HSPである自分を知ることは「自分らしく元気に生きるためのスタートラインになる」《武田友紀さんインタビュー》
更新日:2021/7/27
繊細さんは、周りにもっと相談してもいい
——繊細さんは「自分がおかしいのかも」と考えているからこそ、周りに言えないことがあるのかもしれませんが、もっと自分の悩みを周りに相談してもいいのですね。
武田:そうですね。いざ相談したら聞いてもらえた、というケースがけっこうあります。満員電車がしんどくて通勤だけでグッタリしていた人がフレックスタイムを使えるようにしてもらった、とか、周りの音が気になる人が会社で耳栓をさせてもらうようになった、とか。私から相談者さんに、職場に相談してみませんかとご提案すると、びっくりされることがあります。「しんどいと思っているだけで周りに伝えてなかったです」と気づく。たとえば、私が「テレワークの日数を増やすことはできますか?」と聞くと、「そうか、職場にそういうことを相談してもいいんですね」っていう反応があったり。
——相手にしてみたら、その悩みは大したことではないのかもしれない。繊細さん同士は、どんな感じですか? 武田さんは繊細さん同士のご夫婦ですね。
武田:繊細さん同士でも「察する」「配慮」は難しいですよ。私と夫では疲れを解消する方法が全然違うんです。私はひとりで本を読んで元気になるタイプですが、彼は遠くに行きたいタイプ。だから「大丈夫? ちょっと部屋で休んだら?」と言っても全然響かない(笑)。お互いに相手のことが全然理解できないから、やっぱり「何かあったら言ってね」というスタンスがいいのかなと。困ったら言ってくれるだろう、という信頼感は少しずつ上がってきた気がします。最初は気を使っていたので。
——繊細さん同士でもそうなんですね。
武田:はい。「察して」ではなく言葉で伝えよう、というのは、繊細さん同士でも、非・繊細さんの知人に対しても同じです。最初は慣れないかもしれませんが、「何かあったら話し合える」という信頼感は、少しずつ獲得していくものなんだと思います。
「共存する」という前提をまず変えていく
——繊細さんと非・繊細さんは、これからどのように共存したらいいと思いますか?
武田:「繊細さんと非・繊細さん」と概念で考えるとイメージしにくくなると思うので、「私と身近なあの人」みたいに考えるのがいいと思います。私は『「繊細さん」の本』を書いた時、誰も悪くないのに、わからないが故にすれ違ってしまうことがなくなるといいなと思って書いたんです。でも、「繊細さん」「非・繊細さん」という言葉が生まれたことで、どうしても対立軸で語られることがあって。
——確かに、概念があることで「うまく関係をつくれないかも」という怖さみたいなものが働いているかもしれません。
武田:「共存するには」という言葉にも、今は共存していないみたいなニュアンスが、どうしても入ってしまいますよね。なので、今すでに共存しているという前提が大事だと思っています。だって、今すでに一緒に生きているでしょう? だから、今も一緒に生きているし、お互いにもっと尊重して笑顔が増えるとさらにいいよねって感じがいいなと。
——概念を知っておくのはいいけれど、それによって変わる必要はお互い何もないのかもしれません。「私と身近なあの人」という、人間同士の関係をそのまま続ければいいだけで。
武田:そうですね。背が低いとか高いとか、英語が得意とか苦手とか、たくさんあるその人の特性のひとつに「感じ方」があるだけ。あくまで、その人の性質のひとつでしかないんです。共感まではできなくても、その人の自然なありかたを「そっか、あなたはそうなんだね」と受け止めることが、その人自身を尊重することになる。特別ではないものとして見ていくのがいいと思います。
繊細さを知ることが、自分らしく元気に生きるためのスタートラインになることがある
——最新の著書『雨でも晴れでも「繊細さん」』(幻冬舎)は初のエッセイ本です。エッセイを書こうと思った理由はありますか?
武田:HSPという概念が広まるにつれて、繊細さについてメリット・デメリットの切り口で語られることが増えたんですね。苦手なこともあるけど仕事に生かせる面もあるよ、みたいに。私もノウハウ本で、そうやって書いてきました。でも繊細さって本当は、メリット・デメリットで語られるものではなくて、一緒に生きていくものだと思っています。自分の大切な一部分。
エッセイのほうが、「繊細さと一緒に生きている」様子を伝えられるんじゃないかなと思ったんです。繊細な気質って、相手を思いやったり深く考えるような、人間のあったかい心と重なる部分も多いと感じるから、困りながら生きている面もあるけど、私は繊細さがすごく好きだというのを書けたらいいなと。
——どんな反響がありましたか?
