SNSの投票で方角や行動を決める! 新人漫画家の“ざつ旅”+αの記録
公開日:2021/8/14
相変わらずコロナ禍で行動が制限され、なかなか思うように活動できない日々が続いている。1年半ほど前には非日常だったコロナと戦う日々も、今や日常となってしまった。長引く自粛生活に息抜きの仕方が分からず、日々ストレスを溜め込んでいる人も多いのではないだろうか。そんな人にぜひとも読んでほしいのが、この『ざつ旅-That’s Journey-』(石坂ケンタ/KADOKAWA)。「次にくるマンガ大賞」にも2年連続でノミネートされている注目作だ。
本作品の主人公は、新人賞を受賞したものの、その後思うようにいかず、ネーム全ボツで心が折れかけている新人漫画家・鈴ヶ森ちか。鈴ヶ森はそんな中、ふと「旅にでたい…」と思い立つ。そしてテレビでたまたまやっていたサイコロで旅の行き先を決める番組をヒントに、SNSの投票機能を使って「上の方」「右側」「左でしょ」「下へ」と旅先の候補を投稿。はじめは冗談半分だったが、漫画家の師匠・糀谷冬音にリツイートされたことで3000以上の票が集まってあとに引けなくなり、投票結果の「上の方」に旅に出るのだった。
鈴ヶ森は特に旅慣れしているわけではなく、この“ざつ旅(=ざつな旅)”も最初は本当に手探り状態で始まる。しかし好奇心旺盛な彼女は、新幹線での移動や駅弁、知らない町の風景や名物など、旅先で出会ったひとつひとつを余すことなく楽しんでいく。宿の確保すら行き当たりばったりで楽しむ様子に、見ているこちらも冒険しているような、ワクワクとした気持ちになってくる。この最初の旅以降、鈴ヶ森はすっかり旅の魅力にとりつかれ、度々SNSでアンケートをとっては旅をするようになる。
また、最初は1人で始めたざつ旅も、次第に友人や漫画家仲間が加わって賑やかになっていく。みんなでわいわい旅を満喫しながらも、それぞれ漫画のヒントを得ようと思考(と妄想)を巡らし、思いついたネタは逃さない。そんな仲間に刺激を受け、鈴ヶ森自身も漫画家として成長していく。
しかし、こうして旅を楽しむ彼女たちの前に、大きな壁が立ちはだかる。2020年から始まった、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言などの外出自粛要請だ。自粛で旅に行けなければ、鈴ヶ森ちかの旅も止まってしまう。だが、彼女たちは止まらない。東京都から出ることができないのなら都内の人が少なそうなところを、それも難しいのなら家の中で楽しめるものを、と積極的に“楽しみ”を探して活動していく。
できないことを嘆いて終わるのではなく、できることを探して前向きに。鈴ヶ森のこうした姿勢は、コロナ禍の鬱々とした空気に飲まれがちな状況に活力と元気をくれる。今も、鈴ヶ森のアンケート活動は続いている。日々に退屈さを感じている人、ストレス発散ができずにいる人は、この『ざつ旅-That’s Journey-』を読んで、今無理なくできることを見つけてみては?
文=月乃雫