「つまらないものですが」はNG! やりすぎな気遣いから抜け出す処方箋

暮らし

公開日:2021/8/27

その気遣い、むしろ無礼になってます!"
『その気遣い、むしろ無礼になってます!』(三上ナナエ/すばる舎)

 気遣いは、仕事でも日ごろの生活においても、人間関係を良好にする上で不可欠だ。しかし、気遣いをしないことだけでなく、気遣いをしすぎることが相手に失礼になっているケースもあると、『その気遣い、むしろ無礼になってます!』(三上ナナエ/すばる舎)は教えてくれる。

 本書の著者は、元客室乗務員で、現在は接客・接遇・コミュニケーション力向上などをテーマに研修を行う三上ナナエ氏。「自分主体ではなく相手中心」「見返りを求めない」「無理をするとよい関係も続かない」といった、気遣いや人間関係の基本的な考え方を説明した上で、過剰な気遣いの数々と、がんばりすぎずに実践できる具体的な気遣いを伝えている。

 たとえば、『手土産は「つまらない物ですが」と最初に渡す』ことは、ビジネスでも私生活でもやっている人は多いのではないだろうか。手土産を「つまらない」とへりくだるのは避けるべき。「お口に合うと嬉しいです」「○○で人気のお菓子です」などのポジティブな言葉がおすすめだという。渡すタイミングにも注意が必要だ。ビジネスでこちらからお願いごとをするとき、先に手土産を渡すと断りにくくなるため、圧力にならないよう帰り際に渡すのが正解だ。

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「何かと『すみません』と謝りすぎ」なのもNGだ。「すみません」を口癖のように使っている人も多いのではないだろうか。しかし、こちらに非があるわけでもないのに謝ることは、悪いことをされているように相手が感じて気分を害してしまうこともある。「すみません」が、「もういじめないで」という拒絶のように受け取られることもあるという。著者は、「すみません」をポジティブな「ありがとうございます」というワードに置き換えることを勧めている。何気なく使っている言葉が、相手にストレスを与えることもあると理解することが大切だ。

 そのほか、「特別な理由もなく物をあげすぎ」「相談されてもいないのにアドバイスしすぎ」「『私なんて…』と謙遜しすぎ」なども、よくある行動だ。理由のないプレゼントは相手にお返しの気遣いをさせてしまったり、求めていないアドバイスで困らせたり、褒めてくれた相手の思いを受け取らない態度に見えたりと、相手の負の感情を生んでいることもある。それらは気遣いのように見えて、自己満足や、「偉そうに見られたくない」という自己防衛による態度で、相手にとって気持ちのよいコミュニケーションにつながらないとわかる。

 相手に気を使わせない、さりげない気遣いをするためのヒントも盛り込まれている。体調など相手の変化に気を配りつつも、声をかけるべきではない変化は見ないふりをする。何かを手伝いたいとき「よろしければ○○しましょうか?」と言うと、相手に判断をゆだねる言い回しで断られるケースもあるので、「ぜひ○○させてください」と言い切ったほうが受け入れられやすいなど、すべて説得力があり、今すぐ実践できそうだ。ワンランク上の気遣いとして紹介されているエピソードの中には上級者向けと感じるものもあるが、著者は、気遣いの基本は「相手ならどう感じるかを考えること」が大切だと繰り返す。その言葉に、謙虚であることをよしとする日本の風潮を言い訳に、相手の感じ方を想像するというコミュニケーションの基本をサボりがちな自分に気付く。

 経営者の年代や会社のあり方も多様化し、手紙やメール、お茶出し、お見送りなど、旧来のビジネスマナーに従っていては、良いコミュニケーションが成り立たない時代だ。「相手がどう感じるか」というシンプルな哲学が貫かれた明快な本書を通して、形式ばったルールをネット検索するのではなく、生々しい人間の感覚で相手を思うことが大切だと実感した。

文=川辺美希