言葉を絵に変換するのではなく、「胸の内」「頭の中」を描こう!/グラフィックファシリテーションの教科書
公開日:2021/9/21
グラフィックファシリテーションとは、絵や色を使って話し合いの様子を「見える化」し、みんなで語り合い一緒に探究する楽しさなどを実感させてくれるもの。「話し合い」をより豊かで面白いものに変えてくれる「魔法のツール」です。
会議などで、参加者の意見が深まらず、みんなが他人任せになってしまったことはありませんか? そんなシーンには、言葉では伝えきれない思いや雰囲気を、絵や線を使って可視化し共有するグラフィックファシリテーションを活用しましょう!
NHK総合『週刊ニュース深読み』で、グラフィックファシリテーターとしてレギュラー出演していた著者が贈る、グラフィックファシリテーションを学ぶ決定版です!
※本作品は山田夏子著の『対話とアイデアを生む グラフィックファシリテーションの教科書』から一部抜粋・編集しました。
グラフィックファシリテーションは、何を描いてるの?
▶▶▶語り手の言わんとするイメージや質感、全体像を「大きく」とらえて描いています。
グラフィックファシリテーションは聴いた「言葉」を「絵に変換」するのではありません。
隣にそっと寄り添い、話し手の頭の中にあるイメージを映し出そうとしています。
「グラフィックファシリテーション」は「胸の内」「頭の中」を描く
日本には、「奥ゆかしさ」や「多くを語らないこと」「行間を察すること」が「粋」とされ、尊ばれてきた文化背景や歴史があります。
しかし、時代と共に一人ひとりの興味関心の細分化が進み、背景の多様化に目が向けられるようになった今、本音を差し控えていては、人が「生かされない」という、現象が起きてしまうのです。
グラフィックファシリテーションは「本音」や「イメージ」を気兼ねなく表現し、拡散できる「場」づくりをしていきます。
そのため、語り手がすでに言語化している言葉の一つひとつでなく、その人の「胸の内」「頭の中」に意識を向け、描き出そうとするのです。
語り手が「モヤモヤ」している様子なら「モヤモヤ」と、「ぐちゃぐちゃ」した様相なら「ぐちゃぐちゃ」と描きます。グラフィックファシリテーションでは、「絵」としての仕上がりのために、きれいにまとめることはしません。
その場の主役である「語り手」が、グラフィックに口をはさめない状態になってしまったら、「参加者がその場を自分ごと化し、主体性に火をつける」という本来の目的を促進できなくなってしまうからです。
グラフィックファシリテーションは、「聴く」ことが大事
話し手は、相手が自分の話を受けとってくれたことがわかると「もっと話したい!」と思います。
グラフィックファシリテーターが、話し手の話を「描く」のは、話を受けとっていることを「相手にわかるように示している」姿とも言えます。
ファシリテーターは、話のエピソードや情報だけでなく、理由や背景など、相手がその語りを通じて「言わんとしていること」を絵や色を使って、臨場感や雰囲気と一緒に描き表します。
それによって、語り手は自分の想いがキャッチされる安心感やうれしさを感じ、「もっと話したい」「参加したい」と積極性や参加意欲が高まって、話が「拡散」しやすくなるのです。
グラフィックファシリテーションで大切なことは「上手に描ける」ことより「聴く」こと。「相手が言わんとしていることをどれだけ感じ取れるか」が、もっとも大切です。
言葉の「部分」ではなく、話の「全体像」をつかむ
グラフィックファシリテーションは、絵を使った会議の「議事録」ではないので、話し手の「言葉」の一つひとつを「絵に変換」して描くわけではありません。
相手がその話を通して「言わんとしている」話の「全体像」を描き出すことを大切にしています。
たとえば、「夏」と聞いてすぐに、ファシリテーターが一方的なイメージで「海」の絵を描き出すのは焦りすぎ。
「夏」から派生する、相手の話の「全体像」や話の「核」となるところに意識を向け、まずは落ち着いて聴きましょう。話全体の文脈を掴んで、話し手が一番伝えたいことは何かを表現します。
「聴く」ことこそが、その「場」の語り手の話を深める一歩になります。
視覚化されて初めて、わかることもある
グラフィックファシリテーションでは、言わんとしている話の全体像や心情を、話し手自身が目にすることで、初めて自覚したり、気づくことがあります。
なぜなら、話し手も、必ずしも自分の胸の内や頭の中の全部をはっきりとわかっているとは限らないからです。
自分がモヤモヤしている話をしている様子をグラフィックに描き出されたのを見て、「そうだ! その部分について、モヤモヤしていたんだった」と発見できるのです。
ファシリテーターは、描くことで「まだ明らかになっていないことは何か?」に、話し手本人が気づくためのガイドをしていきます。
職場の会議(話し合い)をグラフィックファシリテーションする時も、ファシリテーターが答えを見つけるのではなく、会議の参加者自身が気づき、理解し合い、納得し、自分たちで決めることを支援します。
ファシリテーターは焦らず、参加者が自分自身で気づくことを信じて待ちましょう。本当に一人ひとりの主体性に火をつけ、みんなが納得して合意するには、自分たちで決めたという体験を繰り返すことが必要なのです。
グラフィックファシリテーションは、お互いの背景を知り、相手と通じ合う、理解し合う、「対話のプロセス」にこそ価値があります。
「対話」を経て、お互いが理解し合い、納得した上で「合意」できると、人はそこで話されたことを「主体的に」とらえ、自ら「行動」へとつなげられるのです。