「次にくるマンガ大賞2021」コミックス部門第4位『女の園の星』 女子高の日常に、突如現れる非日常が笑いを誘う!

マンガ

公開日:2021/8/26

 ユーザーから「次にくる」と思うマンガを募集し、そこでノミネートされた作品から投票によって大賞を決める”ユーザー参加型”のマンガ大賞「次にくるマンガ大賞」。7回目となる今年、ついに受賞作品が決定しました! コミックス部門とWebマンガ部門を合わせたエントリー総数は3,582作品、投票総数は約51万票。その中からコミックス部門で第4位に選ばれた『女の園の星』(和山やま/祥伝社)を紹介!

 舞台は女子校。主人公はそこの学校で2年4組の担任を務める国語教師の星先生。天真爛漫な女子高生たちと星先生の、くだらなくて、じわじわと笑えてくる日常を描いた『女の園の星』(和山やま/祥伝社)は、独特の空気感とユーモアセンスで唯一無二の存在感を持つ作品だ。

 ジャンルとしての学園ものは漫画作品の中でも鉄板ではあり、ともすればマンネリな展開が予想されてしまうところだが、本作で描かれる日常風景の妙なリアルさと、それによって浮き彫りになる非日常的な風景の落差が見どころだろう。

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 物語の中で、特段大きなイベントが起こるわけではない。例えば学級日誌で自然と絵しりとりが始まったり、教師の結婚に沸きたち記者会見のような盛り上がりを見せたり、夜に外で飲んでいる先生を見つけたらSNSでクラス中の生徒に話が広がったり、等身大の女子高生の「いかにもありそう」な日常が描かれている。また、その中で繰り広げられる彼女たちの会話も、いい意味で肩の力が抜けていて、フィクションであることを忘れてしまうほどにリアルなトーンで話は展開していく。

 一方で、そんな脱力感のある世界観の中だからこそ、唐突に校舎内に現れる「見知らぬ犬」や、教師のことを執拗に追い回し観察日記をつける女子生徒の異様さが浮き彫りになる。学園コメディであれば、ちょっとしたトラブルやキャラクターの一種としてさほど重要視されないような要素も、描写や絵のタッチがどこまでもリアルであるからこそ、日常と非日常の落差がおかしく、じわじわと笑えてくるのだ。

女の園の星
(C)『女の園の星』和山やま/祥伝社フィールコミックス

女の園の星
(C)『女の園の星』和山やま/祥伝社フィールコミックス

 もう1つ印象的な点としては、星先生のプライベートな情報がほとんど描かれないことだ。ほぼ学校内を舞台にしているこの閉鎖的ともいえる形は、作品の味わいをより濃いものにしているように思える。読者は、気がつけばそのとことん描き込まれたリアルな描写によって、生徒たちとともに学園生活を追体験しているような感覚に陥る。そこで起こる、些細だがちょっと異様な出来事が、まるで自分事のように近くに感じて、笑ってしまう。「教室で犬を飼う」なんて、言葉だけではそこまで笑うほどのことではないが、作品の持つ没入感の前では、その異様な光景がとてつもなくおかしいものとして目に映るのだ。

 私がこの作品を読んだとき、最初に感じたのは「懐かしい」という感覚だった。もちろん犬が学校に入り込んだことも、その犬にクラスメイト全員で眉毛を描いたことも、先生の一挙一動を追いかけて日記をつけたこともないが、作者の圧倒的な画力と表現力に、気がつけば自分も一生徒のような気分で読んでしまっていた。

 淡々と描かれる学園の日常は、読んでいてなんだかとても心地がいい。それでいて、ときにお腹を抱えて笑ってしまうほどおかしい場面が唐突にやってきたりする。なんとも不思議な魅力を持つ作品である。気がついたら虜になっていること間違いなしだ。

文=園田菜々