相手から得た情報を整理・要約して相手に返す「情報のキャッチボール」の重要性/本当に頭がいい人の思考習慣100②

ビジネス

公開日:2021/8/31

齋藤孝著の書籍『本当に頭がいい人の思考習慣100』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第2回です。現在、インターネットで容易に情報を得られるようになり、AIの進歩で「考える」という行為の必然性も減るような状況にあります。一方で、自身の能力に対して投資する傾向にあり、「頭がよくなりたい」と考えている人も増えています。そこで、ここでは教養・学びを自ら得て「頭がよくなる」とはどういうことかを理解し、その状態に常に昇華できるクセをつけるための習慣の身につけ方をお教えします。

『本当に頭がいい人の思考習慣100』を最初から読む

本当に頭がいい人の思考習慣100
『本当に頭がいい人の思考習慣100』(齋藤孝/宝島社)

そもそも「頭がいい人」とはどのような人なのか

知識のキャッチボールができるか否か

 頭がいい人というのは、情報を効率よく取り入れて、正しく伝えることができる人。つまり、インプットとアウトプットが上手な人です。

 相手から得た情報を整理し、それを要約しながら相手に返す。いわば「情報のキャッチボール」です。来た球を捕れますし、それをまた相手の胸元へコントロールよく投げられる。それを繰り返すことができるので、相手も気持ちよくキャッチボールが続けられます。

 これは、現代社会では大変重要な力です。個性と理解力のどちらが仕事仲間として必要かと聞かれたら、たいていは「まずは、こちらが話したことを理解できる人」という答えが、多くのビジネスシーンにおける本音ではないかと思います。

 最近は大学入試の形態が変わってきました。同じ問題を一斉に解く一般入試以外に、自己推薦やAO入試という方法で選抜されるようになりました。いわゆる入試の多様化です。

 そこで感じるのは、受験日に向けて何年もコツコツと準備してきた学生というのは、やはりすばらしいということです。個性やクリエイティブというより前に、合格するためにやらなければならないことを理解し、受け止め、それを長期にわたり持続することができる人は、当然ながら粘りもあります。

 サッカーであれば、まずはボールを蹴るという基本技術がしっかりしていなければ困ります。それには、受験勉強のようにコツコツと繰り返して練習をする必要があります。そのうえでクリエイティブ性が加わると、その選手は非常に強いということになります。

論理的な人はスポーツの世界でも成長できる

 近年、教育の現場では「表現力」というものが問われるようになりました。これは思考判断といわれるものです。新しい価値を見出す知性であり、頭がいいといわれる人が共通してもっている力です。

 これを日常的に活用できているのが、たとえば数学者であり、科学者であり、将棋の棋士などもそうです。もちろん、スポーツ選手だってそうでしょう。

 今までの方法を学習して知っていて、そのうえに新しい価値を加える。つまりは、付加価値を見つける力です。「付加」とはすなわち、今までのことをわかっているということ。それには先述したような、コツコツと積み上げる受験勉強のように、地道な学習の蓄積が必要であることはいうまでもありません。新たな付加価値を生み出せる人は、受験生型の努力を決して怠らなかった人という言い方もできるでしょう。

 スポーツの世界でも、監督の立場からすれば「頭がいい選手」は大変にありがたい存在です。たとえ身長が低くて体格には恵まれていなくても、頭がいい選手を監督は使いたいと考えます。

 それは、監督が求めることをスピーディーに理解し、それを実行できるからです。監督が自分に何を求めているかを正確にくみ取る。すなわち戦術理解力に長けているのです。

「この試合、相手がこう来るだろうから、今日はこういう戦術でいく。君はこういう役割だ。しかし、相手に大きな変化があれば、それに応じて変更する」と監督が伝えると、それをすぐに理解します。実際、それができない選手もけっこういるのです。

 これがもう少し上のレベルの選手になると、用意したシステムが通用しないときに、それを自分でアレンジすることができる。こうした融通の利く対応力。それこそが、頭がいい人の特徴といえるでしょう。

「頭がいい」から37歳でもプレーできる

 サッカーのブンデスリーガで活躍を続ける長谷部誠選手が、37歳という年齢で契約を延長し、今も変わらずチームから信頼されている理由のひとつが、戦術を正しく理解し、それを行動に移せるからだといわれています。

