大切な撮影や、長期間の仕事、大きなライブなどが終わった時は、自分への小さなごほうびを買うようにしている。

　好きなケーキ屋さんのスイーツや、専門店のチョコレートなど、私の場合、大体がちょっぴりぜいたくな甘いものだ。

　仕事柄、体型維持が必須なため、大切な仕事の前などは特に節制して生活をすることが多く、その仕事から解放された時に食べるささやかなごほうびは、昔から大切にしている幸せな瞬間だ。

　そんなことを繰り返してきたからか、甘味が“頑張った後の特別な味”として記憶されていて、スイーツは私にとってとても大きな存在となっていた。

　思い返せば、人生で最初に持った夢は“パティシエ”だった。

　誕生日の時にだけ食べられるケーキ。日頃、お菓子などをあまり口にしていなかったことからその特別感にいつも強い幸せを感じていた。

　ケーキ屋さんのお姉さんがいつも笑顔で、ケーキを食べている時はみんなが笑顔で、そんな空間そのものも、好きだったのかもしれない。

　加えて、幼い頃アニメやバラエティよりもドキュメンタリー番組の方が好きだった。完全に理解していないものの、画面の中にいる“リアルな人”、それぞれの人生に興味を持っていたんだと思う。そんな中、たまたま見た回の特集で“パティシエ”という職業を知った。

　パティシエの姿、ショコラティエという名の響き。

　意外にも力仕事が多く、とても大変な仕事だということを知り、きらびやかで華やかなスイーツの裏には様々な苦労と果てしない工程があるんだと、だからショーケースに並んだスイーツ達はあんなにも美しいのかと、さらに敬意を持つようになった。

　パティシエへの憧れから、学生時代はバレンタインデーなどのイベントになると簡単なお菓子作りを楽しんでいたが、芸能の仕事を始めるとそんな時間も減っていき、次第にお菓子作りへの興味も忘れてしまっていた。

　時が経ち一人暮らしが安定したころ、ある友人がお菓子教室の体験レッスンに誘ってくれた。「おいしいものが食べられるし」くらいの感覚で、気軽な気持ちで足を運んだ。お茶をしに行くついでに参加したお菓子教室で、再び私の心が大きく動いた。

　綺麗な完成図が写っているレシピを眺めるだけでワクワクした。専用の道具を使い様々な工程をこなしていくたびに高揚していく自分がいた。

　フルーツを煮詰めている時の甘い香り、スポンジがだんだんとふくらむ様子、たくさん混ぜて炊いていくカスタードクリーム、無心になって作り完成したスイーツはすべてキラキラして見えた。

　ずっと憧れていたトキメキやワクワクがそこにあった。

　すぐにお菓子教室に入会し、時間のある日を見つけては教室に通いお菓子を作っていくようになった。

　ロールケーキにシュークリーム、ハロウィンやクリスマスに合わせたケーキやタルト、ゼリーにクッキー。一つ一つのスイーツが綺麗に完成するたびに、幼いころからの夢を叶えていくような楽しさがあった。

　料理教室では、その日に自分が作ったスイーツをお土産として持って帰ることができる。ケーキを作ったなら1ホールを持ち帰れるシステムで、とても一人で食べきれる量ではなく、かといって自分の作ったものを「食べてください」と振る舞えるタイプでもないため、いつもどうしようか悩んでいた。

　そんな時に、舞台の現場で手料理を持ち寄って懇親会をしようという話になった。数年前のコロナ禍以前だったため、先輩方がいろんな手料理を作ってくださった。何にしようかと考えた結果、得意のガトーショコラを2ホール作って持っていくことにした。

　初めて自分の作ったものを人に食べてもらう。緊張と少しの不安があったが、皆さん「すごくおいしいね！」と優しく褒めてくださった。

　とても、とても嬉しかった。自分でおいしいものを作って、自分で食べるのも幸せだが、人に食べてもらい喜んでもらえること、笑顔になってもらえることがこんなに嬉しいことだとは……。

　勇気を出して、この喜びを知ることができてよかった。

　スイーツは人を幸せにするだけでなく、人と人を繋ぐものでもあるのだと感じた。

　パティシエの努力の結晶であるスイーツがくれる幸せも、自分の手で作りだす幸せも、どちらも尊く大切なものだと感じる。

　人と繋がり、共有できる幸せ。この“ささやかなごほうび”を栄養に生きていきたい。