「いや、さかなやのに歩くんかい!」 思わずツッコミたくなる世界一おもしろい「おさかな図鑑」
公開日:2021/8/11
関西出身の友人が、関西人だからといって世間話にまでオチを求められても困ると愚痴をこぼしていたことがある。なるほど確かに彼の話はとても一般的な調子だから、さぞ風評被害に苦しめられたことであろう。でも、『おもしろすぎる! 海の仲間たち ツッコミたくなるおさかな図鑑』(さかなのおにいさん かわちゃん/ワニブックス)の監修者である、鹿児島大学総合研究博物館の館長・木村浩之先生は、本書の作者を「絵心があり、海の生き物の生態にも詳しく、そして関西人(!)です」と紹介している。実際、1種類につき見開きページの中身は左側に「おもしろさ最優先」の一コマ漫画のようなイラストが載っていて、右側に解説文と、関連した4コマ漫画だけでは終わらず、どの魚にも「ツッコミ」が入り、さらに「オチ」までついてるもんだから、面白いったらありゃあしない。そして、解説文はもちろん漫画もすべての漢字にフリガナが振ってあるため、小さい子供でも読むことができ、魚の多様な生き方などは親子の話題にもピッタリだろう。
産まれて、育って、独り立ちするまで大変だー!!
サメは漢字で「鮫」と書き、それは魚には珍しく交尾するから作られたという説がある。そして、映画『ジョーズ』で有名な「ホホジロザメ」は、お腹の中で卵から孵ると、先に産まれた子ザメが他の卵を食べたり、子ザメ同士で戦ったりと過酷な生存競争を経てようやく産まれるのだ。「生まれて0秒で弱肉強食かい!!」とツッコミが入るくらい、産まれる前から超絶バトルロイヤルなんである。
チョウチンアンコウの一種「ミツクリエナガチョウチンアンコウ」は、メスに比べてオスが小さい。そのオスはメスを見つけると体にカブリと噛みつくという、乱暴な求愛行動をとるそうだ。するとなんと、しだいに血管がつながりオスはメスの体へと吸収され、精巣だけが卵巣に辿り着いて受精するんだそうな。究極のヒモ状態であるが、「いや、その愛 怖すぎ!!」というツッコミはごもっとも。
もともとは食用として輸入された「ブラックバス」は、現在では生態系に被害を及ぼす特定外来生物として悪者として扱われるようになってしまった。しかし実は、苦労人ならぬ“苦労魚”なんだそうで、オスが巣を作ってメスと出会い繁殖すると、メスは卵を産んでバイバイ。父子家庭で子育てをし、少し育ったらまだ幼い子供たちを大きな口で食べるフリをして巣立ちさせるという。「パパの愛やったんや……」というツッコミに、なんだか切なくなってくる。
美味しい魚の秘密あれこれ
土用の丑の日で知られる「ウナギ」は、マリアナ諸島の海で生まれ、黒潮に流されて日本までやってくる。そんな生態が判明したのは、わずか10年ほど前のことだそう。不思議なことに養殖すると99%がオスになり、成長した天然のウナギは産卵する場所までの約1500~2000キロの距離を何も食べずに泳いで、新月の夜にオスとメスが出会い、産卵して命を終えるというから、なんともドラマチックだ。でも、「いや、なんか食べて!!」とツッコミたくなるのは分かるし、聞いているだけで腹が空く。
俗に「左ヒラメに右カレイ」と云われているが、これは日本だけの見分け方で、実のところ左カレイもいるという。じゃあどこで見分けるのかというと、口に注目。アジにも噛みつくというヒラメは大きな口をしており牙が生えていて、カレイは釣り餌に使われる砂の中のイソメ(その体は細長い形状だ)を食べるので麺をすするようなおちょぼ口をしているのだとか。ツッコミの「性格が顔に出るんかい!!」には、自分も気をつけようと思った。
毒に“当たる”と死んでしまうから江戸時代に“鉄砲”と呼ばれた「フグ」は、鉄砲の刺し身で“てっさ”、鉄砲のチリ鍋で“てっちり”と呼ばれ、料理の名前からして怖い。それでも食べようと工夫したのだから、日本人の食へのこだわりは怖いもの知らずもいいところ。そんなフグの毒を世界で初めて解析したのも日本人で、フグの毒は毒を持つ生き物を捕食して溜め込む“生物濃縮”によるものであり、養殖ならば無毒のフグに育つという。ただし、身を守る毒が無いと不安感を抱くのか、精神的に超不安定になる模様。フグへのツッコミは「毒以外にも心の支え つくって!!」で、なんともご無体な。
「5億年て長すぎやろ!!」
このツッコミは、最大で体長10ミリの世界中どこにでもいる「ベニクラゲ」に向けたもの。普通のクラゲは老いると溶けて無くなるのに、なんとベニクラゲは寿命になると若返りを繰り返し、5億年生きている個体もいるらしい。しかも、遺伝子の形は人間とさほど違わないそうだから、「いつか人間が不老不死になる日も近いかも!?」と作者は述べている。しかし、本書の「どうしても伝えたいDE章」には、「2048年には海から食用魚がいなくなるかもしれない」という環境問題のことが載っており、海を取り巻く問題について考えさせられる。本書は面白いだけではない、真面目な一面も持ち合わせた意外な一冊だった。
文=清水銀嶺