“成り行き”で豊かな暮らしを手に入れられる「複業家」とは
公開日:2021/8/14
“人生は成り行きでいい”
こんな一文から始まる本が、『出世しなくても、幸せに働けます。 複数の仕事で自分を満たす生き方』(中村龍太/PHP研究所)だ。著者は、かつてNECやマイクロソフトに勤務し、現在はサイボウズ社勤務や自営農家などの「複業家」を実践している中村龍太さんである。
「複業家」とは、「パラレルワーカー」ともいわれ、いくつかの仕事を並行して実践する人を指す。コロナ禍以降、働き方の柔軟性の大切さが知られる状況となった。そんな今だからこそ、金銭的にも精神的にも安定することが期待される「複業家」に注目が集まっている。
中村さんがしている仕事は、IT企業のサイボウズ社勤務のほか、農家、ドローンを使った動画撮影、パエリアづくり教室、アウトドアグッズ全部貸し出しサービスなどである。例えばパエリアづくりでは、調理を通して参加者が「ティール型組織」の形成を学ぶことができる。
キャリアやスキルのある中村さんだからこそできる働き方だと思う方も多いだろう。しかし、中村さんはそれを否定する。「犬の散歩だって立派な複業」だというのだ。
実際に、中村さんの知人に犬の散歩が好きな女性がいた。本業の会社員以外の時間に、朝晩2時間ずつ犬の散歩をして、「犬友」ができていった。あるとき彼女は多忙な「犬友」から散歩を頼まれ、引き受けると、後日謝礼を受け取った。犬の散歩が仕事になることに驚いたそうだ。まさに“成り行き”で、好きなことを仕事にすることができたのである。
のちに彼女は、ペットシッターという仕事があることを知り、資格を取得。こうして彼女は、好きでしていた活動が仕事となり、「複業家」となった。
このように、1日のなかの「散歩をした」「ランニングをした」「フレンチトーストを作った」「半身浴をした」といった些細な営みが、複業家への第一歩となる可能性を秘めているというのだ。
複業を考えるとき、中村さんが重視するのは、報酬の捉え方だ。報酬は、お金とは限らない。お金のほかにも「経験」や「つながり」があり、それらを得られるのなら報酬は低くてもいいと考えられる。例えば中村さんの場合、トークイベントのモデレーターの仕事は、経験やつながりを重視して、ワンコイン500円で引き受けているそうだ。
“お金にならない複業でもいい”と考えれば、最初の一歩が気楽になるだろう。不確実なこれからの時代に、実践者だから書くことのできる「複業家」の生き方を本書で知ってみては。
文=遠藤光太