「次にくるマンガ大賞2021」コミックス部門第5位『シャングリラ・フロンティア』クソゲーで鍛えたスキルで神ゲー攻略に挑む王道少年マンガ!
公開日:2021/8/26
ユーザーから「次にくる」と思うマンガを募集し、そこでノミネートされた作品から投票によって大賞を決める“ユーザー参加型”のマンガ大賞「次にくるマンガ大賞」。7回目となる今年、ついに受賞作品が決定しました! コミックス部門とWebマンガ部門を合わせたエントリー総数は3,582作品、投票総数は約51万票。その中からコミックス部門で第5位に選ばれた『シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~』(硬梨菜:原作、不二涼介:漫画/講談社)を紹介!
主人公はゲーマーの高校生・陽務楽郎(ひつとめらくろう)。彼が好んでプレイするのはいわゆる“クソゲー”ばかり……。だがたまにはまともなゲームをやることにした楽郎が、“神ゲー”との誉れ高い「シャングリラ・フロンティア」を始めるところからこの物語は始まる。
物好きクソゲー愛好家の高校生が裸一貫…もとい半裸で神ゲーに挑む!
フルダイブ型VRオンラインゲームが主流になっている近未来、楽郎は、今日も今日とてクソゲー攻略に精を出していた。
クソゲーとは、AIがおかしく味方が足を引っ張ったり、敵の強さやバランス調整がとれていなかったり、明らかなバグも散見され、結果クリアに手間と時間を要する“クソな”ゲームのこと。「くだらなかったり、つまらなかったり、苦しかったりするが、それを承知の上であえてやる」そんな物好きである彼は“クソゲーハンター”を名乗り、多くのクソゲーをクリアしてきた。
ある日、楽郎はなじみのゲームショップですすめられるまま、クソゲーの対極である神ゲームのひとつ、MMORPG(大規模多人数参加型オンラインRPG)「シャングリラ・フロンティア」(以下シャンフロ)のファンタジー世界へ旅立つ。
プレイヤーネームを“いつもの”サンラクと設定し、シャンフロの世界へダイブした楽郎は、半裸に鳥類の覆面、という少々おかしな姿でゲームをスタートする。これは彼が防具よりも武器を揃えるポリシーのため、初期装備を売り払ったからだ。ただ恥ずかしいので素顔は隠した。
サンラクは始めてすぐに「しかし凄い、ほとんどリアルと同じように動けるぞ」と感動。あまりにもぎこちない動作のクソゲーに慣れていたがゆえの感想だ。
彼は数々のクソゲーを攻略するのに、いつも俊敏性にステータスを全振りしたスタイルで、「回避受け流し」のプレイヤースキルを磨いてきた。実はこのスキル、操作性が良い神ゲーのシャンフロにおいては、レベル差があっても戦えるほどの武器になる。
シャンフロの攻略にはユニークモンスター“七つの最強種”を倒すというミッションが不可欠。サンラクは早々にこの最強モンスターの一角、「夜襲のリュカオーン」と交戦して敗れ、呪いをかけられる。それは防具が身に着けられなくなるものだった……。彼の冒険は、結果的に半裸という“紙装甲”スタイルで続けざるをえなった。なお鳥覆面はそのままだ。
基本どのゲームでも同じサンラクの名でプレイしてきた楽郎は、クソゲー仲間である“女王さま系”美女ゲーマー・ペンシルゴンにシャンフロで会い、声をかけられる。ちなみに数多くのゲームを攻略してきた彼にはゲーム上での知り合いがおり、彼女もその1人だった。
ペンシルゴンは楽郎のプレイヤースキルを見込んで、一緒に“七つの最強種”「墓守のウェザエモン」を倒そうと持ち掛けてくる。もう1人のクソゲー仲間でプロゲーマーのオイカッツォを加えたパーティは、難攻不落の墓守に挑むことに。
なおこの時点でサービス開始から1年経ち、3000万人ものユーザーがプレイしていたが“七つの最強種”を倒せた者は未だにおらず、シャンフロの“進行度”は0%だった。誰もが楽しめる神ゲーという評価とは別に、その難易度は非常に高かった。
「端役(モブ)に踏破できるほど、シャングリラ・フロンティアは甘くない」現実世界でこうつぶやく謎の美女。だが後に彼女は、サンラクたちに激しく動揺させられることとなる……。
やりたいからやる。好きなものには本気。それが格好い王道少年マンガ
異世界で運命に翻弄される物語、世界を救おうとする英雄譚、チートスキルを与えられて戦う異世界転移もの、さまざまなファンタジーバトルマンガがあるなか、本作はゲーム世界が舞台で、サンラクたちは誰にも強制されずそこであえて難しい戦いに挑む。現実でネットゲームを楽しんでいる人たちならば共感できるだろう。これが本作の魅力のひとつだ。
楽郎は、パラメータ異常のチートキャラクターではない。さまざまなジャンルのクソゲーで頭を使い、工夫し、腕を磨いてきた。彼はそのスキルで、敵の強さは理不尽だが、納得できるレベルの神ゲー・シャンフロを攻略していく。積み重ねた努力で手にした能力で戦う、まさに王道の少年マンガである。
またこんなシーンもある。ゲームに本気で感情移入してしまったことに照れるペンシルゴンにサンラクは言う「ゲームに本気になる、大いに結構だろ、何事も本気で取り組んだ方が楽しいに決まっている」と。
「本気は楽しい」正論である。そしてそれは肯定されてしかるべきである。「趣味に本気で何が悪い?」そんなアツい思いをもつ仲間たちが集う物語は、これから大きく動き出す。
文=古林恭