妖怪が現れたらどうする!? 「たたかう」「にげる」「なかよくする」……ユーモアたっぷりな攻略法が盛りだくさんの一冊

文芸・カルチャー

公開日:2021/7/30

妖怪攻略大百科
『妖怪攻略大百科』(多田克己:監修/カンゼン)

 読者の皆さんは『ゲゲゲの鬼太郎』を観たことがあるだろうか。毎回繰り広げられる妖怪との戦いに胸躍らせた覚えのある人も多いはず。中には「自分ならこう戦うぞ!」とか「友達になってみたいなぁ…」と想像を巡らせていた人も少なくないのでは? ゲームから発展した『ポケットモンスター』や『妖怪ウォッチ』世代にしても、その思いは変わらないはず。ならば、妖怪や不思議な存在に対する攻略本だって想像力豊かな子供たちには必須ではないだろうか。

『妖怪攻略大百科』(多田克己:監修/カンゼン)は、「もしも妖怪に出会ってしまった場合」の攻略法を伝授してくれる一冊。特徴的なのは、相手によりその攻略について、「たたかう」か「にげる」か「なかよくする」か、と3つの指針を示していること。戦える相手なら戦いたいと思う人もいるだろうし、相手は人知を超えた妖怪だけに、時には逃げることも大切。だが、仲良くなれるなら仲良くなってしまう道があるのも楽しいだろう。しかし、どうやって……?

 まずは「たたかう」方法を見てみよう。相手はかの「口裂け女」。とある世代には幼少期に震え上がった思い出のある、昭和を代表する妖怪の一体だ。しかし、有名すぎるがゆえにその対処法も広く知られており、遭遇したらすかさず「ポマード!」と3回唱えればひるむといわれている。だが、本書では新たな説が示された。例のごとく裂けた口を見せつけられても「きれい!」と言い続ければ、彼女は照れてしまうというのだ。ツンデレかよ! 可愛いじゃねぇか……。

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 次は「にげる」しかない妖怪だ。その代表格として「牛鬼」を紹介したい。牛と鬼を合わせたような頭と蜘蛛のような体を持ち、いかにも禍々しい姿。しかも、出会っただけで病気になるとも、たとえ退治できてもその者の一族が滅亡するともいわれており実に厄介。やはり逃げの一手に限るが、ただ逃げるだけでは駄目だ。そこで有効なのが「石は水面を流れる、木の葉は水に沈む」といった現実とは真逆のことを唱えることだ。もっとも、それはそれで物理法則を理解し、冷静に述べることが必要で大変そうである。

 なら「なかよく」すべき妖怪とは? 令和の世が始まってすぐに一世を風靡した「アマビエ」は忘れられない。人魚のような鳥のような不思議な容姿で、古くから出会った人に予言めいたことを伝えるといわれており、その姿を描いた絵は流行り病を鎮めるとの噂も話題だった。ところが、アマビエ自身がその絵で病を防げるとは言っていないとの話も。実は仲間とされる「アマビコ」の絵は病気だけでなく凶作を防ぐといわれており、そちらと混同したのではとも。願わくは、直接会って確認してみたいものだ。

 ところで、個人的にもう一体気になる妖怪がいる。平成の世に突如として噂になった「人面犬」である。犬の体に人の顔を持ち、繁華街の路地裏で目撃されると「ほっといてくれ」と言い放ったというあれだ。他にも高速道路で車を追い抜いたとか噂されたが、特に人を襲ったという話は聞かない。むしろ、中年男性の顔を持った犬といった印象が強く、物語に登場するにしても“オジサンの悲哀”を背負った雰囲気も。本書ではその攻略として「なかよく」を勧める。大人なら一緒に酒でも酌み交わすべきか。

 妖怪というと怖い印象を持つ人もいると思うが、実は愛嬌のある連中が少なくない。中には、カッパのようにご当地キャラとして定着してしまった例も。そもそも有名な「百鬼夜行絵巻」も、古びた道具たちに手足が生えたキャラクターの絵のイメージが強く、妖怪とはとても身近な友人のようにも思えてくる……が、改めて本書の前書きを読み返すとこんな一文が。【ただし、妖怪たちはとてもしたたかです。もしかするとこの本に載っている情報も、妖怪がたぶらかした「ニセ情報」かもしれませんよ】と……ちょ、ちょっと待てぇ!

文=犬山しんのすけ