ローランド「写真を撮らなきゃ覚えられないものは、自分にとって不要なもの」美学と哲学が詰まった『君か、君以外か。』に込めた想い

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更新日:2021/11/11

“現代ホスト界の帝王”と呼ばれ、現在は実業家として幅広く手腕を発揮するROLAND(ローランド)さん。2019年に刊行された初の著書『俺か、俺以外か。ローランドという生き方』(KADOKAWA)は30万部を突破し、独自の美学と哲学から成る名言も注目を集めている。「この世界を少しでも明るくしたいと思って書いた」という2作目『君か、君以外か。君へ贈るローランドの言葉』に込めた想いとは?

(取材・文=立花もも 撮影=内海裕之)

君か、君以外か。君へ贈るローランドの言葉
『君か、君以外か。君へ贈るローランドの言葉』(ROLAND/KADOKAWA)

――コロナ禍で暗くなってしまった世界を、言葉の力で少しでも明るく照らしたい、と思ったのが今作を書いたきっかけだとあとがきにありましたね。

ローランド ありがたいことに1作目がよく売れてくれたので、コロナ禍以前から編集者の方から「ぜひ2作目を」と言われていたんですよ。書くのはあまりに大変な作業だったからもう二度とすることはない、って思っていたけれど、そこはほら、喉元過ぎればなんとやら。反響が大きかったのは素直に嬉しかったですし、やる気にはなっていたんですが、なかなか書き進められなかった。実をいうと、最初はミニマリズムをテーマにするつもりだったんですよ。

――〈最小限で最高級の生き方をするために〉ミニマリズムを選んだと第4章にも書いてありました。

ローランド ミニマリズムを“持たない暮らし”じゃなくて“持てない暮らし”でしょ? って思っている人もいますけれど、そうじゃないんだってことを伝えたかった。僕だって資産家というわけじゃないけれど、生活に困らないだけの経済力はある。それなりに豊かに暮らしているからこそ、生活をモノで埋める必要なんてないんだ、あえて持たない暮らしを選んでいるんだってことに特化した本にするつもりだったんだけれど……書けなかった(笑)。

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――なぜ書けなかったんでしょう。

ローランド 僕が書くべきことじゃなかったってことなのかな。それよりも、SNSのせいで心を病んでしまった方のニュースを見たり、新型コロナウイルスの感染状況が拡大したり、世の中が全体的に暗く沈んでしまった今、僕がするべきことは、読んだ人が少しでもいいから前向きになれるような本を出すことなんじゃないかと思った。僕には歌やダンスでみんなを励ますことはできないけれど、磨き上げてきた言葉という武器がある。今こそ、その力を発揮するべきなんじゃないかと。

――ミニマリズムのことだけでなく、ローランド流ポジティブシンキングや仕事論、デジタルデトックスなどさまざまなテーマで書かれていますが、とくに力を入れたエピソードはありますか?

ローランド そうだなあ。人って、なかなか他人に弱みを見せられないじゃないですか。みんな何かしらのコンプレックスを抱えていて、隠したり強がったりしながら生きている。本当の俺はカッコ悪いんだよ、なんて、自信のある人しか言えない。『俺か、俺以外か。』を書いたときがまさにそうで、ちょっとカッコつけちゃった部分があったけれど、今回はさらけだしました。僕だって人間だから、人並みにコンプレックスもあるし、悔しい経験もしてきている。だけど、それをひとつずつ克服することで今に辿りつけたんだってことを。

――ホストとしての新人時代、なかなか結果が出なかったからこそ、徹底的に仕事に向きあえた。前例を知らないからこそ、驚異的な成功をおさめられた。コンプレックスが強いのは自分に対する理想が高い証で、何も恥ずべきことじゃない……。ネガティブな状況にも光を照らす言葉が、たくさん綴られています。

