ギリギリすぎるタイトルが話題! おじさん4人が異世界へ!? 『はたらけ! おじさんの森』の気になる内容は?

文芸・カルチャー

公開日:2021/7/28

はたらけ! おじさんの森
『はたらけ! おじさんの森』(朱雀伸吾/主婦の友インフォス)

 ライトノベルの新刊コーナーに、異彩を放つ作品が陳列されている。その名も『はたらけ! おじさんの森』(朱雀伸吾/主婦の友インフォス)だ。某有名ゲームを彷彿とさせるタイトルはもちろんのこと、おじさん4人がでかでかと描かれた表紙も目を引く。ページをめくり口絵を眺めても、ライトノベルらしい美少女の姿はわずか1枚。貴重なカラーページには、奇妙なおじさん(「神」と書かれたジャージを着ている)が印刷されている。なんだこれは…。

 本作を読み終えた今、内容をひとことでまとめるなら、これは“おじさんの魅力を再発見する物語”だったのだと思う。物語は、人気ゲームシリーズの最新作「あつまれ! あにまるの森」の発売日から始まる。当然、ゲーム店の前には行列ができていた。主人公のおじさん・森進(もりすすむ。42歳独身。中堅企業の総務部で働くサラリーマン)は、シリーズの大ファンで、朝早くから並んでいる。しかし、迷子の子どもを助けるために列から離れ、楽しみにしていたゲームを買いそびれてしまう。そう、彼は超が付くほどのお人よしのおじさんなのだ。

 帰り道、進の前に「おじきち」と名乗る「神」ジャージのおじさんが現れる。子どもを助けるところを見ていた彼は、「あつまれ! あにまるの森」に似て非なるゲーム――「はたらけ! おじさんの森」を進に渡す。それは、単なるゲームではなく、異世界の“島”への入り口だった。そこには金髪のショップ店員・森秋良ら、複数の「おじさん」(しかも、みんな名前に“森”がつく!)が転生。進たちは、島にすむ二足歩行の「あにまる」たちと協力し、サバイバル生活を送ることになる。

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 異世界転生モノのお約束のひとつに、主人公が元いた世界で得た力を異世界で生かす、という展開がある。さてこのおじさんは何ができるんだ…と読み進めていくと、進はサバイバル生活で「総務部」の能力を生かしてきた(笑)。彼は総務部で各部署の内部監査や、人材の調整を行っている。その能力を生かし、サバイバル生活でも仲間のおじさんたちの特性を見抜き、適材適所な役割分担で次々と問題を解決していく。組織で働くおじさんってすごい。

 とはいえ、順風満帆なスローライフ生活では終わらない。これもまたお約束だが、やはり進たちが転生した異世界には秘密がある。なぜ、「おじきち」は進たちを島に呼び寄せたのか。どうやら他の「島」も存在しているらしい。そして、二足歩行し言葉を話す「あにまる」とは何なのか…。本作はシリーズものだが、1巻から積極的に謎に迫っていくテンポの良さで、終盤は世界の謎から目が離せない。

 異世界転生モノ、中でも異世界でスローライフ生活を送る作品群の流行は、言うまでもなく私たちの忙しない日常の裏返しだ。考えてみれば、本作の元ネタとなった某有名ゲームもまた、“異世界スローライフ”と言える。忙しい日々の合間を縫ってゲームという異世界に飛び込み、コツコツ島を作り上げるスローライフを楽しむものだからだ。異世界スローライフと“おじさんの森”の組み合わせ、必然だったのかもしれない。

文=中川凌
@ryo_nakagawa_7