自分のいる世界の醜さを痛感した中学時代。 “普通の学校”には給食の奪い合いなんてないのだろうか?/生きてるだけで、疲労困憊。③

文芸・カルチャー

公開日:2021/7/23

rei著の書籍『生きてるだけで、疲労困憊。』から厳選して全9回連載でお届けします。今回は第3回です。大学在学中に発達障害と診断された“陰キャ・オタク・非モテ”の発達障害会社員”。しんどい社会を少しでも楽に生きる…そんな考え方が詰まった珠玉のエッセイです。

本記事には一部不快感を伴う内容が含まれます。ご了承の上、お読みください。

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生きてるだけで、疲労困憊。
『生きてるだけで、疲労困憊。』(rei/KADOKAWA)

給食の奪い合いによって気づいた自分のいる世界の醜さ

 中学に入学して間もなく、ムシくんのただでさえ痩せていた身体が、さらにガリガリになっていった。ムシくんが成長期に突入してカロリー必要量が増えたのにもかかわらず、ムシくんの親はご飯の量を増やさなかったからだ。

 ムシくん本人は気にしてないようであったが、ケイくんと私はムシくんの腕を掴む度にその細さと弱々しさにギョッとしていた。

 そこで私とケイくんは給食では誰よりも早く食べ終わり「おかわり」という形で食料を確保し、それをムシくんに食べさせることにした。

 ムシくんは「こんなに食べられない」「遅いと先生に怒られる」と文句を言っていたが、家に持ち帰ったり、ケイくんに強引に口に押し込まれたりしながら、なんとか無事に食べていた。そしてムシくんの腕は太くなった……とは言えなかったが、「ガリガリ」から「すごく細い」レベルにまでは回復する。

 ケイくんは自分が「おかわり」が食べられないことに度々不満を漏らし、私は飯を早くかきこみすぎてムセたりこぼしたりが絶えなかったが、それでもこの試みは上手く行ってる……と思っていた。

●「愛されている組」と給食の奪い合い

 親に愛されている組のクラスメイトに弟が生まれたことで事態は一変する。以後、そのクラスメイトはアニくんと記す。アニくんは弟ができてから親に全然気にかけてもらえなくなり、満足な食事がとれなくなったようであった。

 親に愛されている組の生徒も「アニくんに飯を食わさないとマズイ」と判断したらしく、私達より先に給食を食べ終わって「おかわり」をアニくんに回すようにした。

 当然これは問題になる。このおかわりの取り合いは、一見すると「親に愛されている組と愛されていない組どちらが早く食い終わるかゲーム」のような感じであり、先生もそう認識していたようであったが、もちろんこれはゲームで済まされる問題ではない。

 一週間ほど私達の負けが続いた日、誰よりも早く食べ終わっておかわりを確保した親に愛されている組の生徒を、ケイくんが殴り倒した。

 乱闘になった。アニくんを除く親に愛される組の生徒はケイくんに一斉に飛び掛かったが、腕力が強く喧嘩慣れしてるケイくんには敵わず、ことごとく返り討ちにあう。それでもアニくんを守るためであろうか、親に愛されている組の生徒は何度ケイくんに殴り倒され、転ばされ、投げられてもケイくんに挑み続けた。

●普通の学校に思いを馳せる

 私はその光景をポカンと眺めていたが、同じくポカンと眺めていたアニくんと目が合い、どちらからともなく殴り合いを始めた。いや、殴り合いにはならなかった。アニくんの身体は細く腕力も全然なかったので、あっという間にアニくんは私に組み伏せられたのだ。私はアニくんに馬乗りになって拳を振るいながら、ムシくんより幾分はマシとはいえ、その非力さと、肉がないが故にダイレクトに拳に伝わる骨のコツコツした感触にゾッとしていた。

 ふと窓を見ると、そこには血走った眼をしている自分と、涙を流しながら弱々しく抵抗を続けるアニくんの姿、憤怒の表情で暴威を振るうケイくんと恐怖の表情を浮かべ涙と鼻水を垂らしつつもそれに立ち向かう親に愛されている組の姿が映っていた。

 その様子を眺めながら私はふと「普通の学校ではこんな光景はないのではないか?」と思った。充分な物資と愛情のある環境では、それを奪い合うこともなく、互いに分け合うことができるのではないだろうか? と。

<第4回に続く>