30歳を超えても性体験がないのはヘン? さまざまな男女が抱える、誰にも言えない性の悩み
公開日:2021/9/23
性の悩みは多種多様だ。よほど心を許した相手でないとなかなか相談できない。特に自分が少数派なのではないかと思い込んでいたら、なおさらだ。
漫画『当然してなきゃだめですか?』(シモダアサミ/祥伝社)には、いろいろな男女の性に関する悩みがエピソードごとに主人公を変えて描かれる。
どうして私は「いく」ことができないのか。30代半ばでセックスの経験がないことは、おかしなことだろうか。妊娠するために作業としてセックスをするようになったが、正直しんどい。「男だから性的に彼女を満足させないと」と考えすぎてしまう。性体験は必要だろうか。そもそも自分はセックスをしたいのか、したくないのか――。
主人公たちは悩む。
本作で彼らの悩みは解決することもあるが、考え方の角度を変えることで悩み自体が消えうせることもある。
最初のエピソード「いく・いかない問題」で悩んでいるのは女性編集者・七尾みずき。彼女は担当している35歳のティーンズラブ漫画家・日野ナツキに相談する。ティーンズラブ作品の多くはエロティックな場面が出てくるので、彼女なら詳しいだろうと思ったのだ。
だが、ナツキは今ひとつぴんとこなかった。
“そんなに気持ちがいいものなのかな”
ナツキは性行為の体験がないのだ。
本作の六つのエピソードのうち、三つはナツキが主人公だ。
ナツキの周囲の多くは「35歳なら性体験があって当然」と思い込んでいる。ナツキは友達に誘われハプニングバーに行ったり、セフレを紹介してもらったりするが、ぴんとこない。婦人科の問診票にある「性体験がありますか」の項目で「いいえ」に○をしたときは、医師にまでけげんそうな顔をされた。
彼女はセックスをしたいわけではない。だが自分に経験がないことを知ったときの周囲の反応を見て傷つくのだ。
“みんなが普通にしていることを
私はできてないんだなって”
そもそも「普通」とは何なのか。
したくもないのにセックスをすること。それが彼女の悩みを解決してくれるはずがない。終盤、あることをきっかけにナツキは考え方の角度を変え、心が楽になる。
本作は、他にも登場人物の悩みが解きほぐされる経緯を丹念に描いていく。
「彼女を満足させたい」という男性は「自分が男だから頑張らないと」という思い込みに縛られ、妊活をする夫婦はお互いのコミュニケーションがとれていないせいでセックスが作業になっていた。それを自覚することで、彼らの気持ちは変化する。
女性だけではなく男性も、性の悩みを軽くするヒントが得られる漫画だ。
文=若林理央