SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第2回「そういうもんなんです」

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公開日:2021/8/27

 さて。厳密に言うと、気になっているのは私がしたこの返答の方だ。

 一体どうして。これのどこが失礼にあたるのだろう。

 そういったプライベートなことは、というのが世間一般の見解になるのだろうが、それを持ち出すのだとすれば普段している世間話など、それとは比較にならないくらいプライベートだと思う。解散間際までしていた女の子の話などその筆頭で、今気になってる子がどんな子でどういう出で立ちなのか。交わした会話やメールのやり取り、「ここだけの話」と言いながら特に罪悪感も持たずに話した記述できない類のあれやこれ。別段了承も得ずに、我々の興味だけで訊いたり答えたりしているではないか。

 だのに。お金の話に小さく一歩踏み込まれた途端に私は、いくらなんでも、とまで言って当然のようにはぐらかしたのだ。

 その結果友人はすぐに納得して謝り、挙げ句どういう訳か笑ったのだ。「そうかそうか、ごめん、あはは」

 そして私も手紙にお返事をしたためるような丁寧さで笑ったのだ。「あはは」

 解せぬ。謝る友人も、謝る友人にすぐ気を使う程度の価値観しか持たぬ私も。

 何故こうもお金の話というのはあけっぴろげにせず、包み隠すものなのだろう。トラブルの原因や、確執に繋がることになりかねないのはよく分かるのだが、確実に回避出来るであろう間柄であったとしても、どこかタブーな気配を滲ませている。腹を割って話してみても、どういうわけか皆小声だし。

 我々がお金の話に対してこのようなスタンスを取るのは何故なのか。しばらく頭を回してみたが答えらしい答えに行きつかなかったのでみんなのグーグル先生にお伺いを立ててみたところ、それはあなたの倫理観次第です、といった類の投げっぱなしジャーマン的な考察しか載っていなかったのですぐにページを閉じた。

 もはやこれは、御御御付け的な「なんか念入りに丁寧に粗末に扱わないようにした結果どうしてそうなったのかはわかりませんがこれはそういうもんなんです」といった着地しかないのだろうか。これが脈々と受け継がれてきたお金に対する日本人のスタンスなんだよ、という答え未満の着地で納得する他ないのだろうか。

 かく言う私も別段、お金の話もオープンにしていこうよ、のスタンスをとる人間というわけではないので、これは問題提起と言うよりもただの疑問に近いし、この際元も子もないことを言ってしまうならば実はどうでもいい。

 まア、パーソナルはそれぞれ、感じて感じさせながら生きていくのが良いように思う。人には踏み込まれたくない場所がある。そして同じ場所であったとしても、この人は許せるがあの人は許せないというパターンだってあるのだ。

 恥ずかしかったり、全然余裕だったり、辛かったり、痛くも痒くもなかったり。人には人のパーソナル。乳酸菌と一緒。

 私にしてみれば給与明細を見られるよりも、「年収を訊く 失礼 何故」と残った検索履歴を誰かに見られる方が余程つらかったりする。

今月もリハーサルをする私です。

<第3回につづく>

しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催。現在「都会のラクダ TOUR 2024 〜 セイハッ!ツーツーウラウラ 〜」を開催中。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中