DX(デジタル・トランスフォーメーション)を「憧れ」にとどめないために――踏み出す勇気を与えてくれる事例20選
公開日:2021/8/3
デジタル技術によって生活やビジネスに変革を起こす「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」が、この約1年半のあいだ、コロナ禍によって加速してきた。『DXスタートアップ革命』(守屋実:監修/日本経済新聞出版)は、20の成功事例を紹介しつつ、「ただ読むだけではなく実際にこの人たちに仕事を持ちかけに会いに行って欲しい」と、読者を鼓舞するムック本だ。本書の監修を務める新規事業創出の専門家・守屋実氏は、DXを下記の4段階で説明している。
1. ITツールの導入
2. データ取得
3. 商品サービス・顧客接点改革など
4. ビジネスモデル変革
4段階目でビジネスモデルが変革され、新たな顧客価値が創出されることをもって「DXが達成された」ということになる。紹介されている事業は大きく分けると3種類で、コロナ禍を逆手に取ったイノベーション、伝統産業市場、岩盤市場(医療・教育・行政分野など国の規制などによってなかなか動かなかった市場のこと)だ。
DXはむやみやたらな最新鋭技術の導入ではないと示してくれるのが、JR東日本のスタートアップ・株式会社TOUCH TO GOの事例だ。コロナ前の2019年に創業して、コロナ禍にまさに入ろうかという2020年3月に高輪ゲートウェイ駅のAI無人販売店舗を出店した同社は、結果的に「コロナ禍を逆手に取ったイノベーション」として機能することとなった。多くの人がシステムを使えることをミッションとして掲げ、長らく使われ定着してきたPOSシステムを「わかっている人しか触ることができないシステム」として疑問視したのだ。
「例えば高速道路のサービスエリア。インフラとして必要ですが働きに行くには通勤の便が悪い。賃金も低い。しかし、なければ長距離ドライバーが困る。ここにチャンスがあるんです」
無人決済システムがWindowsデバイス1台で起動できるようになることで、人手不足・業務効率化・高齢化・コロナ対策といった複数の課題を解決に向かわせ、顧客のスムーズかつ安心感ある買い物に貢献する。極めてシンプルだが、これはまぎれもなくDXだ。
伝統産業は、「伝統工芸品」というような意味合いではなく、これまでの「当たり前」が見直されたケースだ。自動車整備士と車の持ち主をマッチングして安価で気軽な整備・修理出張サービスを提供する株式会社Seibiiは、整備士・顧客が互いに持っていた不満に着目した。整備士は労働環境や、発展性のないキャリアにモチベーションを削がれていた。顧客は料金の不明瞭さや持ち込みの手間に煩わされていた。そのわだかまりが、ITツール導入によって融解し、購買促進が実現したのだ。
岩盤市場からは、介護業界の事例を紹介したい。ドクターメイト株式会社は、介護士が医療の専門家に相談できるタイミングが限られている状況に着目し、24時間相談可能なプラットフォームを構築した。介護士を手助けすることだけではなく、チャットや電話に応対する登録者に、子育てや親の介護で休職中の人材や研究医を活用する狙いもある。
もっと詳しく事業開発のプロセスやサービス内容を知りたい人は、ぜひ本書を実際に手にしていただければと思うが、DXにたとえ関心がなくても、紹介されている20社のトライ・アンド・エラーからは学べることが多くあるはずだ。守屋氏は、DXに挑んできた事業家の姿から、「より良い未来を引き寄せる秘訣」を一般化して読者に説いている。
「人は考えたようにはならない、人は行ったようになる。そして、動いた人にだけ、道は拓ける」
これは僕の持論です。だから、まずは本書をきっかけに最初の一歩を踏み出してください。進んだ人の先にこそ必ず道は拓けます。
変化は強いられるよりも、自分の見極めた手段とタイミングで起こすほうが快い。もちろんそこにリスクはつきものだが、本書で特集されている20社の「行い」と「動き」は、初めの一歩を踏み出す勇気を与えてくれるだろう。
文=神保慶政