万城目ワールド全開! 特殊能力をもつ三つ子の時空を超えた、ジェットコースターエンターテインメント‼
更新日:2021/9/15
三人よれば文殊の知恵。おまけにこんな特殊能力のある三つ子が集まれば、きっと向かうところ敵なしだろう。
万城目学氏の最新作『ヒトコブラクダ層ぜっと(上・下)』(幻冬舎)は、ありえないほど壮大なスペクタクルの大冒険小説。万城目学といえば、『鴨川ホルモー』でデビューし、『鹿男あをによし』『偉大なる、しゅららぼん』『プリンセス・トヨトミ』などの著作で知られ、歴史・伝承と日常生活が絡まり合う奇想天外な物語は多くの読者を虜にしている。
最新作も「万城目ワールド」は全開で先の展開は予測不可能だ。一言でいえば、「イラクを舞台にしたインディ・ジョーンズみたいな話」ということになるのかもしれないが、これでは伝わる気がしない…。キーワードは、恐竜化石発掘、メソポタミア、未来予知…。荒唐無稽、無茶苦茶な話なのかと思えば、きちんと筋が通っている。どう考えても現実ではありえないはずなのに、読めば読むほど、こんな不思議な世界があっても良いのではないかと思わされる。一体、万城目氏の脳内はどんな構造になっているのだろう。面白さ、全部載せ。稀代のストーリーテラーが生み出す、現実世界と、歴史、神話、地学、特殊能力が巧みに混ざり合う世界は圧巻。生み出される怒涛の展開に興奮せずにはいられなかった。
主人公は、三つ子の梵天、梵地、梵人。それぞれ「天・地・人」の文字を名にもつ彼らは、幼い頃に両親を亡くし、3人で支え合いながら生きてきた。26歳になったある時、3人はひょんなことからそれぞれのもつ能力を知ることになる。恐竜の化石発掘に夢中の長男・梵天は、3秒間だけ壁の向こうや土の中を透視する能力があり、メソポタミアの遺跡の発掘に関わることを夢見ている次男・梵地は、どんな国の言葉も理解する能力がある。そして、三男・梵人には、3秒先の未来がわかる能力があった。梵人は相手の動きが読める能力を生かし、オリンピックを目指していたが、高校時代に大怪我をして断念。兄たちのように夢中になれることがない自分に思い悩んでいる。
ある時、大金が必要になった長男・梵天のため、3人は、それぞれの特殊な能力を生かして、貴金属泥棒に挑戦することに。だが、すぐに大金を手にすることには成功するが、三つ子の前にはライオンを連れた謎の女が現れる。脅された3人は彼女に言われるがまま、自衛隊に入隊。そして、PKOとしてイラクに派遣された3兄弟を待ち受けていたのは、時空を超えた冒険だった。
三つ子の性格はバラバラだが、彼らの好きなものへの熱血っぷりは本当によく似ている。梵天は恐竜の話になればウンチクが止まらず、梵地はメソポタミアの話になれば恍惚とした表情でその歴史を語る。そして、何も楽しいことがないと思っていた梵人も、命がけの戦いを目の前にすると抑えが利かない。好きなことに全力の3人はとってもコミカル。絶体絶命のピンチでもどこかとぼけている彼らの会話はとにかく面白い。
彼らの冒険には、時に笑わされ、時にあっと驚かされ、時にハラハラさせられる。そして、クライマックスでは、彼らの兄弟愛に涙が。あちこちに張り巡らされた伏線が回収されていくのがなんて気持ちいいのだろう。こんなにエキサイティングな冒険小説が他にあるだろうか。どのページからも目が離せないジェットコースターエンターテインメントをぜひともあなたも体感してみてほしい。
文=アサトーミナミ