「松坂さんはギラギラした凄みがあった」映画『孤狼の血 LEVEL2』公開記念! 原作者・柚月裕子インタビュー

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更新日:2021/8/19

映画『孤狼の血 LEVEL2』
(c)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

 2021年8月20日公開の映画『孤狼の血 LEVEL2』。前作から3年。待ちに待った続編は、“LEVEL2”と謳われている。サブタイトルを付けずにあえて次のステージへとハードルを上げた今作。原作者の柚月裕子さんにお話を伺った。

(取材・文=野本由起)

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 昭和63年の広島を舞台に、暴力団組織の抗争、それを追うベテラン刑事・大上と新人・日岡の死闘を描いた映画『孤狼の血』。あれから3年、オリジナルストーリーの『孤狼の血 LEVEL2』が幕を開ける。アクション、衝撃度ともにレベルアップした同作を観て、柚月さんはとにかく圧倒されたと話す。

「白石監督と脚本の池上(純哉)さんには全幅の信頼を寄せているので、ストーリーについて口を出すことはありませんでした。プロットを読んだ時から『これはハードな作品になるだろう』と楽しみにしていましたが、いざ拝見したら前作とは違った面白さで。前作は、観終えたあとに力が抜けて椅子から立ち上がれなくなりましたが、今回は体から熱が込み上げ、叫び出したくなったほど。自分の限界、映画界のリミッターを突破しようという白石監督の気概が伝わってきました」

 中でも柚月さんを驚かせたのが、松坂桃李さん演じる日岡の変貌だ。

「私も『暴虎の牙』で大上の遺志を継いだ日岡を描きましたが、この映画の松坂さんはギラギラした凄みがあって、『ああ、日岡はこんな風に大上の血を受け継いだのか』と感慨深く拝見しました。役作りのために、体も絞られたそう。体重を落とすと、ともすれば弱々しい印象になりかねませんが、松坂さん演じる日岡からは余計なものを削ぎ落した凄みを感じました」

 そんな日岡に相対するのが、鈴木亮平さん演じる上林成浩だ。出所直後に“世話になった”刑務官の妹を惨殺し、その後もオヤジと慕う五十子会前会長の仇を取るため、次々と敵対者を抹殺。暴力性が際立つ男だが、柚月さんはそんな上林に哀しさを感じたと話す。

「鈴木さん演じる上林って、隙がないんですよね。全編通してピリッと張り詰めた緊迫感がスクリーンに漂っていて、そこに誰のことも信じられない上林の孤独を感じました。彼の暴力も、まるで嘆きの叫びのよう。日岡の熱さと上林の冷たさが、対照的でした」

 実は柚月さんも、クラブのママ役でワンシーンだけ出演。和服姿で登場し、日岡の手にそっと触れる演技も披露しているが……?

「ものすごく高価な絵画、貴重な宝石に触れているような感覚でした。その一方で、『とにかく体を壊さず頑張って』という母親のような思いも。いい記念になりましたし、役得でしたね(笑)」

映画『孤狼の血 LEVEL2』
(c)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

日岡と同じ目線で成長しながら書いた三部作

 原作は、『孤狼の血』『凶犬の眼』『暴虎の牙』の三部作で完結。そこに今回の映画が加わったことで、作品世界はさらに厚みを増している。

「『孤狼の血』と『凶犬の眼』の間を描いていただいたので、映画を加えて四部作になったようでうれしいです。映画を観て、小説でも日岡をもっと暴れさせてもよかったかなと思いました(笑)」

 そもそも原作シリーズは、どのような思いから生まれたのだろう。

「『孤狼の血』で描きたかったのは、映画『仁義なき戦い』のような男たちの熱い戦い。その後『凶犬の眼』を書いたものの、日岡は大上の遺志をしっかり受け継いだのだろうかという問いが、私の中に残っていて。編集者から『ゴッドファーザー』のように三部作にしてはどうかという話をいただき、『暴虎の牙』を執筆しました。このシリーズは、日岡の視点で物語が進みます。彼の視点は著者の目線ですから、日岡を成長させるには私自身も成長しなければなりません。日岡と同じ視点に立てるだろうか、いや立たなければと思いながら執筆しました」

 すでに完結を迎えたものの、今後スピンオフを発表する予定もあるとのこと。

「執筆中は苦労の連続ですが、完結してから振り返ると『もっとこんなこともさせてみたかった』と思うんですよね。そういう意味でも、思い入れの深い作品です。時代が変わり、暴対法が施行されても、利をめぐる争いは絶えません。現代に引き寄せたアウトロー小説、『孤狼の血』のような熱量のある作品を書いてみたいです」

柚月裕子さん

ゆづき・ゆうこ●1968年、岩手県生まれ。2008年、『臨床真理』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞を受賞。他の著書に『慈雨』『月下のサクラ』など。

「孤狼の血」シリーズ

昭和63年、広島。新人刑事の日岡は、ベテランの大上とコンビを組むことに。暴力団と癒着し、違法捜査も辞さない大上に反発する日岡。やがて彼らは、暴力団の抗争に巻き込まれていく。正義の意味を問う『孤狼の血』、駐在所に左遷された日岡の復活を描く『凶犬の眼』、大上の過去、日岡のその後が語られる『暴虎の牙』から成る三部作。

映画『孤狼の血 LEVEL2』

映画『孤狼の血 LEVEL2』
原作:柚月裕子「孤狼の血」シリーズ 監督:白石和彌 脚本:池上純哉 出演:松坂桃李、鈴木亮平、村上虹郎、西野七瀬ほか 配給:東映 8月20日(金)全国ロードショー ●3年前、暴力組織の抗争に巻き込まれ命を落とした刑事・大上。その後を継ぎ、刑事・日岡は広島の裏社会を治めていた。しかし、刑務所から出所した要注意人物によって、秩序が崩れていく。絶体絶命の窮地を、日岡は乗り切れるのか――。
(c)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

公式サイト:https://www.korou.jp/