結成10年を経たfhánaは、何を抱えて進むのか?――fhána『愛のシュプリーム!』インタビュー(後編)
公開日:2021/9/8
fhána通算16枚目のシングルにして、現在放送中のTVアニメ『小林さんちのメイドラゴンS』のオープニングを飾っている『愛のシュプリーム!』(発売中)。結成から10年を超え、この8月でメジャーデビューから9年目を迎えたfhánaにとって、超重要なシングルである。2017年に発表し、MVがYouTubeで実に3,900万回以上の再生数を誇る大ヒットとなった“青空のラプソディ”は、アニメ音楽シーンに大きなインパクトを与える1曲だった。その後、バンドは3rdアルバムやベストアルバムのリリースを経験し、アニメや音楽をめぐる世界の環境は、劇的に変化した。従来通りの楽曲制作やライブの開催が困難な状況の中で、fhánaは着実に前進を重ねている。“青空のラプソディ”と同じかそれ以上のポジティビティをまとい、愛を奏でた“愛のシュプリーム!”は、たくさんの聴き手に届くべき1曲となった。楽曲に、MVの映像に、ひとりでも多くの方に触れてほしい、と思う。
『愛のシュプリーム!』リリースを機に行なわれた今回のインタビューは、2本立てでお届けしたい。後編では、表題曲&カップリングで見事なラップを披露した「いろいろなコンテンツ担当」kevin mitsunagaの「開花」と、デビュー9年目を迎えたfhánaの向かう先について語ってもらった。
重圧に負けてちょっと照れが出て、60パーセントでやってる瞬間が見えるのが、一番寒い。0か100か、どっちかしかないだろうと(kevin mitsunaga)
――今回、表題曲だけでなく、カップリングも含めてfhánaの最高傑作だと思います。“閃光のあとに”は資料によると佐藤さんから曲に関するオーダーがあったとか。
yuxuki:「ダンサブルでシンセを使った曲」という話だったので、それで作り始めました。
佐藤:それはふたつ理由があって。ひとつはライブで使う僕のシンセが、ほぼ置き物と化していたんです(笑)。そのシンセを使う曲があったらいいな、と。もう1個は、今のfhánaの流れ、世の中の音楽シーンの流れ的にも、そういうシンセを使った曲を入れたいな、という共通見解がありました。
yuxuki:夏の終わりというか、花火大会のあとみたいな、センチメンタルでエモい感じを上手く出せたらと思ってました。
――もう1曲の“GIVE ME LOVE(fhána Rainy Flow Ver.)”は、もともとがキャラソンだったということで。
佐藤:スーパーちょろゴンず(『小林さんちのメイドラゴンS』のキャストによるユニット)のキャラソンとしてデモを作ったら、「なんかこれはカッコいいのできちゃったな」と思って。fhánaの中だと(1stアルバム収録の)“lyrical sentence”系、ピアノのリフ中心で都会的なサウンドで自分もお気に入りだし、わりと人気もあるんですけど、その系譜の曲があまりなかったんです。今回作ってみたら、“lyrical sentence”の感じが、ふと宿ってたので、これはfhánaでもやりたいなあ、ということでセルフカバーしてます。歌詞は、オリジナルのほうは林(英樹)くんが書いてくれていて、fhánaバージョンはtowana&kevinで書いています。キャラソンのテーマは、『メイドラゴン』の中で言う、種族と種族の違い、人間とドラゴンがいて、文化と文化の衝突や断絶、わかり合えない、けどわかり合いたい、みたいな歌詞になっています。fhánaバージョンのほうは、同じ人間同士でもわかり合えないことがあるよね、というもどかしさの部分を広げてほしい、と話して作ってもらいました。towanaの歌詞に関しては、基本的には上がってきたものをそのまま受け入れようと思ってるのである意味お任せ状態でしたが、kevinくんのラップ部分については、細かくやり取りしています。
――歌詞は難産だった。
kevin:難産でしたね。歌詞を書きつつも自分でラップするわけで、そのときに「こういう韻の踏み方をしたい」「同じ意味の言葉でもこっちのほうが発音がカッコいい」とか、思うところがあって。言葉を支離滅裂にさせずにカッコよく韻を踏んで、なおかつ文字数の制限があるのは難しかったです。
――「こういう韻の踏み方をしたい」って、もう発言がラッパーなんだけど(笑)。
kevin:(笑)こう踏んだら絶対気持ちいいんだけど、でもなあ……みたいな。
――このシングルにおけるfhána的トピックのひとつが、kevinの覚醒だと思うんですけども。