 行動できるということは、論理的な思考をもつ選手であるということ。事実、サッカーは論理的な思考が必要なスポーツで、「パス出し」というシンプルな行為ひとつとっても、「なぜそこにパスをしたか」という理由が存在します。味方がここ、あそこに敵、ここで味方にパスが通れば逆サイドに展開してシュートまでいける、ゆえにこの味方にパスを出す……という具合です。これは論理的な思考がなければできません。

 チーム関係者が「ハセベは、ほかの選手が向かう場所にすでに立っていることが多い。シチュエーションを予測し、読み取れているからだ」と語っています。長谷部選手の「頭のよさ」がわかる、実に象徴的なエピソードではないでしょうか。

現代社会に求められている「頭のよさ」とは何か

変化に対応し、相手の気持ちを理解できる

 時代が求める「頭がいい人」とは、どのような人でしょうか。まず前提として、世の中の価値観は時代とともに大きく変化していますから、その変化に対応できる力が求められます。時代が自分に求めているものは何なのか、何ができるのか。それを考える思考力をもっている人、そういう人を「頭がいい」と世の中は評価します。

 お笑い芸人のみなさんはしゃべりのプロですから、たとえばプライベートな時間でお酒を一緒に飲んでいても、場を盛り上げることが得意です。私たちには真似ができません。

 しかし、競争が激しい世界ですから、業界で生き残れる人たちはごくわずか。その成功者たちに通じる共通点は、制作スタッフが自分に何を求めているかが理解できているということです。

 たとえば、トークを時間軸で捉えながら、10秒や15秒という枠の中で、言いたいことをズバリと言い尽くすことです。

 話をスタートする前に、15秒後の着地点を意識し、そこから逆算して要点をまとめ、最後にクスッと笑えるオチまでつけて話ができる人。すべてとはいいませんが、テレビの世界で残っている芸人さんの多くは、こういうタイプの人ではないかと思います。

 そういう意味では、実は私も、過去にテレビで大失敗をしたことがあります。まだテレビという世界に慣れていない頃、ある番組で司会者から話をふられ、それに対し知っていることを私なりに答えたのです。

 自分としては、そつなく話せたかなと思っていたのですが、あとで知ったところでは、それがすべて編集でカットされていました。理由は、私の話が長すぎたのです。ひとつの質問に対して40秒ほどかけていたため、間延びして番組が構成できなかったようです。

 これはつまり、私が制作サイドの意図を正しく把握できていなかったということになるわけです。言い換えれば、相手の気持ちがわからなかった、求められているものを正しく理解できていなかったということになり、大いに反省したことを今も覚えています。

場面に応じて求められるものは違ってくる

 今紹介した例は「テレビ的な頭のよさ」ということになりますが、これがラジオであれば、時間枠は15秒よりはもっと長くなるでしょう。

 さらに、大学の授業や講演会で、学生や聴衆の前で話すとなると、時間の捉え方はまた大きく変わってきます。中身のある話を100分間話し続けるのは、15秒の世界とは異なる力が求められます。

 つまりは、その場その場で求められることが違うということ、それを私たちは理解しなければなりません。陸上競技であれば、短距離走者とマラソンランナーに求められるものは同じではありません。

 ここで今、自分に求められているものが何なのか、それがズレずに判断できる。もし自分ができそうもないということであれば、「これは私の担当ではないな」と気づくこと。自分がすばらしいと思っているものでも、別のすべての場で通用するわけではないということがわかる人。こういう人は頭がいいといわれる人の中に多いのです。

レジェンドですら時代に適応しようともがいている

 私たちは新たなものにチャレンジして、自分を向上させていくことが必要です。マンネリ化せずに、いろいろなことを実践しながら、己の知を新鮮に保つこと。時代の要求に応えていくということです。それは一時代を築いた人も同様です。

 棋界のレジェンド・羽生善治さんは、数年前に「竜王」の座を追われて以来、タイトル戦の舞台から遠ざかっていました。その期間、羽生さんが語った言葉はあまりに印象的です。10代の藤井聡太さんの将棋を「学びたい」と言ったのです。

 AIの進化で戦術が大きく様変わりした今の棋界で、羽生さんはそのAIに強い関心をもち、「過去にこのやり方で勝てたという経験にあまり意味はない。最先端の感覚を取り入れなければ生き残れない」と説いています。

 史上初の永世七冠にして棋界のレジェンドと呼ばれる羽生さんでも、今の時代に適応しようとしている。この柔軟性こそが、頭がいい人の特徴です。

 環境が変わってきたときにどう行動できるのか、環境が変わっても「こうすればいい」「ああすればいい」と行動ができる。この問題解決能力は非常に大事なことなのです。

<第3回に続く>