描くことで、共有される範囲が広がる。豊かで面白い「良い」話し合いや会議とは?/グラフィックファシリテーションの教科書

ビジネス

公開日:2021/9/17

 グラフィックファシリテーションとは、絵や色を使って話し合いの様子を「見える化」し、みんなで語り合い一緒に探究する楽しさなどを実感させてくれるもの。「話し合い」をより豊かで面白いものに変えてくれる「魔法のツール」です。

会議などで、参加者の意見が深まらず、みんなが他人任せになってしまったことはありませんか? そんなシーンには、言葉では伝えきれない思いや雰囲気を、絵や線を使って可視化し共有するグラフィックファシリテーションを活用しましょう!

NHK総合『週刊ニュース深読み』で、グラフィックファシリテーターとしてレギュラー出演していた著者が贈る、グラフィックファシリテーションを学ぶ決定版です!

※本作品は山田夏子著の『対話とアイデアを生む グラフィックファシリテーションの教科書』から一部抜粋・編集しました。

『対話とアイデアを生む グラフィックファシリテーションの教科書』を最初から読む

対話とアイデアを生む グラフィックファシリテーションの教科書
『対話とアイデアを生む グラフィックファシリテーションの教科書』(山田夏子/かんき出版)

豊かで面白い! 「良い」話し合いって?

▶▶▶参加者が「場」を「自分ごと」としてとらえ、安心して自由に発言している状態です。

参加者全員が、「話し合いをする意味」と「参加する意味」に納得していると、話し合いや会議は「良く」なります。
安心して自由に発言でき、自分で決めることへとつながります。

対話とアイデアを生む グラフィックファシリテーションの教科書

対話とアイデアを生む グラフィックファシリテーションの教科書

「良い」会議や話し合いって、どんなイメージ?

話し合いは会議の「場」がどうなっていたら「良い」と思いますか?
「場に活気があふれている」「誰もが安心して率直に話せる」「次のアクションに向けて、全員が気持ちよく合意できている」。それぞれにイメージが浮かびますが、「良い」話し合いや会議ができているとき、実は2つの共通点があります。

対話とアイデアを生む グラフィックファシリテーションの教科書

絵があると、会議や話し合いはどう変化するの?

▶▶▶言葉にならないニュアンスや手触り感が「表現」され、共有できるようになります。

グラフィックファシリテーションは人がまだ「自覚できていない領域」を描きます。

本人も無自覚な領域を描き出すことで気づきや共感をもたらします。

対話とアイデアを生む グラフィックファシリテーションの教科書

描くことで、「共有」される範囲が広がる

人が語ることは、本人が自覚している要素だけで成り立っていません。
人が言語化できるほど「自覚」している要素は、自分の中のごく一部です。本人が無自覚な要素も、「意見」や「主張」を一緒に形づくり、表現しています。

無自覚な要素とは、声のトーンやテンポ、表情などから感じとれる「背景」や「内に秘めた想い」。あるいは「潜在意識」や、本人にとって当たり前すぎて、言葉にはしていなかった「価値観」や「暗黙知」などです。

グラフィックファシリテーションでは、これらを感じとってグラフィックに描き出すことで、本人や周りの人がお互いに無自覚な要素を自覚し、共有し合えるようにしています。

対話とアイデアを生む グラフィックファシリテーションの教科書

「絵」は参加者の心に響き、周りの人へ共感を広げる

絵は、頭で理解する範囲を超えて、ハートで感じとる部分にはたらきかけます。そのため、話している本人だけでなく、聞いている周りの人の心にも響き、共感が広がり、自分ごととして感じることができます。

みんなで想いを馳せたり、共に感じ入ることで、みんなで一緒に何かを生み出すことへと、つながっていくのです。

グラフィックファシリテーションを行うと、「場」の参加者は、絵や色を使って紙の上に「描き出された声」を眺めることで、「自分たちに響くものは何か」「何が、自分の心を揺さぶるのか」と、場に現れた「声」をじっくりと味わい、感じ入ることができます。

場の声を、参加者全員がじっくりと味わってから「選び」「深め」「広げる」ことをくり返すことで、参加者が自ら考え、動きたくなることを後押しします。

対話とアイデアを生む グラフィックファシリテーションの教科書

「絵」は、本人の気づきの「きっかけ」に

描くことで、参加者の「胸の内」や「頭の中」といった、普段なかなか表に出しにくい本音や心情、周りの人に説明しにくいニュアンスや雰囲気までもが「見える化」されます。

それによって、自分たちにとって本当に大事なことについて気づくきっかけや、背景を話し合い、理解し合うきっかけをつくるのです。

かといって、ファシリテーターが描くことで、参加者の内面を無理に引き出したり、本質的なことに導いてあげるものではありません。

ファシリテーターは、参加者にそっと寄りそい、絵で話し手の心情や言わんとしていることを「反映」し、参加者本人が「自ら」気づく「きっかけ」をさりげなく提供しています。

対話とアイデアを生む グラフィックファシリテーションの教科書

「場」の主役はファシリテーターではなく、参加者!

「目的」についてはCHAPTER3以降で詳しくお伝えしますが、「良い」話し合いや会議を実現するために、最初にファシリテーターに意識してほしいことは、「場」 の主役は、「ファシリテーター」ではないということです。

場の主役は、「参加者(話し手)」です。

ファシリテーターや主催者は、張りきってしまいがちですが、主役である参加者が「話し合いの必要性を感じていない」「自分がなぜ、この会議に呼ばれているのかわからない」状態だと、ファシリテーターや主催者がいくら頑張っても、「良い」会議や話し合いの場にはなりません。

ファシリテーターや主催者が、頑張るほど、参加者は「自分がやらなくてもいいんだな」「これは“あの人の”仕事なんだ」と、その「場」を「他人ごと」に感じてしまうのです。

対話とアイデアを生む グラフィックファシリテーションの教科書

「絵」が、その「場」をファシリテートする

グラフィックファシリテーションは、場の主役である参加者が「他人まかせ」にならないよう、「グラフィック」を使って、話し合いや会議を進めていきます。
“ファシリテーター”という「人がファシリテート」するのではなく、「絵がファシリテート」することを目指しているのです。

参加者の話している様子をリアルタイムに描くことで、場の「今の状態」を鏡のように映し出し、「その“絵を見た参加者”が、“自分自身で”無自覚だった要素に気づく」ことを促します。
それが「 絵がファシリテート」するということです。

「良い」話し合いや会議を実現したいと願い、それに向けて参加者を「ファシリテート」したいのであれば、ファシリテーターが一人で背負いすぎないこと!

参加者自身が「なぜ話す必要があるのか?」 と「なぜ自分が参加する必要があるのか?」を納得できるよう、描くことで支援しましょう。

対話とアイデアを生む グラフィックファシリテーションの教科書

<第3回に続く>