時代を超えて受け継がれる名著『孫子』をマンガで学ぶ! 現代でも通用する教訓が満載
公開日:2021/7/27
時を超えて受け継がれてゆく書物──それは名著とも呼ばれる。ジャンルは実にさまざまだが、中でも人間にとって「教訓」となる内容が記されている書物は、非常に重宝されていると思う。日本でも、古代中国から入ってきた教訓的な書物は文化人から教科書のように扱われてきた。その中でも、特に有名なもののひとつが『孫子』ではないだろうか。ピンとこない人には「孫子の兵法」というと分かりやすいかもしれない。紀元前500年頃に書かれたとされるこの兵法書が、武田信玄ら戦国武将をはじめ、多くの日本人の手本となったことはよく知られている。それほど示唆に富んだ内容なのだが、その書名に比して、内容を把握している人は案外と少ないように感じる。ならばここは『決定版 孫子の兵法がマンガで3時間でマスターできる本』(吉田浩:著、渡邉義浩:監修/明日香出版社)によってお手軽に「孫子の兵法」を学んでみるのがいいだろう。
ただ『孫子』は「兵法書」であり昔の書物なので、難しそうに思う向きもあるかもしれない。もちろん原典にあたればそうなのだが、本書は現代人にも分かりやすいように、孫子の教えをビジネスなどの局面に置き換えて解説している。つまり『孫子』は古代の兵法書でありながら、現代でも通用する内容だということだ。それは一体どういうことか、実際にいくつか紹介してみたい。
彼を知り己を知れば百戦して危うからず
多くの人が知るであろう有名な言葉。あるいは「彼を」を「敵を」として覚えている人もいるだろうか。本書では高級カーペットを扱う会社を例に出し、社長が自社の扱うカーペットの色や柄をすべて把握し、日本のどこで売れたかをしっかり確認していることを記す。つまり自社のカーペットはどの色や柄がどの地域で人気かを、社長はすべて理解しているということ。だから販売戦略も正確で、売り上げは伸びるのだ。この言葉は「情報の大切さ」を述べたものであり、これがいかに重要かは、もはや説明の必要もないだろう。
兵に常勢なく、水に常形なし
簡単にいえば、物事には決まった形はない、ということ。本書ではこれを、会社の配置転換で解説している。工場内で「生き字引」と呼ばれた人物が、いきなり営業へ配置転換された。現場職に誇りを持っていた彼は随分とショックだったが、上司からこう言われる。「現場をよく知る君に営業の指導を頼みたかった」──と。営業は現場の仕事をあまり知らないので、つい無理をいいがちであった。そこで現場通の人物を営業に配して、調整役にしたのである。このような配置転換は多くの会社であるだろう。不満からモチベーションが低下することもあるかもしれない。しかしやってみれば、意外と向いていると気づくこともあるはず。旧来の考えに固執せず、水のごとく柔軟な思考が大切だとこの言葉は教えているのだ。
遅れて戦地に処りて戦に赴く者は労す
時間に遅れて戦場に到着する者は、消耗した状態で戦いに臨まなければならないという意味の言葉。時間の大切さを説いた言葉だが、これは現代でもまったく同様である。本書でも「相手の時間を『無駄遣い』させることになる」と言及。相手との約束に遅れるなど言語道断であり、ビジネスならば一発で破談となってもおかしくはない。友人同士の集まりでも遅刻する輩をよく見かけるが、これとて友人の寛容さに甘えているだけなのだ。宮本武蔵のように、戦略として遅れていくのはアリかもしれないが、いつの時代でも約束の時間に遅れてしまうと、大体ロクなことにはならないので注意したい。
本書を通覧すれば、『孫子』という書が間違いなく現代に通用することが理解できる。とはいえ、その教訓を活かせるかどうかは読み手次第だ。ワタシなんぞは「兵は詭道なり」とか「疾きこと風のごとく」といった、やたらとカッコイイ言葉ばかりに興味が集中して教えは頭に入ってこなかったクチである。せっかく先人が遺してくれた生きる知恵なのだから、しっかりと活用したいものだ。
文=木谷誠