これから私たちが見ておくべき「流域」とは? 増えていく風水害や土砂災害に備える知識

暮らし

公開日:2021/8/18

生きのびるための流域思考
『生きのびるための流域思考』(岸由二/筑摩書房)

 豪雨が増えた。実体験やニュースから危機を認識している人も多いだろう。

『生きのびるための流域思考』(岸由二/筑摩書房)は、慶應大学名誉教授の岸由二さんが豪雨災害の増えた時代に危機感を抱いて“緊急出版”した本である。

 豪雨災害が増えているのは、気候変動の影響である可能性が高いと言われている。もちろん“数十年間隔の気象変動のレベルという解釈も完全に否定されているわけではありません”と岸さんは留保しつつも、「生きのびるため」には、今後この豪雨災害が続くと考えて対応することが重要になる。

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 鍵となるのが「流域」と岸さん。流域とは、「雨の水を川に変換する大地の構造」である。例えば、河川の近くで雨が降っていなくても、河川が氾濫することもある。これは河川だけをみるのではなく、流域を見なければわからない。

“行政によるハザードマップだけではなく、この「流域」を枠組みとした「流域思考」を知ることで、豪雨による災害にきちんと備えることができるようになるのです”と岸さんは説明する。

地球は、壮大な水循環の惑星

 岸さんは“地球は水の惑星というだけでなく、壮大な水循環の惑星でもある”と述べている。

 地球を覆う水は、蒸発し、雲になり、雨となってまた地面に降る。私たちは、その循環のなかで、住処を作り、暮らしているのだ。岸さんは、水循環の惑星である地球を、このように説明してくれる。

“集水された雨の水は、さまざまな程度に保水され、合流を受けて増水し、一部は遊水されながら下流に向かい、時に大氾濫を起こして、海へと排水されていく”

 例えば、森に降る雨は全てが一気に川に流れるわけではない。森は保水の機能を持っているため、“晴天が続いた後の雨であれば、一時間に50~100mm規模の豪雨であっても、大半が浸透・吸収されると思われます”と岸さんは言う。特に、大きな森は大きな保水力を持っているため、一気に流れ出すケースは少なくなるとか。

自治体の壁を超えて

 いざというとき、私たちに避難指示を出すのは、市町村長というきまりになっている。それはもちろん重要な情報であるが、豪雨災害は市町村の枠組みを超えて襲ってくる。「流域」に目を向けなければならないのだろう。

 そして行政は、変わってきているそうだ。2020年7月の国土交通省の審議会で、「流域治水」の方針が打ち出されたのである。治水とは、「大量の雨が降っても、低地の人の暮らしが水害を被らないようにする」こと。これまで「河川」が水害を引き起こすという考え方で治水が試みられてきたが、ようやく本質的な「流域」がフォーカスされ始めた。岸さんはこれを“日本の治水の歴史でいえば、革命といっても大げさでない”と評価する。

 豪雨に対応する治水がわかりやすくなり、暮らしや産業との調整の見通しがよくなる。これからの治水には注目だ。

 危機の時代に、本書を参考に「流域」をチェックし、対策を考えてみることをおすすめしたい。

文=遠藤光太