脳ではなくて腸を信じる!? 腸と腸内細菌に優しい生き方をしよう/突き抜けるコンディション革命③
公開日:2021/7/22
小林弘幸著の書籍『突き抜けるコンディション革命』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第3回です。著書累計200万部突破。スポーツ学の名医が教える、仕事、スポーツ、食事、ストレス対策、ダイエット、感染防止、メンタル強化など、困難な時代でも結果を残す心と体のコントロールメソッド50! やさしい世界の“やさしい言葉”に安住せず、厳しい現実社会でも突き抜ける心と体のコンディションを身につけよう――!
脳にだまされるな
腸を信じろ!
あなたは、腸のことを単なる消化器官であり、脳に比べれば極めて下等な臓器だと思っていませんか? まずはその認識を改めていただく必要があります。
昨今、腸の重要性が注目され、「腸は第二の脳である」などといわれますが、私はまだ不満です。脳よりも腸のほうがずっと頼りになる臓器だからです。
生物の進化の過程から紐解いてもそう言えるでしょう。腸は脳が出来上がるはるか昔から存在していた根元的なものです。進化の過程はよく樹の枝分かれにたとえられますが、腸は樹の幹に相当し、そこからさまざまな臓器が枝分かれしています。
これは、受精卵が細胞分裂を繰り返して大きくなっていく個体の成長過程でも確認できるのです。
ほとんどの動物は、まず内部が空洞のゴムボール状になります。次に一カ所が内側に凹むようにして腸の原型が形成されていきます。
つまり、真っ先に作られる器官こそが腸なのです。それから細胞分裂が繰り返され、やがてこの「腸の原型」からさまざまな臓器が派生していく――脳もそのひとつですが、作られるのは腸よりずっと後です。
そしてもうひとつ、脳よりも腸が生物の根元的な器官であると感じさせる例を挙げましょう。大ケガや脳疾患の影響で、不幸にして大脳の機能を失うことがあります。意識がなくても、胃に直接栄養分を送り込めば、消化・吸収・排泄を行い、生き続けるため「植物状態」と呼ばれます。極めてまれに、この長い昏睡状態から、突如として脳の機能が回復し、意識が戻り、運動機能さえ取り戻すことあります。つまり、腸さえ働いていれば、「生命」は維持できるというわけです。
脳も、腸と同様に神経細胞がはりめぐらされた「考える臓器」ですが、考える方向性がまったく違います。体内に入れてはならないものをブロックし、必要なものでも過剰な状態なら排泄する。つまり、腸は体全体のことを考えて判断しているのです。
一方、脳は自分勝手です。「体に悪い」と頭でわかっていても甘いものを食べすぎてしまうのは、体全体のことなどお構いなしに、脳が自分の好物を欲しがるせいです。脳の欲求はとどまることを知らず、自分の体をだましてでも、「もっともっと」と欲しがります。それが競争を生み、活力となり、文明を発展させてきたという見方もできますが、そのせいで不幸になる負の側面もありました。自動車と交通事故、火薬と爆弾、学問の普及と受験戦争などがその一例でしょう。
欲望まみれの脳に比べて、腸は大人しく、我慢強く、謙虚です。脳のように身の丈以上の発展を望むこともなく、あくまでも大昔からの伝統を守って、腸内細菌という自然とともにあろうとしています。
科学文明も悪いことではありませんが、人間は自然界に棲息する動物の一種でしかありません。人類がどんなに知能を駆使して宇宙を自分の思うままにしようとしても、腸内細菌の力を借りなければ、自分の健康すら維持できない生き物なのです。そこに、まず気付くことが重要です。
ではいったい、私たちはどうすればよいのでしょうか? そうです、脳の求める通りに行動し、脳に振り回されるのをやめて、腸と腸内細菌のために優しい生き方をすれば、人間の体はどんどん健全になっていくはずです。体が必要とするエネルギーや、体の原材料はすべて腸が吸収することから始まります。「健康は腸に始まり腸に終わる」という言葉は、決して言い過ぎではないのです。