藤本さきこの本喰族!! 酒飲みにはつらい書名…『しらふで生きる』町田康 /連載第14回
公開日:2021/9/4
私にとって本は、食べて吸収し細胞にするもの。
食べることと同じくらいを作っていく。
食物が肉体のエネルギーを作るなら、書物は魂のエネルギーをつくる。
ひとつだけ違うことは、魂には「お腹いっぱい」という感覚がないこと。
お腹いっぱいにするために読むのではないのだ。
この連載「本喰族」では、魂がピンときた本をどんどん喰っていきたいと思います♡
『しらふで生きる』町田康
大酒飲みの編集者が、恐る恐る「これ……」と教えてくれたのが読むきっかけでした。
大酒飲みの町田康さんが「しらふで生きる」と決めたそうです。
酒飲みには辛いタイトル。
以前オンラインサロンでこの本を紹介したことがあった。しかし酒飲みたちの拒絶反応をすごく感じ、「オススメの本、買いました」とアップされる写真もどういう訳か「本の隣にビール」という構図が相次いだのです。
「読みます、でも酒飲みながらね」という抵抗。抵抗というより防御かもしれない。
「禁酒しよう」。
そう思って手に取るのとは全く違い、不意に聞くと脊髄反射で敵意と抵抗が出る。
なぜ禁酒と聞くとそうなってしまうのか?
本当は「飲まないほうがいい」と思い当たることが心の底にあるからではないのか?(※自分に言っています)
ものすごい勢いで畳み掛けてくる文章。どんなに酒が好きだったか、どれほど酒飲みの気持ちを分かっているか。
町田さんは30年以上にわたる大酒飲みだったので、酒飲み達がきっとこう言うであろう反論も熟知しており、しつこくネチネチと先手を打つ。町田さんは言う。
“どうやって酒をやめたのか自分でもよく分からない。強いて言うなら、気が狂っていたから。”
ある日、「酒を飲まないなんてどうかしている」というこれまで通りの「正気」と、突然「酒を飲むなんてどうかしている」と言い出した「狂気」が自分の中でせめぎ合い、「あまりに狂気がうるさくてムカつくので玉川通りに突き落として殺してしまった」のだという。
「狂気」が死んでしまったので、狂気の言い分を確かめたくても確かめられない。そこで自分の中でずっと対話し検証しているという。気が狂い酒をやめてしまったまま、3カ月、半年、1年、3年と経過するごとに、禁酒の利得の方が明らかに多く、やはりこれまでの「正気」の方が疑わしかった、飲酒とは人生の負債である。なぜならば…と、酒飲みには耳が痛すぎる正論を延々語っていく。
酒飲みであれば「飲酒による負債」は、きっと誰でも思い当たることがあるでしょう。奇行や暴言、巻いて巻いて巻きまくる管。「僕がいちいち具体例をあげなくても向こうが勝手に思い出してくれる」「その時どんな顔をしていたか。ジッパーはちゃんと閉まっていたか。シャツのボタンは外れていなかったか。化粧は剥げていなかったか。息は臭くなかったか」
読み進めているうちにこれまで自分の愚行を色々思い出してしまった。
ある朝、目覚めたら、とうもろこし畑で寝ていた、とか、偉い人の頭を大勢の前ではたいてしまった、とか。思い出して気分が悪いなんて、完全に人生の負債である。
これらの負債がなくなることはもちろん、ダイエット効果、睡眠の質の向上、経済的な利得などなど良いこと尽くめ。さらに「脳髄のええ感じ」というのがオマケについてくる。お酒を飲んでいた時にはなかったシンクロやセレンディピティが次々に起こるという。
町田さんはドグラ・マグラから引用している。
「脳髄は物を考える処にあらず」
何かインスピレーションのようなもの、神の導きのようなものが差し込む処、ではないか。町田さんに突然湧いた「狂気」はきっと魂の声。魂の声は常に「狂気」の類だと思う。
説得力が溢れまくる1冊、グウの音も出ませんでした。
文=藤本さきこ
(プロフィール)
藤本さきこ●ふじもとさきこ/株式会社ラデスペリテ 代表取締役
1981年生まれ、青森県出身。累計3万人以上を動員した「宇宙レベルで人生の設定変更セミナー」を主宰する人気講演家。4人の子の母でありながら、実業家としても活躍。1日20万アクセスを誇るアメーバのオフィシャルブロガーとしても知られる。友人と共同創業した「petite la' deux( プティラドゥ)」は実店舗からネットショップへ事業形態を変更。布ナプキンや化粧品、香油、ハンドメイド雑貨を販売。そして、「Laddess perite(ラデスペリテ)」では、自身が開発したオリジナルの万年筆やノートやスタンプ、自ら選んだ文房具を発売し、いまや年商3億円を超える規模に拡大。自らの人生を「明らめた(明らかに見た)」結果、宇宙の叡智に触れる経験をして以来、「女性性開花」をテーマに人生の在り方を追求。著書『お金の神様に可愛がられる』シリーズ3部作はベストセラーになり、『お金の神様に可愛がられる手帳』(いずれもKADOKAWA)は、4年連続で刊行している。