「首を動かすと痛みが走る」我慢しがちな首や肩の痛み……そのままにしていて大丈夫?
公開日:2021/8/26
厚生労働省が行った「国民生活基礎調査」では、女性で1位、男性で2位にあげられた不調の自覚症状、「肩こり」。いまや四十肩・五十肩に代表される中高年層はもちろん、「スマホ首」という言葉があるように若年層にも無縁ではない、現代日本の国民病のひとつといえるだろう。
「疲れがたまっているから」、あるいは「歳だから」などの理由で、ついつい対応を先延ばしにしてしまいがちだが、いつかは医療機関を受診して、その原因や治療方法をしっかりと知りたいと考えている人も少なくないはず。そんな人に手にとってもらいたいのが『名医が答える! 首・肩・腕の痛みとしびれ 治療大全』(井須豊彦:監修/講談社)だ。
監修者は脊椎脊髄外科と末梢神経外科の専門医の井須豊彦氏。肩や首、腕の痛みやしびれのエキスパートで、患者への負担の少ない手術法(Williams-Isu法など)を開発したことで知られている人物だ。本書では、そんな井須氏が「危ない症状の見分け方」「痛み・しびれの原因と対応方針」など5つのテーマ別に、73の質問に答えている。
「歩きづらい」、「トイレが近い」でも医療機関の受診が必要!?
第1章「危ない症状の見分け方」というテーマの最初の質問は「首や肩の痛みや腕のしびれは、肩こりのせいでしょうか?」というもの。
この問いに対する本書の答えで注目したいのは、首や肩、腕に現れる痛み・しびれの原因が大きく3つ考えられるということだ。
●筋肉のこり いわゆる「肩こり」がこのタイプ。根を詰めた作業などで疲れがたまったときなどに、首や肩の筋肉がこわばり、痛みを感じます。
●首の骨のトラブルによる神経の障害 首の骨(頸椎)にトラブルが生じると、頸椎周辺の神経が圧迫されたり傷ついたりして、首や肩、腕にまで不快な症状が現れることがあります。
●その他 腕や手に伸びている末梢神経のどこかに問題が生じている場合にも、しびれ・痛みが現れることがあります。脳の病気など、症状のある部位とは直接関連しない病気や、腫瘍や炎症が原因で不快な症状が続いたりすることもあります。
首を回したり、腕や肩を動かしたときに痛みを感じると、我々はつい肩こりと軽くとらえてしまいやすいが、その痛みの原因は3種類考えられ、種類によって対応の仕方が変わるということだ。
いわゆる肩こり、つまり筋肉の疲労による「こり」の場合、その多くは病院での治療を必要とするものではなく、日常生活の過ごし方で悪化を防ぐことができるという。実際、本書では第5章「悪化を防ぐ日常生活の過ごし方」で、そのポイントを解説している。
注意が必要なのは、首の骨のトラブルによる神経の障害や末梢神経のどこかに問題が生じている場合。その答えは、Q4「注意が必要な症状は?」に掲載されている。
首を曲げたときに痛みやしびれが走るようなら注意が必要です。
首の骨のトラブルには頸椎症、頸椎椎間板ヘルニアや後縦靱帯骨化症などがあるが、こうしたケースでは動いたときに痛みが出たり、ビリっと電気が走るような痛みが出やすいという。こうした痛みの場合、単なる筋肉のこりではない可能性が考えられるので、早く医療機関を受診する必要があると判断できるわけだ。
ちなみにQ9では「受診が必要か、判断する目安を教えてください」という質問があり、それに対する答えは以下のとおり。
首や肩の痛みは、ありふれた症状というイメージがつきものです。つらい症状をかかえていても、「疲れているからだ」「歳のせいだからしかたない」と、受診をためらう人が少なくありません。また、「歩きづらい」「トイレが近い」などの症状は、首の痛みとは関係なさそうにみえるだけでなく、高齢者になるほど「歳のせい」と見過ごされがちです。しかし、じつはこれが受診を要する重要なサインなのです。
普段、我々がなんの気なしに見過ごしてしまうことが、医療機関にかかるかかからないかの大切な判断基準になるということがお分かりいただけるだろうか。
首の骨の異常イコール、即手術ではない
実際に医療機関を受診し、首の骨にトラブルが発見されたら、どうなるのか? その答えは第2章「痛み・しびれの原因と対応方針」、Q21「頸椎症と診断されました。どう対応すればよいでしょうか?」に掲載されている。
この項で本書は、筋肉のこりを除いて、首・肩・腕の痛みやしびれの原因としてもっとも多く見られる症例として「頸椎症」をあげ、さらにそのなかには「頸椎症性神経根症」と「頸椎症性脊髄症」の2つがあることを説明したうえで、こう言及している。
多くの場合、手術をしない保存療法で改善しますが、脊髄が圧迫される脊髄症がみられるようなら、手術を考えます。
そして第3章では「手術せずに症状をやわらげる方法」、第4章では「手術を検討すべきとき」についてわかりやすく解説しているが、基本的に保存療法で治療を進め、何か問題のある場合のみ手術という手段をとる姿勢が貫かれている。これは、手術件数が多い医師、イコール、スーパードクターではなく、外科医と患者の双方が納得したうえで手術を行うべきという井須氏の考えの表れでもある。
そうしたスタンスに立ったうえで、「首・肩・腕に現れる痛みとしびれに、どう対処していけばよいのか?」を、危ない症状の見分け方から手術を検討すべきときまで幅広く解説している本書は、首や肩の痛み、腕のしびれに悩んでいる方には見逃せない1冊といえる。本全体が一問一答形式で構成されていて、自分が当てはまる質問の答えをすぐに得られること、要所要所にイラストが使用され視覚的にもわかりやすい工夫がされているのもうれしいところだ。
「首を動かすと痛みが走る」「ひどい肩こりで腕までしびれる」、そんな悩みはあるけれど、医療機関を受診するところまでは……。そんな対応をしている人は少なくないはず。そんな人はもちろん、家族や友人など身近な人々に首・肩・腕の痛みやしびれに悩んでいる人がいる人は、本書を参考にして、その痛みとこれからどう向き合っていくのがベターなのかを考えてみてはいかがだろうか。
文=井上淳