカットのタイムシートを見ながら映像を作っていくことはしたことがありませんでした。そこで、アニメーションディレクターとして井之川慎太郎さん、登坂晋さんのふたりに入っていただいて、話し合いながら作っていこうと。従来のアニメの作り方とはやや違う形でチャレンジすることにしています。

――『転スラ日記』をどんなアニメにしようとお考えでしたか。『転スラ』の原作者・伏瀬先生や、『転スラ日記』の著者・柴先生とはどんなやり取りがありましたか?

生原:伏瀬先生は、柴先生に信頼感を持っていらっしゃるということでしたので、私たちは柴先生とやり取りをすることで、この作品を作っていきました。この作品は、柴先生のセンスが大きな魅力になっていると思います。ですので、アニメ化にあたっても、柴先生の魅力をどれだけ丁寧に映像へ込めていけるかがポイントだと思い、できるかぎりの柴先生の良さを出せるようにしていきたいと考えていました。

――柴先生の魅力とは、どんなところだと思いますか?

生原:『転スラ』のキャラクター性を損なわず、デフォルメしているところです。角を立たせずに魅力的にふくらませるところが素晴らしいと思いましたし、ダイナミックな見せ方をしているところも、イヤミやアクの強さを感じさせないんです。『転スラ』本編はバトルシーンもある派手な物語ですが、それを丁寧に描いていくと、優しい瞬間が見えてくる。楽しいシーンでも、どこかにせつなさが織り込まれているところが魅力だと思います。

――今回、脚本はコタツミカンというクレジットになっています。柴先生の魅力をシナリオに落とし込むにあたり、どんな体制で脚本執筆を行ったのでしょうか。

生原:今回、社内のスタッフでチームを組んで脚本を作っています。マンガからセリフを抜き出し、そして構成していくうえで、みんなでチェックをし、確認をしたり、自分も含めて、みんなで脚本を作っています。こたつを囲んでミカンを食べているような和気あいあい感を表現したくて「コタツミカン」という名前にしました。

――コタツミカンは、エイトビットのペンネームなんですね。

生原:もちろん外部のシナリオライターさんに依頼することも大事だと思うのですが、エイトビットがアニメの制作会社であるうえで、スタッフがシナリオを読解したり執筆したりする能力が必要だろうと常々思っていたんです。社内の体制を作るという意味でも、とても重要なアプローチだったと思います。私自身も『転スラ』本編を制作しているときに、家のあちこちに原作を置いて少しでも時間があったら、原作を読むようにしていたんです。たぶん、この2~3年に全話を4周以上読んでいると思います。そうやって深くまで読み込んできた世界観だったので、今回は一石を投じることができるんじゃないかと思っていました。