yuxuki:MVを撮ってるときに、kevinがヤベえっていう話になりましたね(笑)。
佐藤:「よくやるよなあ」みたいな(笑)。kevinラッパー化計画が進行してたといっても、アニメ主題歌で、しかも“青空のラプソディ”に続く『メイドラゴン』の主題歌で突然主役のひとりに躍り出るわけで、相当なプレッシャーなんじゃないかと思うんですけど、「よくやるなあ」と思ってました(笑)。
kevin:最初にも話しましたけど、重圧に負けてちょっと照れが出て、60パーセントみたいな力でやってる瞬間が見えるのが、一番寒いじゃないですか。だから0か100かのどっちかしかないだろうと思ってたし、外から見たときに「この人、100の人なんだ」って見られるようにしなきゃいけないな、と思った結果がこれです。
――ラップはいまやfhánaの武器であり、kevinの武器になった感じがありますね。
kevin:そうですね。ほんとにありがたいことです。
佐藤:fhánaの初期のライブでは、kevinくんは今のような盛り上げ役って感じじゃなくて、ほんとに機材をポチポチやってるだけところを、だんだんお客さんの盛り上げ役を担うようになっていって。ラップもちょっとやってみたらけっこういい感じで。話し声からしてラッパー声というか、僕が好きだった90年代のちょっとゆるい文系の人たちのラップの声音なんですよね。僕が思うのは、towanaってちょっと陰があるというか、ポジティブでエネルギー全開みたいな感じではなく、ちょっと陰があって、太陽よりは月、本人もお月さまが好き、みたいな魅力というか特徴があるボーカリストですけど、それに対してkevinには圧倒的なポジティブ・パワーがあって、ちょうどいいかな、みたいな(笑)。僕もyuxukiくんそんなに明るいキャラではないじゃないですか。別に暗くはないし、僕もだいぶ楽観的ですけど、見た目がそんな明るそうな人には見えない(笑)。そういう意味でも、ポジティブ担当みたいな感じはいいですよね。
kevin:確かに、そもそもポジティブな人が好きだし、自分もそうありたいなって昔から思ってるんですけど、それに加えて『メイドラゴン』自体も、シリアスでホロッとくるところもありつつ、基本的にはキャラクターたちの仲良さそうなワチャワチャが楽しいアニメなので、波長が合った感じはしますし、踏み出させてもらった感じです。
――あくまでも受動的なものであると。
kevin:そうなんですよ。
towana:受動的なんですよ、kevinくんって。
kevin:基本的には、背中を押してもらって、やってみたら結果楽しかったなっていうタイプなんです。だから、毎回背中を押してくれるのは佐藤さんであり、まわりからの圧力によって動いている(笑)。
――圧力って(笑)。
佐藤:「わかってるよな」みたいな(笑)。
kevin:(笑)そういう意味の圧力じゃなくて、外的刺激って言い方が正しかったです。もともと保守的な人間なんだけど、期待には応えたいから、やってみたら、と言ってもらえると「じゃあ頑張るか」と。
towana:歌も上手だしね。ラップも歌も普通に上手なので。ライブが楽しみです。でも、ちゃんと練習しないとね。ラップや歌だけじゃなくて、どうお客さんに投げかけるとか、そういうことも考えないといけないから、お家で練習してきてください。
kevin:(笑)はい、わかりました。
towana:イメトレもして。ほんとに大事なので。
――これ今、ガチの圧力(笑)。
towana:そうです。kevinくん、言わないとたぶんやってこないから(笑)。
yuxuki:kevinはね、もともとDJもやってたし、そういう現場を知ってるから。
kevin:そうですね。もともとクラブ出身というのもあるけど、演者がこうしてると見てる側は楽しいだろうなって、経験則的にわかる部分はあります。なので、基本的にライブのときはめっちゃニコニコするようにしてるんですよ。たとえば自分が好きなDJが、超ニッコニコで曲かけてるときに、自分はぶち上がるタイプなので。
――まさにパフォーマーの考え方ですね。
佐藤:そう、パフォーマーなんですよ。エンターテイナーだしパフォーマーだし、サービス精神が旺盛ですね。普通にプライベートでも、サービス精神が一番ある人だと思います。
――ステージ上から、ラップでお客さんにハピネスを振りまく(笑)。
全員:(笑)。
kevin:(笑)そういうの実際好きです。ディズニーのキャストさんの感じとか。
――ディズニーのキャストさんも、笑顔が大事だから。
towana:ステージ上にいて隣で見ていると、kevinくんは笑顔が張りついてますよ。
