怒涛の9カ月連続放送! 今の『転スラ』を見逃すな!――『転生したらスライムだった件 転スラ日記』生原雄次(監督)インタビュー
公開日:2021/7/12
ふたりのアニメーションディレクターの個性が作品のメリハリとなる
――今回、井之川慎太郎さんと登坂晋さんのおふたりがアニメーションディレクターとして立たれています。おふたりの役割分担はどのように考えていらっしゃったのでしょうか。
生原:シナリオと絵コンテの発注までを私が担当しているのですが、そこから上がってきた絵コンテを、私とアニメーションディレクターのふたりで、あーだこーだと話をしながら3人で修正をしています。私とアニメーションディレクターがいっしょにモノづくりをしているパートですね。「この作品はどうすべきだろう」「この作品の表現はこういう方向性だよね」とたくさん話をすることで、作品の方向性が決まっていきました。そこから先は分担作業になっていて、1、2日記、6,7日記、12日記が井之川さんの担当、3日記、5日記、8日記、11日記が登坂さんの担当話数になっています。4日記はゲストとして山本裕介さん(「ヤマノススメ」「ナイツ&マジック」監督)にお願いしました。レイアウト(構図)は私もポイントごとにチェックをして、そこから先のセル(動画)になるまでをアニメーションディレクターを中心に作業を進めてもらっています。ここは、いわゆるアニメ制作のセオリーに基づいた作り方ですね。その後、セルがあがってきたタイミングで私がまた入ってきて、美術の打ち合わせや、撮影作業を進めていきます。そうやってそれぞれの得意分野を活かした作り方になっています。
――絵コンテチェック、レイアウトチェック、撮影まで生原さんの受け持ちは幅広いんですね。アニメーションディレクターのおふたりは、どんな持ち味があるとお考えですか。
生原:各話の味付けの部分に関しては、アニメーションディレクターのふたりとも特性をお持ちなので。それぞれ得意な表現をふくらませてくださいました。登坂さんはとにかく緻密に作ってくださる、ドラマティックなシーンが得意な方。担当する話数は緻密なつくり込みが必要だったり、画としての雰囲気をしっかりつくるところが多いんです。とくに5日記の花火のエピソードは背景の屋台がほぼ3DCGで描かれているので、作画(キャラクター)と3DCGをうまく混ぜて見せるのが大変だったんですね。しかも、キャラクターたちは浴衣で、衣装も普段と違う。浴衣には模様を貼り込まないといけない。画の素材が多岐にわたるので、これは作画、これは3DCG、これは背景、と指示をしっかり出さないと現場が混乱してしまう。素材の管理を登坂さんがビシッっと抑えてくださいました。もともと作画出身の登坂さんは、上手くいっていないカットなどの場合は登坂さんがガッツリと描いてくださる。そうやって作品全体のクオリティをグッと引き上げてくださいました。
――登坂さんは緻密なお仕事で作品のクオリティを支えてくださったんですね。
生原:登坂さんはアスリートのような方で、朝早いんですよ。朝4~5時くらいに起きていて。ランニングしたり、ジムに行って体調をきっちりと整えてから、スタジオに入って仕事を始めるんですね。早くから仕事を始め、夜にはきっちりと仕事を終える。そういうタイプの方なのでとても気持ちよく仕事ができています。
――もうひとりのアニメーションディレクター・井之川さんはどんな方なんでしょうか。
生原:井之川さんは感性の人です。業界歴が長い方なのですが、とにかくおもしろいことや劇的なこと、人情噺がすごくお好きです。それが顕著に出ているのが、7日記ですね。ミリムが登場する回なのですが、絵コンテだけでなく演出も井之川さんが担当してくださって、最初から最後までずっと面白い話数になりました。ミリムという本作のキーマンが登場することで、シリーズ全体のリズムが変わるような感じがあります。それぞれのカットに対しても、「細かい合わせよりも、もっとぶっ飛んだほうが面白くないですか?」と新しい提案をしてくださる。登坂さんと井之川さんは、そういうところで対照的な演出家なので、シリーズとしてもメリハリが効いたものになりました。最初は作業の負担を減らすことを目的として、ふたりのディレクターを立てたのですが、結果的には「全員野球」になってしまいましたが(笑)。誰もあきらめないし、とにかく丁寧にやろうと。同じ方向を向いて一致団結できたかなと思います。
――今回のキャラクターデザインは髙井里沙さん、入江篤さんです。本編からデザインを一新したのはなぜでしょう。
生原:本編のデザインをそのまま使う案もあったんです。でも、柴先生がつくっている作品の良さは、お話だけでなく、画の良さもあると思うんですね。マンガというものは、お話と画の二軸がセットになって、その面白さを生んでいます。ならば、画も柴先生のタッチに寄せていくべきだろうと。アドバイザーとして入ってくださった菊地監督(本編第1期監督)からも「やっぱりこの作品は面白いから『転スラ日記』単体でちゃんと勝負しよう」とご意見をいただいて。原作の柴先生の絵をできるかぎり良い雰囲気でアニメーションに落とし込んでいこうということになりました。メインのキャラクターを担当してくださっている髙井さんは、かわいらしいキャラクターを描くのがとても上手な方なので、早い段階からお願いすることにしていました。今回のキャラクターデザインで一番難しいのは、おじさんたちがたくさん出てくることなんです。おじさんたちはリアルでもあり、かわいくもある。そのバランスが難しかったので、ランガやゲルド、亜人たちのキャラクターデザインを入江さんにお願いしました。そもそも入江さんはキャリアも実力も雲の上のような方なのですが、ひとりずつの表情や雰囲気を丁寧に綺麗に描いてくださって、とてもいいかたちにまとめてくださいました。その中でもランガは、獣(嵐牙狼族)としての表情のベースラインを作ってくださって、アニメとして描きやすい線の数でありながら、ちゃんと情報量のあるフォルムを構築していただきました。コミカルでありながらもかわいらしいキャラクターになったと思います。おふたりのデザインには本当に助けられました。
シナリオから絵コンテ、CG、撮影まで丁寧な仕事が、作品のクオリティにつながる
――生原監督は、グラフィック面でどんな作業をされているんですか?
