東海地方の人が喫茶店好きなのはなぜ? 謎解き日本一周旅行に出かけよう
更新日:2021/8/3
テレビ番組など全国の都道府県のグルメや名物を取り上げるコンテンツが愛され、埼玉県ディス映画『翔んで埼玉』がヒットするなど、日本人の郷土愛を証明する事象は多い。それに加えて最近は、人の密集を避けるソーシャルディスタンスの時代。地方に本社を移転する企業があらわれ、通勤のない生活を前提に、都市部から郊外へと引っ越す人もいる。長距離の移動を制限するよう呼びかけられる一方で、日本の地方の魅力が今、見直されつつあるのではないだろうか。
地理教育コンサルタントとして、講師業やテレビ番組監修などを手がける宇田川勝司氏が、そんな日本各地のさまざまな謎を解説するのが、『謎解き日本列島』(ベレ出版)だ。著者がまえがきで語っているとおり、国土が小さいと思われている日本は、実は世界で197か国中61位という大きさ。さらに、南北が3294km、東西が3142kmに伸びていて、これはロシア・モスクワからヨーロッパ大陸西端のポルトガル・リスボンまでの距離に相当する範囲だという。気温がマイナス20度を下回る冷帯から、ハイビスカスが咲く亜熱帯まで、ひとつの国の中でこれほど多彩な気候が見られる国は、世界でも数少ないそうだ。
本書では、気候や人々の暮らし、習慣などがバラエティに富んだ日本列島に関する不思議なことを、「全国各地の地図にまつわる謎」「全国各地の風景・光景にまつわる謎」「全国各地のモノにまつわる謎」「全国各地の人々にまつわる謎」の4つの章に分けて解説。その話題は、「寒冷地に人気ブランド米が多いのはなぜ?」「沖縄出身の芸能人が多いのはなぜ?」といったよく知られたトピックから、「自転車の普及率、全国1位の埼玉県、最下位の長崎県、それぞれの事情」「酪農王国北海道の人々が牛乳をあまり飲まないのはなぜ?」といった意外な事実や、「上州名物・かかあ天下の由来」といったトリビアまで幅広い。読めば、誰かに話したくなる豆知識が得られるはずだ。
地名の由来や地理について学べるパートも知的好奇心をくすぐるが、読み物として特にエキサイティングなのは、「全国各地の人々にまつわる謎」の章だ。各地の住民がこよなく愛する「うどん」「アイスクリーム」「広島カープ」などが、どんな歴史をたどって人々の心を掴むに至ったか、その背景に物語性がある。たとえば、愛知県や岐阜県に浸透する、豪華な食事付きのモーニングサービスをはじめとした喫茶文化。その由来は、愛知県一宮市に栄えた繊維産業にあるという。工場の織機からの大きな機械音を避けるため、商談は工場ではなく喫茶店で行われるようになった。常連客にマスターがゆで卵とピーナッツをサービスしたのがモーニングサービスの起源とされていることや、周辺は養鶏業も盛んで、新鮮な卵が安く手に入ったことも背景にありそうだ、という補足も面白い。
読者の出身地や住んでいるエリアによって受ける印象が違うことも、この本の面白さだろう。出身地では当たり前だと思っていた習慣が他の県にはないと知ったり、自分の住んでいるエリアが実は○○第1位だと知ってなんだか嬉しくなったりと、移住して受けるような「プチ・カルチャーショック」的なネタが満載だ。今年の夏は旅行や帰省をしないという人も、この1冊で各地の地理や歴史、文化に触れて、日本を一周してみてはいかがだろうか。
文=川辺美希