武田:意外だったのが、「自分とすごく似ている人がいる」という反応でした。「仲間がいた! ってすごく思った」と。これまでのノウハウ本にはない反応でしたね。
——繊細さんは自分がHSPだと気づいたほうがいいと思いますか?
武田:いま悩んでいる人は、HSPについて知ることが、自分らしく生きるきっかけになるかもしれません。自分がHSPだと知らないまま「人から考えすぎって言われる。考えないようにしなきゃ」「自分はどこかおかしいのかな」と悩んでいるケースがあるので、そういう方が繊細さについて知ると、自分を責めることが減ります。自分を責めるのってすごくエネルギーを使うので、それが減ると自分のやりたいことにエネルギーを使えるようになります。自分らしく働こうと思った時に、自分は何が強みで何をやりたいんだろう、と自己分析をしますよね。自分の気質を知ることは、それに近い作用があると思います。
——というと?
武田:転職のとき、これが苦手でこれが得意、とわかれば得意なことを生かそうとなりますよね。それと同じで「刺激が多すぎる環境はしんどい」とわかれば、じゃあ自分に合う環境に行こうとなる。自分らしく生きようとする過程で、HSPについて知ることが助けになる人が一定数いる、ということです。ただ、今そんなに困っていないなら、知らなくても元気に生きていけると思います。
——困っているかどうか、が基準ですね。
武田:私がこれまでのノウハウ本に書いてきたことって、実はご相談のメインテーマにはならないんです。たとえば、どう生きたらいいのか、これから仕事をどうしよう、と相談を受けたら、その人のやりたいことや強みは何かを一緒に探っていきます。面談時間の最後にトリビア的に「自分はHSPなんですけど、そういえばこういう時どうしたらいいんですかね?」みたいな悩みがチラッと出てきて、その対処法を話すのは1時間のうちラスト10分程度。
だから、本に書いた内容は、実際の面談でやっていることの5%くらい。みんなが使えるような共通の項目でしかないんです。
——きっかけでしかないのだと。
武田:そうですね。HSPとは、本当の自分を知ってのびのびと生きていくためのほんの一部であるということです。自分の繊細さを知ることは大事ではあるけれど、あくまでスタートラインです。たとえば英語が得意だとしても、英語の先生になるのか英文学の研究をするのか、貿易事務をやるのか、通訳・翻訳、接客なのかなど、無限の可能性がありますよね。それと同じで、繊細さんで共感力が強いからこうだよね、って進路が決まるわけでは全くないです。自分を生かして元気に暮らしていくには、あなたは何に興味が湧いて、どんな強みがあるだろう、どんな方向に進めたら嬉しいかな、という個別の話になっていきます。
——繊細さを知ることはスタートラインに立つこと。次にアクションを起こすとしたら、何をおすすめしますか?
武田:簡単なステップとしては、これをやりたいと感じることをフラッとやってみてほしいですね。本読みたいなとか、お散歩したいなとか、小さなことからでいいんです。ふとした「こうしたい」を大事にすることが自分らしい人生につながっていきます。友達のお誘いに行くかどうか迷うとか、あるいは転職しようか迷うという時にも、本当はどうしたいのか、どっちに進んだほうが嬉しいか、自分に聞いてあげてほしいなと思います。
——めんどうな自分がいたとしても、幸せに生きていけるんですね。最近、武田さんが感じた些細な幸せはなんでしょうか。
武田:この間、仕事の予定変更があって、あれもこれもやらなきゃ、わー! と慌ただしくなってたんですけど、お昼ご飯を食べている時に、窓の向こうで木の葉っぱが揺れているのを見て、すーっと気持ちが落ち着きました。幸せって「1日のなかに何時間ある」とかじゃなくて、ふとした瞬間を味わえることなのかなって思います。葉っぱが揺れているのをみて、やっぱり緑っていいな、気持ちが落ち着いていいなぁって。慌ただしい毎日のなかで見えなくなりがちだけど、心が嬉しくなるものや美しいものに目を向ける瞬間を、できるだけ大切にしようと心がけています。
プロフィール 武田友紀
HSP専門カウンセラー。自身もHSPである。九州大学工学部機械航空工学科卒。技術者として大手メーカーで研究開発に従事したのち、独学でカウンセラーとして独立。HSPの心の仕組みを大切にしたカウンセリングとHSP向け適職診断が評判を呼び、全国から相談者が訪れる。著書に50万部を超えるベストセラーとなった『「繊細さん」の本』(飛鳥新社)、『「繊細さん」の幸せリスト』(ダイヤモンド社) 、『雨でも晴れでも「繊細さん」』(幻冬舎)などの”繊細さんシリーズ”がある。テレビやラジオに出演する他、講演会やトークイベントなども開催し、HSPの認知度向上に努める。
HP:繊細の森
Twitter:@sensainomori