ローランド どんなに悲観的な状況でも、考え方次第で明るく振る舞うことはできる。生まれつきポジティブな人間ではなくとも、そういうクセをつけていくことが今の時代にいちばん大切なんじゃないのかな。コロナ禍で、夜の世界も窮地に立たされたけれど、「なぜこの仕事を続けるのか?」と自分を見つめなおすチャンスでもあったと思う。人って、やめるための特別な理由がないと、なんとなく働き続けてしまうでしょう? でも業界自体が追い詰められていくなかで「それでもこの仕事を続けたい」と思うのか、「こんな我慢をしてまで働きたくない」「もっとやりたいことがある」となるのか……。心の声に耳を傾けるいいきっかけになった人もいるんじゃないかな。

――確かに、コロナを機に新しい商業形態を取り入れたり、副業を始めてみたり、行動に出る人も増えましたよね。

ローランド よく言うでしょう、“できない理由”ではなく“できる理由”を探せ、って。緊急事態宣言とか時短営業とか「それだったらしょうがないね」と誰もが納得してしまう“できない理由”は、探さなくてもそこかしこに転がっている。それに比べて、“できる理由”は少ないんですよ。砂漠で砂金を探すようなものかもしれない。だけどそれでも、たとえば空きテナントを押さえるなら今がチャンスだとか、オンラインで新規事業を展開しようとか、勝機を見つけられた人だけが成功をおさめるんだろうと思います。厳しい言い方をしてしまうけれど、できない、わからない、ばかりを口にしていたら時代に淘汰されてしまう。そうならないためには発想をどう転換したらいいのか。僕の言葉が一歩を踏み出すきっかけになってくれたら、こんなに嬉しいことはないですね。

――仕事論でいうと、トップは減点方式で評価されてあたりまえ、というところにはっとしました。99点をとって責められて、こんなに頑張っているのにと思うなら、2番目以下にいるべきなんだと……。どうしてそこまでストイックになれるのでしょう?

ローランド それをストイックだと思うのなら、トップには向いていないってことじゃないですか? ……なんて、偉そうな言い方をしてしまいましたけれど、僕にとっては誰かの下で働くくらいなら99点をとって責められた方がマシなんですよね。昔、レストランやコンビニでアルバイトをしたこともあったけれど、すぐクビになったし、つくづく人に使われるのが向いていない性格だなと実感したので(笑)。雇われることで守られている安心感をとるか、最終的な責任をすべて負ったうえでの自由をとるか、ってことですよ。

――自由にやりたいけれど、批判されたくもない。は、通らない。

ローランド それは南国でバカンスして「暑い」って文句を言ったり、「痩せたい」ってルームランナーを走りながらアイスを食べたりするようなものですよね。

――耳が痛いです(笑)。

ローランド 貪欲になるのはいいことだけれど、“どっちも”が無理な場合はありますからね。何かを得るためには何かを捨てなきゃいけないときもある。

――デジタルデトックスやミニマリズムによって余分なものを捨てることも、何かを得るためだったんですか?

ローランド デジタルデトックスをしようと思ったのは、単純にスマホを見る時間がもったいないなと思ったんですよね。ホストにとってスマホは大事な営業ツールだから、現役時代はとくに四六時中、スマホを眺めて過ごしていた。このままじゃ、死ぬときもLINEの新着通知やAmazonのおすすめリストが走馬灯のようによぎって終わるんじゃないか、そんな人生、めちゃくちゃ小さくてつまんねぇな、と。そんなとき、デジタルデトックスというものを知って、試してみたらようやく人間らしい生活を取り戻せたような気がした。本にも書きましたけれど、今、僕にとっていちばんの贅沢はスマホを置いて旅に出ること。

――写真を撮らずに、記憶と心に焼き付けるというのも、とてもいいなと思いました。今、いろんなことをスマホの画面越しに見てしまうことが多い気がして。

ローランド トークショーなどで人前に出ると、みなさんスマホを向けてくるんですよね。撮らなくったって君と会った事実は変わらないのに、もったいないなぁって思います。写真を撮らなきゃ覚えられないものは、自分にとって不要なものなんだと思うんですよ。本当に大事なこと、心に残ったことは、写真を見返さなくても、記憶のなかで反芻できる。いずれ記憶が薄れてしまったとしても、その刹那的な感じがロマンティックじゃないですか。

