「石油王」なんていない? 日本のロボットアニメや「ポケモンGO」が人気? “中東きっての有名日本人”が語るアラブ事情
公開日:2021/8/19
砂漠、オイルマネー、立派なヒゲに民族衣装、イスラム教……。私達はアラブ諸国に対してこんなイメージを抱いている。それはとてもステレオタイプで安易な考えだが、やはり「石油王」という単語にはワクワクしてしまう。
そんな偏見&勘違いを打ち砕いてくれるのが『私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか?』(鷹鳥屋明/星海社)。民族衣装を身にまとい、日本の企業で働くビジネスパーソンとして中東に飛び込み、サウジアラビアやアラブ首長国連邦、カタール、クウェートなどの人々とさまざまな交流をしている著者が、最新・実際のアラブ事情を教えてくれる。
石油王はいない? 中東の王族・お金持ち事情
そもそも、「中東」とはどこを指すのか。歴史的に見ると、ヨーロッパから見た位置を示していて、軍事用語や地政学の学術用語だったそうだ。言われてみれば日本は「極東」と呼ばれている。イランやトルコ、エジプトやサウジアラビアなど、「中東」の範囲は実はかなり広い。
私達がイメージする「王族」とは、平たくまとめると中東諸国における「戦国時代を勝ちぬいた部族」のこと。サウジアラビアには2万~3万人ほどいるそうなので、意外と多いのである。さて、そこに(お待ちかねの)石油王がいるかというと、これがいないそうだ。
残念ながらみなさまがよくよく想起するテンプレートのような「石油王」は存在しないのです。
と、はっきり断言されている。というのも、石油やエネルギーは公的企業になっていることが多く、従業員は公務員に近い。その会社の社長だからといって石油王とは呼べないのである。ただ、財閥を形成している一族や、トヨタやハイブランドの代理店になっているなど、経済的に豊かな人々ももちろんいる。アラブのお金持ちのスケールの大きな話は本書にもガンガン登場し、大変おもしろい。
アニメ・ポップカルチャーが大人気の「中東オタク事情」
著者がオタクであるせい(おかげ)か、日本のポップカルチャーがアラブ諸国で人気なことが第3章でたっぷりと語られている。日本のアニメやゲームは非常に人気なのだとか。どうもそれには歴史的背景が関わっていて、反欧米感情などが影響しているそうだ。
ただ、イベントでアラブの人々がアニソンを熱唱したり、1975年のアニメである『UFOロボ グレンダイザー』が視聴率60%超えを叩き出したりという話を聞くと、単純に日本人として「それは見てみたい」と思ってしまった。
とりわけ、ポケモンGOにハマったものの自宅の周りが砂漠でポケストップやジムなどがなく、ひたすら走ることでタマゴを孵しポケモンを集めたマッチョ青年の話は大変興味深かった。自分がポケGOで全く移動せずモンスターボールを投げてばかりの人間なので特に……(結果的に青年は1000キロ以上走ったらしい)。
アジア人として中東でビジネスする著者の「強さ」も読みどころ
アラブのスポーツ事情や、日本風のパン屋さんが人気になっているなど、現地で過ごしてきた著者ならではのリアルでおもしろい話が最後まで盛りだくさんである。
一方で、同時に著者がどれだけ苦労したのかも本書にはにじみ出る。アジア人差別や、日本人の常識では計り知れない出来事に何度も遭遇し、その中で戦ってきたからこそ今の著者がいるのだろう。そのたくましさも、この本の読みどころだ。
文=宇野なおみ