「わたし」を構成する8つの要素とは? 自分探しの脳内旅に出かけてみよう
公開日:2021/8/20
「自分らしさって何だろう?」――それは多くの人が悩み、永遠に解けない謎……と思われていた。しかし今や、脳科学、心理学、進化論の最新知見により「わたし」が解明しかけているという。しかも、たった8つの要素で説明できるのだとか。『スピリチュアルズ「わたし」の謎』(橘玲/幻冬舎)は、多くの科学的な実験をもとに、「自分らしさ」を追究した一冊である。著者の橘玲氏は、小説、評論、投資術など幅広い分野で執筆。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮社)で新書大賞2017を受賞した作家だ。
著者の述べる8つの要素とは下記の通り。
(1)外向的/内向的
(2)楽観的/悲観的(神経症傾向)
(3)同調性
(4)共感力
(5)堅実性
(6)経験への開放性
(7)知能
(8)外見
この項目を見て、「ビッグファイブ」を思い浮かべた方もいるのではないだろうか。「ビッグファイブ」は科学的に信頼性の高い性格分析の手法のことだ。上記の8つの要素は、ビッグファイブをもとに、「わたし」を理解するために必要だとし、著者が拡張したものである。
著者いわく、「『わたし』はこれらの要素の組み合わせでしかない」という。
「それって飲み会で盛り上がる心理テスト的なレベルの話でしょ?」と思ったかもしれないが、そんな人こそ、本書を読んでほしい。
なぜ著者が8つの要素で「わたし」が説明できると思いついたのか。また、その信憑性(証拠とも言える)についても本書に詳しく書かれている。
きっかけだけを書いておくと、著者は2018年春頃、たまたまネットで「フェイスブックの『いいね!』をコンピューターに読み込ませるだけで、それ以外のデータがまったくなくても、どのような人物なのかをきわめて高い精度で予測できる」という記事を読んだそうだ。さらに興味を持って調べていき、この本書の内容に行き着いたそうである。
本書ではまず、スピリチュアル(無意識のこと)とビッグファイブ理論を「秒速で」説明している。
次に、上記の項目について、そういった「脳の動き」をなぜ人間がするようになったのかを、アカデミックな知識から説明し、また各国の研究者によって行われた数多くの実験を紹介している。
例えば「外向的/内向的」についての章では、生物の根本的な性質から説明している。人間は感覚器官が「快」を感じると中枢神経が興奮し、その方向に筋肉(=身体)を動かす指示を送る。「不快」なら逆の方向に身体を動かそうとする。これが「動く生物」の基本なのだそう。
そして脳(中枢神経)が快適に感じる度合いは、ほぼ決まっているらしい。そこから、
外向的な人=刺激に対して鈍感なので、興奮度を上げようと強い刺激を求める。
内向的な人=刺激に対して敏感なので、興奮度を下げようとして強い刺激を避ける。
よって、外向的な人は新しい場所や経験を求めて活発に行動し、内向的な人は静かな空間や慣れ親しんだ場所に留まる傾向があるのではないだろうか。
本書はこういった脳科学と進化論の観点から「わたし」の性格を明らかにしている。また、こういった小難しい話が続くのではなく、「ダイエットに成功するにはダイエットしないこと」「『日本人は集団主義』はほんとうか」「『男は女の気持ちがわからない』には根拠がある」など、身近な話題に関しても触れられているので、雑学感覚で楽しく読むこともできる。
巻末では簡易版のビッグファイブ検査もできるので、ぜひやってみてほしい。今は自分探しの旅行にはなかなか行きづらいが、本書で「本当のわたし」に出会える旅ができるかもしれない。
文=雨野裾