生原:貼り込み素材をいろいろと作りました。たとえば、1日記にクロベエが包丁を持ってくるのですが、それを包む布の模様をデザインしています。大きな蛾の模様で「オーガ」。その下に鍛冶道具をデザインして、クロベエらしい和風の意匠の風呂敷にしました。こういった、ちょっとしたものをデザインしていくことで、私の中で世界観が成立していくんです。
――おもしろいです。まさに「細部に神は宿る」ですね。
生原:エイトビット社内には美術班がありまして、今回3DCGに貼り込むテクスチャーもこのチームで描いているんです。たとえば「スナック樹羅」にはたくさんお酒が並んでいるんですが、そこのお酒のラベルもウィスキー、ウォッカ……全てデザインしています。あと、クレイマンが紅茶を飲むシーンでは、ティーセットにも仮面デザインにしておいたり……。
――『転スラ日記』のディテールを見ていると、本編の世界観がより深まっていく感じがあります。
生原:そうですね。本編ではほとんど語られていませんが、魔国連邦(テンペスト)には建築物がいろいろあって、そのバックボーンが『転スラ日記』で描かれているんです。あわせて本編を見ていただくと、より深く楽しめるようになっている。それも『転スラ日記』の面白さのひとつだと思っています。
――キャラクターたちの関係性など、本編ではあまり見せない一面も『転スラ日記』では楽しめますね。
生原:そうですね。たとえば、シュナとシオンは恋敵みたいに描かれるところもあれば、姉妹のように描かれるところもある。『転スラ日記』におけるふたりを見ていると、いっしょに長く生きているからこその絆のようなものが感じてもらえるんじゃないかと思います。
――スタッフの中で人気のキャラクターはどなたですか?
生原:私たちのチームでは「ちょんまげちゃん」が出てくると盛り上がりましたね。今回の『転スラ日記』では「ちょんまげちゃん」には、ココブという名前が付けられたんですが、あちこちにココブが出ているので、一度『転スラ日記』をご覧になった方も観直して探してみてください。あと、マニアックな視点で言うと、『転スラ日記』のオリジナルキャラクターでアキナというゴブリナがいるんですが、そういったキャラクターを出すことで作品の世界をちょっとだけ広げてみようと。そういう新しいキャラクターは画が崩れないようにしようと注意しています。
――『転スラ日記』は音楽(劇伴)もとても印象的です。エピソードによっては挿入歌も使われていました。音楽の方向性はどのように考えていたのでしょうか。
生原:私はもともと音楽の仕事を長くやってきたのですが、今回は音楽もいろいろとリクエストを出させていただきました。各エピソードに流れる曲のチョイスも担当させていただいています。とくに映像と音楽を合わせるシーンがあったので、そういうところは具体的に雰囲気やイメージを作曲家さんにお伝えしています。
――5日記の挿入歌「ヨイハナビ」、第11話の挿入歌「Christmas Festa」はとても印象的でした。
生原:5日記はシリーズ的にも山場を作りたいねということで、挿入歌を入れることにしました。ED曲もふくめて歌モノが4曲。挿入歌が入るところは、『転スラ日記』らしく楽しいシーンを表現できるのではないかと思っていました。
――監督という立場でご覧になって『転スラ日記』の現場の印象はいかがでしたか?
生原:スタッフのみんながすごく頑張ってくれたと思います。たとえば、もう本編ではなかなか出番のないクロベエですが、今回は彼が剣を打つシーンがあるんですね。そこで彼が打つモンスターみたいな剣をCGIディレクターの相澤(楓馬)くんたちが力を入れて作ってくれて。社内の美術班の福田さんがテクスチャーを一生懸命描いてくれました。クロベエも入江さんがしっかりと描き込んでくれましたし、スタッフ一同がクロベエのために力を注いでいる光景は、本編ではなかなか見られないので、『転スラ日記』らしくて良いなと思っていました。
――本作は9ヵ月連続『転スラ』放送の2作目となります。生原さんはおそらく『転スラ』第2期第2部のほうにも関わるところもあるのではないかと思いますが、意気込みをお聞かせください。
生原:第2期第2部はみなさんがずっと気になっているところがいろいろと出てくると思います。みなさんに楽しんでいただけるよう、最大限に模索しながら作っていきたいと思っています。
取材・文=志田英邦
生原雄次(はいばら・ゆうじ)
監督、CGIプロデューサー、グラフィックデザイナー。エイトビット所属。『ナイツ&マジック』でCGプロデューサーを務めるかたわら、エンディングアニメーション ディレクションを担当。以来、エイトビット作品のCGチームを取りまとめる。『転生したらスライムだった件 転スラ日記』で初監督を担う。