「次にくるマンガ大賞2021」Webマンガ部門第5位『裏バイト:逃亡禁止』 怪異が絡む「裏バイト」に挑む、女性バディの物語
公開日:2021/8/26
ユーザーから「次にくる」と思うマンガを募集し、そこでノミネートされた作品から投票によって大賞を決める“ユーザー参加型”のマンガ大賞「次にくるマンガ大賞」。7回目となる今年、ついに受賞作品が決定しました! コミックス部門とWebマンガ部門を合わせたエントリー総数は3,582作品、投票総数は約51万票。その中からWebマンガ部門で第5位に選ばれた『裏バイト:逃亡禁止』(田口翔太郎/小学館)を紹介!
本作の主人公はふたりの女性、黒嶺ユメと白浜和美だ。彼女たちはとある事情で大金を必要としている。それが「裏バイト」に足を踏み入れるきっかけとなった。
この「裏バイト」という単語から想起されるのはなんだろうか。おそらくほとんどの人が「オープンにはできない、危険なバイト」をイメージすると思う。それは概ね間違っていない。本作で描かれる「裏バイト」は、すべてが危険なものだ。では、なにが危険なのか。どの「裏バイト」も、得体の知れない“怪異”が絡んでいるのである。
ユメと和美はさまざまなバイト先へ派遣されていく。リゾートレストランのホールスタッフ、ビルの警備員、水族館スタッフ、学校の用務員、ラジオ局のDJ……。いずれも破格の報酬が約束されている代わりに、信じられないような恐怖が待ち受けている。なかには、ユメや和美と同様に「裏バイト」のスタッフとして入った同僚や、派遣先の従業員が命を落とすエピソードも少なくない。
そこで役立つのが、ユメの霊感だ。彼女は怪異の気配を「ニオイ」として感知することができる。ユメが「クサイ!」と騒ぎ出したとき、彼女たちに怪異が忍び寄る。一方で和美には特殊な能力があるわけではない。しかし、彼女はどんな逆境も跳ね除け、生き延びる強さを持っている。その姿はまさに不死身。そんなふたりは、本作における最強のバディだ。
また、本作を読む上では、ぜひとも“構成”にも目を向けてもらいたい。ページをめくった瞬間、大きなコマ割で恐怖が描かれていることも多く、展開を知らずに読むと思わずビクッとしてしまう。たとえるならば、静かなシーンが続いた後に、大音量とともに驚愕の映像を映し出すホラー映画のようでもある。読み手を徹底的に怖がらせてやろう。作者である田口翔太郎さんの企みが垣間見える。
特殊な設定とストーリー運び、そして驚かせる演出。そのすべてが揃った本作は、次世代ムーブメントを起こす作品と称されるのにふさわしいホラーマンガだ。
文=五十嵐 大