【最終回】2041年メタルの旅/メタルか?メタルじゃないか?⑯

エンタメ

公開日:2021/7/24

 “新しいメタルの誕生”をテーマに“BABYMETAL”というプロジェクトを立ち上げ、斬新なアイディアとブレること無き鋼鉄の魂で世界へと導いてきたプロデューサー・KOBAMETAL。そんな彼が世の中のあらゆる事象を“メタル”の視点で斬りまくる! “メタルか? メタルじゃないか?”。その答えの中に、常識を覆し、閉塞感を感じる日常を変えるヒントが見つけられるかもしれない!!

メタルか? メタルでないか?
Photo by Susumu Miyawaki(PROGRESS‐M)

 当たり前にあったものが当たり前でなくなって久しい。

 コロナ禍と呼ばれる只中に暮らす我々にとって、あれもしたい、これもしたい、でもできない……何かと我慢の連続だ。

 しかし、この感じが当たり前として育つ世代というのが確実にいるのもまた事実だ。だから彼らが10年後、20年後に大人になった時に、いったいどういう感覚で生きているのだろうというのがワタクシのもっぱらの関心ごとだ。

 

 ラーメンの味を知っている者からすればラーメンは忘れ難いものなのだが、一方でラーメンの味を知らない者からすれば、それは別になければないで何の不都合もないわけだ。

 同じように、リアルなライブ・エンタテインメントがスタンダードじゃない時代にあって、もはや配信ライブこそがベーシックなもので、人と人との濃厚接触をいかに無くして発展させるかという、我々が当たり前に享受してきたライブの価値観とは真逆の発想でそれをスタンダードにしていくという新しい時代に突入しているのではないか――そんなことを夢想したりする。

 考えたら、CDではなくストリーミングが当たり前という世の中で育ってきている世代がどんどん新しい音楽を生み出していっている世の中なのだ。ラーメンの味を知っているからと言って、そこにばかりしがみついていては、まったく時代から取り残されるというようなことにもなりかねない(とは言え、それはそれで大事な価値観ではあるんですけどね)。

 

 そこで少し発想を飛躍させて、今から20年後の2041年にメタルはどうなっているのだろう? ということを考えてみたい。

 言うなれば、進化したデジタル時代におけるメタルの考察だ。

 ライブがどのような形で行われるにせよ、ステージに立つメタルバンドはもはや楽器を持っていないのではないだろうか。

人間と機械の境界線がなくなった先にあるメタル

 メタルの楽曲制作現場の話でも触れたが、すでにドラムは人が叩くよりもコンピューターで打ち込んでいく方が正確で良い音を鳴らすことができる可能性に満ち溢れている。このように機材の進化はどんどん人力を排していく方向へと突き進んでいくだろう。

 実際、ギターひとつ取ってみても、すでに進化は感じられる。

 みなさんがギターと言って思い浮かべるのは、例えばギブソンレスポールとかフェンダーストラトキャスターといった定番なタイプだと思う。ギターのシェイプの違いこそあれ、だいたい同じようなものだろう。要するにヘッドがあって、6弦で、ネックにフレット(音階を区切る金属の棒状のもの)がまっすぐ打ってあり、ボディーがあるというものだ。

 しかし現在における最先端のギターは、まずヘッドがない。そして6弦でもない。7弦、8弦が当たり前の多弦マルチスケールなのだ。さらにフレットはまっすぐではなく扇状に広がるような形で斜めに打ってある。これは、手の形に合わせた押弦のしやすさ、ピッチの安定などを精密に割り出して作られたものだ。そしてボディーはよりコンパクトになり、もはやギターというイメージからはかけ離れたものすらあったりする。

 特にメタルにおいては、ファンフレット・マルチスケールギターというのは当たり前になりつつある。やはりメタルはテクノロジーの進化と相性が良いのだ。そして、そうした楽器の進化が行き着く先は、もはや弦を増やして実際に弾くよりもコンピューター上で作り上げた方が創作者の頭の中で鳴っている音楽をより忠実に表現できるということになっていくのではないか。つまり、楽器の形が消滅する……。

 

 そう考えたら、ゴールデンボンバーの先見の明には頭が下がる思いだ。

 エアーバンドを標榜し、ともすれば退化にも見えてしまうその形は、実は最先端の革新性に満ちたものだったというのは、ここにもまたメタルのアンビバレンス・マジックが感じ取れて、一人ほくそ笑んでしまうワタクシだ。

 

 2041年のメタル。

 それは、徹底したテクノロジーの進化を取り入れ、バンドメンバーはステージで何も持たずにパフォーマンスしている究極のダンスミュージックと化している! かもしれない。

 今は汗臭い印象のあるメタル。しかし、人間と機械の境界線がなくなっていくその先で鳴っているのは、他の何物でもない、メタルなのである。

 

 突然始まったこの連載も今回で最終回となる。

 ここまでお付き合いいただいた読者の皆様には本当に感謝している。

 

 でも、この連載では、ワタクシの〝シン・メタル論〟はまだまだ語りつくせていない……。

 

 ということで突然だが、この連載で語りつくせなかった未発表のエピソードも加えた形で、書籍化することが決定した!!

 詳細はまた後日!!!!

 きっと、皆様が〝メタルな生き方〟をするためのたくさんのヒントが詰まっているだろう、と思っている。

 それでは読者の皆様、続きは書籍で。

 また、お会いしましょう。

 

KOBAMETAL初書籍『メタルか?メタルじゃないか?(仮)』発売決定!
詳細は後日!!

メタルか? メタルでないか?
Illustration by ARIMETAL

KOBAMETAL(コバメタル)〇プロデューサー、作詞家、作曲家。