なぜ私たちはこんなに貧しくなったのか? 「庶民が政府に騙され続けた」昭和・平成・令和のマネー史

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公開日:2021/8/20

私たちはなぜこんなに貧しくなったのか
『私たちはなぜこんなに貧しくなったのか』(荻原博子/文藝春秋)

 いつのまにか日本という国のことが信じられなくなってしまった。払った税金は何に使われているか分からないし、多分年金なんてほとんどもらえない。いつから日本はこんなにも残念な国になってしまったのだろうか。

 経済評論家・荻原博子さんによる著書『私たちはなぜこんなに貧しくなったのか』(文藝春秋)は、昭和・平成・令和のマネーの歴史を詳らかにする一冊。荻原さんに言わせれば、平成という時代は、戦後から昭和末期にかけて日本人が血のにじむ思いでゼロから築き上げた栄光が壊れていった時代だった。年金、消費税、政治家・官僚の不正…。その歴史を知ると、私たち庶民は今まで政府にこんなにも騙され続けてきたのかと唖然とさせられてしまう。

「消費税」は、事業者の懐に入っていた?

 たとえば、1989年に誕生し、2019年には10%となった消費税。この税金は、大きな欠陥を抱えて誕生した税金だということをご存じだろうか。その欠陥とは、消費税の一部が国には納められずに事業者の懐に入り続けているというもの。それは、大蔵省(現・財務省)が消費税導入を成功させるために、「売り上げ3000万円以下の事業者は免税」「売り上げ5億円までは、計算が簡単な簡易課税で計算する」と取り決めたためだそうだ。3%の消費税を導入した1989年の「消費税」の税収は3.3兆円だが、この年、「免税事業者」と「簡易課税事業者」の懐に入った益税は、なんと約2兆円。この後、この益税は改善され続けてはいるというが、消費税導入当時、こんなにも大量の金額が事業者に渡っていたとは驚かされる。

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後の世代にツケを回し続けた公的年金制度

 2019年、金融庁の審議会が出した「公的年金だけでは老後の費用は2000万円不足する」との報告書は記憶に新しいだろう。公的年金は、長い老後を支える生活の糧であるはず。だが、日本の年金制度は長期的な展望がなく、行きあたりばったりのご都合主義でコロコロとその内容を変化させてきたのだそうだ。

 そもそも、日本の年金制度は1940年に誕生した。現在の年金制度は、働く人が高齢者を支える「賦課方式」となっているが、当時の年金は、自分で払ったものを自分でもらうシンプルな「積立方式」。だが、戦後のインフレの影響で、十分な年金を支払えなくなり、1955年に「賦課方式」に変更されたのだそうだ。「賦課方式」なら、保険料の不足分は後の世代が支払うので、とりあえず今お金がなくても問題はない。つまり、政治家と官僚はどんどん借金ができる年金制度を生み出したのだ。おまけにこの時代は、高齢者は少なく、若い世代が多い時代。集まった巨額の保険料には政治家や官僚が群がり、次々と無駄遣いされた。そして、今、私たちがそのツケを払わされているというわけなのだ。「じゃあ、元の積立方式に戻せばいいのでは?」と思うかもしれないが、「積立方式」にするためには、今の年金が抱える700兆円という債務を解消しなければならない。どうやってこの問題を解決していくか、多くの人が頭を抱えているのだ。

 その他にも、「小泉改革での企業倒産はリーマンショックより多かった」だとか「アベノミクスで個人の収入は減り、国の借金は増えた」など、この本には、ため息をつきたくなる記載が多い。日本の経済史はこんなにも酷いものだったのかと、めまいさえ覚える。これからの時代を変えていくにはどうしたらいいのだろうか。政治家・官僚にはもちろんしっかりしてもらいたいが、私たち庶民も、この本を読んで一人一人が今考えるべきだろう。

文=アサトーミナミ