――逆に、写真を撮ったことで安心して、それ以上思い出さなくなっちゃうことも多いですもんね。

ローランド 僕も、昔は出会ったひとりひとりの名刺を保存して、その人の特徴を書き込んだりしていたけれど、あるとき「こうまでしなきゃ覚えられないような人は、縁がないってことだ」と思いました。自分にとって必要で、縁をつなぎたいと思う相手なら、どんな人かは書き込まなくても覚えるじゃないですか。脳って、究極のミニマリストだなと思うんです。自分にとって大事なこと、不要なことを、無意識に取捨選択してくれる。だから今は、自分の覚えていられることだけ大事にしようと決めています。本で心に残った言葉があっても、いちいち付箋を貼ったりしない。……僕の本に、たくさん貼って持ってきてくれましたけれど(笑)。

――貼っちゃいました(笑)。

ローランド でも本当に、あなたに必要な言葉なのだとしたら、付箋を貼らずともきっと、1か月たったとしても覚えていると思いますよ。

――記憶したくないことほど、強く残ってしまう場合もありますよね。たとえばSNSのネガティブな言葉とか。

ローランド そうですね。だから僕は、SNSを見るのもやめました。デジタルデトックスをしたおかげで、SNSも見なくなったんですよ。以前は、エゴサーチもけっこうしていたんですが、「ローランドのあの発言マジで鼻につくわ」とか、ネガティブな書き込みが20件も30件もあれば「こんなこと言わない方がいいんだな」とか思ってしまって。叩かれないようにしようと思えば思うほど、無難な発言しかできなくなってしまった。

――意外です。

ローランド 僕も人間ですからね。どんなにポジティブに考えるクセをつけていても、嫌われたらやっぱり傷ついてしまう。同時に、つまらない人間になっていくのも、ひしひし感じていました。人の顔色をうかがって、揚げ足をとられないような言葉ばかり選んでいると、オリジナリティが消えていくんですよ。どこかの政治家みたいに、誰にでも言えるようなもっともらしいことしか言えなくなる。それよりも僕は、誰に何と言われようと、自分の言いたいことを言える人生を選びたい。独創的な自分であるために、楽しい人生を送るためには、SNSは見ない方がいいと思いますね。SNSがないと困る、って言う人もいるかもしれないけれど、そこで必要とされるのが、さっきも言った“できる理由”を探す精神。

――SNSがないなら、ないなりの工夫をするようにすればいい。

ローランド 旅先で道に迷ったとき、グーグルマップがないからどこにも行けない、っていうんじゃ野宿するしかなくなっちゃうじゃないですか。それがいやなら、他人に聞くなり地図を探すなりするでしょう。もちろん恐怖心もあるし、頼る相手は見極めなきゃいけないけれど、そのぶん慎重さも身につくはず。失うものが多かったり、過度に人に好かれようとしたりすると、保守的になりすぎてどこにも行けなくなってしまうから、自分らしく生きるためにミニマリズムやデジタルデトックスを実践するのはおすすめです。

――著書では私たちにも実践できるサジェストがたくさん書いてありましたが、歯ブラシは一度使ったら捨てていく、というのは独特でした。〈一度使った歯ブラシをもう一度使うのは、前日舐めたキャンディを、また次の日も舐めるのと同じ。不衛生だ〉と。

ローランド 使えないんですよね、同じものを二度は。掛け布団も、いくらカバーを替えてもなあ……と1か月に一度買い替えていくことに決めたし、下着も3着だけ持って、やっぱり2週間で買い替えるようにしています。日用品をメンテナンスしながら使いこんでいくのが従来のミニマリズムだと思うけれど、メンテナンスしてまで使い続けたくないものは、すっぱり捨てていくタイプの持たない暮らしも、おもしろがってもらえるかなと。

――おもしろかったです(笑)。

ローランド 替えのきくものを自覚しておくことも大切で、失いたくないものが少ないほど、人はタフに生きられる。これだけしかなくても意外と生きていけるっていう、自分の最小限を知ることの大事さは、この本を通じて伝えたいことのひとつですね。