悪化すると痛みやかゆみが生じ、皮膚が変色することも。重症化しないための治療とケアとは?/下肢静脈瘤の治し方②
公開日:2021/8/11
広川雅之著の書籍『血管の名医が教える 下肢静脈瘤の治し方』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第2回です。足に謎のボコボコができる、青い血管がウネウネする…そんな症状で悩んでいませんか?下肢静脈瘤は、足の静脈の弁が壊れて起こる病気です。推定患者数は1000万人以上とされており、きちんとした医療機関で診察を受け、正しく治療をすれば改善されます。血管の名医でもある広川雅之先生が、「下肢静脈瘤のセルフケアと最新治療」をご紹介します。
里見さんは60代の主婦。足に血管が浮き出ていることを娘に指摘され、テレビで見た下肢静脈瘤では? と思い、広川先生のクリニックにやってきました。
下肢静脈瘤は、「血栓」の病気、
いわゆるエコノミークラス症候群とは関係ない
里見さん「血液がたまっているということは、その血の塊がとんで、脳梗塞や心筋梗塞になるのではないですか?」
広川先生「それはありえません。勘違いされている人が多いんですが、静脈瘤はあくまで静脈の中に血液がたまって、コブのようにふくらんでいる状態。血の塊は血栓といい、脳梗塞や心筋梗塞の原因となりますが、血液の流れを止めてしまうものなので、まったく別のものです。そもそも脳梗塞や心筋梗塞は動脈で起こるものなので、下肢静脈瘤とは関係ないんです」
里見さん「ちょっと安心しました」
広川先生「でも下肢静脈瘤については、他にも大きな誤解があるんです」
里見さん「なんでしょう?」
広川先生「エコノミークラス症候群を知っていますか?」
里見さん「はい、聞いたことがあります。座りっぱなしだとなりやすいとか」
広川先生「エコノミークラス症候群では、足の血栓が肺にとび、ひどいときは心停止を起こすこともあります。エコノミークラス症候群と下肢静脈瘤を混同している方が非常に多いんですが、まったく別の病気です。下肢静脈瘤でも、まれに血栓ができることはありますが、肺にとぶことはありませんし、命をおびやかすことはありません」
下肢静脈瘤がひどくなると、痛みやかゆみが生じ、皮膚が変色することも
里見さん「そういえば昔、友だちのお父さんが、血管がボコボコになったといっていたことを思い出しました。男性でもなるんですね」
広川先生「男女かかわらず、下肢静脈瘤は発症します。女性のほうが発症率は高いですが、男性でも遺伝や立ち仕事でリスクが高くなります。飲食業や理髪店とか」
里見さん「その方は板前さんだそうです。確かに立ちっぱなしの仕事ですよね」
広川先生「男性は、あまり見た目を気にしないので、仕事を休んで病院で診てもらうほどじゃない、と放置してしまうことが多いので重症化することが多いですね」
里見さん「重症化ってどうなるんですか?」
広川先生「皮膚に炎症が起きて、かゆみや痛みがでることがあります。さらに潰瘍ができてしまうケースもありますね」
里見さん「潰瘍? そうすると足を切断したりするんですか?」
広川先生「いえいえ、そうではありません。静脈瘤の潰瘍は足の切断にはなりません。しかし、痛みがあったり、出血する場合もあるので日常生活にかなり支障が出ます。病院で治らないといわれたり、あきらめてしまう人もいますが、正しい治療をすればちゃんと治ります」
里見さん「私もそんなふうになる可能性があるんでしょうか?」
広川先生「里見さんはまだ軽症ですから、大丈夫ですよ。今ならセルフケアで十分回復できるでしょう。ただ重症ではなくても、むくみやだるさ、足のつりなどの症状でお困りの人は、レーザーや高周波治療などを選ぶ方もいます」
治療は日帰りも。保険適用で費用面も安心
里見さん「治療というのは、どういうことをするんですか?」
広川先生「弁が壊れて血液がうまく流れなくなった静脈の血流を止める治療になります。いくつか方法があります」
里見さん「血管の治療と聞くと怖いんですけど……」
広川先生「そうかもしれませんね、でも、大げさなものではありません。静脈の中に細い管を入れ、レーザーや高周波電流(ラジオ波)で焼く治療や、最近では医療用の瞬間接着剤、いわゆるアロンアルファで静脈をふさぐグルー治療があります。昔から行われている静脈を引き抜くストリッピング手術もありますが、最近はあまり行わないですね」
里見さん「どれもどう考えても痛いんじゃないかと思うんですが……」
広川先生「いちばん新しいグルー治療は、管を入れる場所に局所麻酔をするだけなので、そのときに1回チクッとする程度ですよ。レーザーや高周波治療も、焼く前に局所麻酔をするので、治療中は痛みはありません。ストリッピング手術も今は局所麻酔でできるようになっています。治療もいずれも日帰りでできて、仕事にもすぐ戻れます」
里見さん「治療を受けたい場合、どの治療法にするか、どう選べばいいんですか?」
広川先生「エコー検査の結果による下肢静脈瘤の状態を元にして、治療に対するご希望や健康状態などを総合的に考えて、その人にとっていちばんいい方法を選択してもらっています」
里見さん「辛い症状を早く解消したいとか、見た目をきれいにしたいという人もいるんでしょうね。治療は高額なんですか?」
広川先生「どれも健康保険が適用されますから、高額になることはないですよ。例えば、レーザー治療やラジオ波治療の場合だと、保険診療ですので自己負担額は1割負担で約1万2000円、3割負担で約3万5000円ですね」
再発はゼロではないが、適切な治療とケアによって予防できる
里見さん「治療をすれば、完璧に治って再発しないんでしょうか?」
広川先生「再発はゼロとはいい切れません。きちんと診断して根本治療を行っても、治療前と同じ働き方や生活習慣、環境だと、どうしても静脈瘤になりやすいですし、遺伝ということもあります」
里見さん「そもそも静脈瘤になる原因が、仕事だったり生活習慣だったりするわけですものね。どのくらいの期間で再発する可能性があるんですか?」
広川先生「きちんと治療すれば2~3年のうちに再発ということはありません。再発したとしても、10年以上は経ってからでしょうね。しかし、治療が適切に行われていないと早期に再発する場合もあります。また、厳密には再発とはいえませんが、今ある静脈瘤を治療しても、新たに他の静脈にできてしまうことはあります」
里見さん「再発や新たな静脈瘤を防ぐには、セルフケアしかないですか」
広川先生「そうですね。遺伝や体質は変えられませんが、セルフケアや生活習慣の改善は再発防止につながります」
里見さん「どうすればいいんでしょうか」
広川先生「まずは足の血流をよくすること。足を動かすという意識を、日々の生活の中に取り入れるようにするといいでしょう。ちょっとした体操を日課にする、歩く距離を長くする、立ち仕事の人はつま先立ち体操をするなどで、静脈瘤になりやすい生活習慣の改善をはかることです」
里見さん「そうですね、私も生活習慣を見直してみることにします!」