本屋大賞2位の青山美智子、最新作は累計23万部突破のデビュー作、待望の続編
更新日:2021/9/24
本屋大賞2位を受賞し話題となった『お探し物は図書室まで』。同作の著者・青山美智子のデビュー作にして累計23万部を突破した『木曜日にはココアを』は、川沿いの桜並木のそばにたたずむ喫茶店マーブル・カフェを中心に、人生のほんの一瞬、すれ違う人たちの邂逅を描いた物語だった。続編にあたる『月曜日の抹茶カフェ』(宝島社)は、マーブル・カフェの定休日にあたる月曜日、京都の茶問屋のひとり息子が開くカフェが舞台。……かと思いきや、第1話にしてその抹茶カフェは一回きりの限定イベントであることが明かされる。え? 今度は抹茶カフェに訪れる人たちが主役なんじゃないの? とややめんくらうが、読んでいくうちにわかる。その“一回きり”というところにこそ、本作の肝はある。
第1話の主人公は、せっかくの休日なのに何かとツイていない携帯ショップ店員の美保。マーブル・カフェが定休日ということも忘れ足を運んでしまったが、おかげで抹茶カフェにありつけた。そんな彼女に、謎多きマスターが言う。〈人でも物でも、一度でも出会ったらご縁があったってことだ〉〈(一回きりで、育たないで終わっちゃう縁だったとしても)それは縁がなかったんじゃなくて、一回会えたっていう縁なんだ〉。
多くの人は、伏線が華麗に回収されていく物語が好きだ。点と点が繋がって「あのときのあれは、この瞬間のためにあったのだ!」とスッキリする結末を求める。それはたぶん人生においても同じで、だから「せっかく〇〇したのに意味ないじゃん」なんて文句をつぶやきがち。だけど実際は、すぐに忘れてしまうくらい些細な出会いや何気ない言葉に支えられて、今の自分にたどりついているんじゃないかと思う。
たとえば本作で、怒ってばかりの妻に疲れたひろゆきをはっとさせたのは、たまたま立ち寄ったランジェリーショップ店員・尋子の〈奥様は思い出を作るために一緒にいるわけじゃないわ、きっと〉という言葉だった。尋子を初心にかえらせるのは、オープン初日に立ち寄ってくれたという、名前も顔も覚えていなかった客の再訪。もちろん身近な人たちの影響を受けることもある。婚約者と別れた佐知を救ったのは友人の光都だし、紙芝居師の彼女を動かしたのは喧嘩してばかりの祖母、祖母の誇りを守ったのは息子の嫁たちの言葉だ。けれどそのどれも、強力な絆で結ばれているから響いた、わけではない。季節が移ろうのと同じように、傷つき迷いながらも変化していく主人公たちの心に、偶然のめぐりあわせですとんとその言葉が落ちる瞬間がある。その奇跡のような瞬間は、誰のもとにも訪れるのだということを、青山さんは多くの主人公たちを通じて描きだしているのである。
〈スマホって、そもそも最初から最後まで未完成なんです〉と美保は言う。〈どんどん変化していく環境に適応していくために、スマホもちょっとずつマイナーチェンジしていく必要があるんです〉と。私たちも同じだ。傷つき、迷うたびに、誰かの言葉をインストールすることで、少しずつアップデートしていく。いつまでたっても完成品にはなれないかもしれないけれど、その変化に喜びを見出すことができたなら、人生はきっと楽しくなるはずだ。
文=立花もも