「次にくるマンガ大賞2021」コミックス部門第3位『葬送のフリーレン』冒険が終わった”その後”を描く、稀有なファンタジー

マンガ

公開日:2021/8/25

 ユーザーから「次にくる」と思うマンガを募集し、そこでノミネートされた作品から投票によって大賞を決める“ユーザー参加型”のマンガ大賞「次にくるマンガ大賞」。7回目となる今年、ついに受賞作品が決定しました! コミックス部門とWebマンガ部門を合わせたエントリー総数は3,582作品、投票総数は約51万票。その中からコミックス部門で第3位に選ばれた『葬送のフリーレン』(山田鐘人:原作、アベツカサ:作画/小学館)を紹介!

 ファンタジー世界を舞台にした物語はたくさんある。人類を脅かす魔王を討つため、勇者が仲間を募り、旅立つ。王道のストーリーだが、その過程を辿るのはやはり胸が熱くなる。しかし、“その後”を描くものは少ない。世界に平和が訪れた後に、勇者たちはなにを思うのか。英雄となった彼らはどう生きるのか。本作はまさにそれを描いた作品だ。

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 主人公となるのは、魔法使いのフリーレン。彼女は勇者パーティの一員として、魔王討伐に力を貸した。彼らの旅は、10年にもわたるものだった。勇者たちがそれを「長いもの」として振り返る中、フリーレンは言う。「短い間だったけどね」。

 この時間感覚の違いは、彼女が長命のエルフであることに由来する。1000年は生きるといわれているエルフにとって、10年という時間はほんの一瞬の出来事なのだろう。

 この感覚の違いが、本作における最大のギミックだ。

 やがて時が経ち、フリーレンと旅をした仲間たちは、一人ずつ寿命を終えていく。しかし、フリーレンだけがなにも変わらない。まるで時間の流れから取り残されてしまったかのように、ひとりで仲間の死を見届けていく。

 先にこの世を去る者と、後に残される者。どちらの哀しみのほうが深いのだろう。フリーレンは感情を表に出さない。ひとつひとつのセリフも、とても淡々としたものばかりだ。だから、その心の奥底にどんな想いを閉じ込めているのか、読者にはわからない。それでも、勇者が死んでしまったときには涙を流す。

“…人間の寿命は短いってわかっていたのに…”
“…なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう…”

 一緒に旅をしたのに、仲間のことを知らなかった。この“後悔”がフリーレンを動かす契機となる。もっと人間のことを知りたい。そう思ったフリーレンは、たったひとりで世界をめぐる旅に出るのだ。

 その旅路の途中では、“人間”がフリーレンの仲間となる。戦争孤児だったフェルン、戦士のシュタルク、僧侶のザイン。彼ら彼女らは、かつて仲間だった勇者と同様に、フリーレンとは同じ時間の流れを生きられない者たちだ。それはつまり、彼ら彼女らを“見送る日”がフリーレンに訪れることを意味するだろう。そんな切ない未来を予感させながらも、フリーレンは旅を続ける。人間を知る、という目的のために。

 フリーレンは孤独なようにも見える。大切な人を見送り、自分だけが生き残る。長命ゆえに課せられた運命は、とても酷なものだ。けれど、この世を去った者たちの想いはフリーレンの胸にたしかに降り積もり、また、“いま”の仲間たちからは厚い信頼を寄せられている。そんなフリーレンは、決してひとりではない。孤独ではない。

 ひとりになること、仲間といること。そして、生きること。ファンタジー世界の“その後”を舞台にした本作は、まるで哲学のような問いを、ぼくら読者に投げかけてくるだろう。

文=五十嵐 大