kevin:張りついてるし、張りつけようとしてます。嘘をついているのではなくて、ライブの5分前くらいから、自分の中にいる小さいおじさんを、めちゃくちゃハイテンションにさせるんですよ(笑)。ある種乗り移るというか、楽しいハイテンションな人を憑依させて、ライブに挑むようにしてる感じはあります。
――佐藤さん的には、kevinの覚醒はどう見てるんですか。
佐藤:覚醒は徐々にしてきたんですけど、なんでしょうね。萌芽からの開花、ですかね。僕の言葉で言うと「ミョウガ」があったと(笑)。
――なんか、fhánaらしくていい話ですよね。水を与えられて芽が出て開花するっていう流れが、結成10年においても普通に行われてるわけで。
佐藤:いろいろなフェーズがあって、その中で変化していけているのはいいですよね。ある程度ベテランになってからコンバートされる、みたいな。
マンネリや限界は全然感じてない。むしろ常に、もどかしさがある(佐藤純一)
――fhána全体としては、この先どのように進んでいきたいと考えていますか。
佐藤:比喩で「低空飛行」という話はしましたけど、意外と低空飛行になってなかったりもするんですよね。いろいろな予定が飛んでしまったことの比喩が、「低空飛行」だっただけで。
――別にどん底になりかけたとかではないですもんね。
佐藤:そうなんです。で、なかなか思うようにいかないという意味でいえば、常にそうだといえばそうなので。ほんとはもっとやりたいこともあるけど、なかなか思うようにいかなくて、抜け道というかできる範囲のことを探すことは続けてきてますし。これからのことでいうと、fhánaって結成当時のインタビューから「長く続けていきたい」って言ってるんですよ。
――確かに、ことあるごとにその話は聞いてる気がします。
佐藤:長く続けること自体が目的化してもしょうがないですけど、まだマンネリや限界は全然感じてないです。むしろ常にもどかしさがあって、ほんとはもっとポテンシャルがあるのにもったいない、みたいな気持ちなんですよね。なので、最大出力を出せるチャンスがあれば出しますし、そういう心持では常にいます。まずそれがベースにあった上で、この1、2年で特にコロナの世の中になってから思ったのは、支えてくれるファンのみなさんのライフステージの変化を実感したので、一緒に成長していきたいなと思いますね。成長することだけが正義でもないですけど、一緒にハッピーになっていきたいですよね。自分たちが活動することが自分たちにとってもハッピーだし、ファンのみなさんにとってもハッピーだし。ファンじゃない人たちにも、ハピネスがこぼれて「なんか、あそこは楽しそうだなあ」みたいな感じで、新しいファンの人たちも入ってきて――という感じでいきたいな、とは思ってます。
そのためにも変化し続けたり、いい曲を作ったり、いい演奏やいいパフォーマンスをするのは大前提で、自分自身も含めて、ひとりひとりのマインドを強く持ってることが大事になってくると思います。人間って、基本的には強くないし、弱さを前提に考える必要があると思うんですね。自分たちが活動することで、fhánaの音楽を聴いてくれたりライブを見てくれたりとか、仕事で関わってくれる人に、ハッピーな気持ちになってもらいたい。そうすることで、自分たちもハッピーになるし、そういう気持ちを自分の中で忘れないように、強く持っていたいとは思いますね。そのためにも、夢中になれるような面白いことがないとマンネリになるから、面白いことを見つけていきたいと思ってます。それは「見つけなきゃいけない」というよりも、いつものルートと、ちょっとどうなるかわからなくて不安だけど面白そう、みたいなルートがあったとしたら、不安なほうのルートを選ぶ、というか。そうやって、自分たちも応援してくれる方に新しい景色を見せたいですね――なんか、すごい普通のまとめになってますけど(笑)。
――いや、素敵な話だと思います(笑)。
佐藤:ワクワクすることって、やっぱキラキラしてるわけですよね。キラキラしてるから、そっちのほうがいいかもって、見ていて思うんですよ。そういうキラキラしたものにずっと触れていたいですよね。この1,2年で、「人はひとりで生きていけないんだな」という当たり前のことに立ち返りましたけど……オンライン飲みとかやっていても全然楽しくないですし(笑)。やっぱり、人間なんだなあって思います。『シン・エヴァンゲリオン』や、庵野さんのドキュメンタリーを観ても、人間が支え合って作ってるんだな、とすごく感じたので。長年追いかけてたりするファンがいて、新しくファンになる人もいて、長い時間をかけて作り続けてる人たちがいる。それが大事だな、と思います。
取材・文=清水大輔