「朝の読書」や「夏休みの読書感想文」の選書に迷ったら? 10代に贈るブックガイド『10代のための読書地図』
更新日:2021/7/26
筆者のわたしが書店員として働いていた頃、10代に読書をしてもらおうという取り組みを毎年のように行っていた。学校の先生に「10代に読んでほしい3冊」といったアンケートを実施し、オススメ本のコーナーを設けたり、同じように中学生にアンケートをとって中学生発信によるオススメ本を紹介したりした。学校の先生の推薦する本は、立場的にも教育的な部分や将来に役に立つものを含んでいる本のラインナップだったが、中学生たちの推薦本は純粋に読書体験の楽しさを感じた作品が並んでいたのが印象的だった。
作家、文筆業、出版業、そして書店員など、本に携わる人たちが10代に向けて100冊もの本のあれこれを薦めるガイドブック『10代のための読書地図』(本の雑誌編集部/本の雑誌社)のページを開いたとき、そんな書店員時代のことを思い出した。
大人が10代へ薦める本は、先述の先生たちのように得てして読書に何かためになることを含めてしまいがちだ。しかしこの本は、新井久幸さん、池澤春菜さん、大森望さんの巻頭鼎談「本の雑誌が選んだ10代にすすめる100冊」で、SFやミステリーのタイトルが並び、大の大人が子どものように純粋な読書体験の楽しさを語り合っているのが嬉しい。
「ジャンル別10代おすすめ本ガイド」では、「恋愛」「運動部」「文化部」といった学校生活において身近なものから、「科学」「戦争」「性」といった大きいテーマまで幅広いジャンルに分かれ、大学教授、評論家、書評家、書店員の総勢18名が薦める本が並ぶ。
たとえば、北上次郎さんは自身の二十歳の誕生日のことを思い出しながら「友だち」をテーマに『向日葵を手折る』(彩坂美月/実業之日本社)や『夜の声を聴く』(宇佐美まこと/朝日新聞出版)などを薦め、今だけの友だち、ひと時の友だちがいかに大切なのかを教えてくれる。推薦者それぞれが自分の読書体験や10代の頃の想い出を交えながら紹介する本の数々。それは選者が、10代の読者が本を開き、笑ったり、眉をひそめたり、涙を溜めつつページをめくる姿を思い浮かべながら選んだことは想像に難くない。
本に人を変える力があると信じ、その力を伝えたい選者たちの気持ちが本書に溢れている。
そして本そのものだけでなく「本の買い方・探し方」「本屋さんや図書室で使いたくなる用語集」「読書感想文の書き方」など、“本のまわり”のことも本書は教えてくれる。なかでも松村幹彦さんの「おもしろいぞ、教科書&副読本」では、国語便覧に掲載されている『源氏物語』の人物相関図や『平家物語』の年表、『奥の細道』で松尾芭蕉が歩いた地図などが、授業だけでなく古典文学を楽しむためにもとても役に立つことを教えてくれる。
また大人にとっても本書は10代の読書事情を知る上でも楽しい。
「みんな何を読んでるの!? 10代に売れてる本はなに?」では、子どもの読書離れに触れ、1カ月の平均読書冊数は小学生で11.3冊、中学生で4.7冊と、実際は約20年で倍以上増えていることや、ベストセラーがSNSのTikTokから生まれるなど、10代の読書の広がり方はとても興味深い。また「これが人気! 本屋さんに訊いてみた。今どきの児童文庫売り場」では、児童文庫と言えば講談社の青い鳥文庫や岩波少年文庫などが思い浮かぶが、実は今もっとも売れている児童文庫レーベルは「つばさ文庫」だということに驚かされる。
本書を読んでいてもうひとつわたしが書店員時代に見た思い出の場面がよみがえってきた。中学生くらいの男の子が店内の通路で片手に本を持って立ち止まっていた。彼は手に持った小銭と本に視線を交互に移し、その本が買えるのか手持ちのお金を数えていたのだ。彼が貯めたかもしれないお金で買った本は、彼にとって素晴らしい読書体験になっただろうか。
本書は、10代のそばへ、そっと本を差し出すような、そんなブックガイドなのだ。
文=すずきたけし