仲が良かったママ友から突然無視されはじめ…!? 抜け出せないママカーストを覗き見たい人に。『ママ友がこわい』

マンガ

更新日:2021/9/24

ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望
『ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望』(野原広子/KADOKAWA)

“ママ友”にまつわるコミックエッセイといえば、野原広子さんを挙げる人は少なくないでしょう。2020年刊行の『消えたママ友』(KADOKAWA)が手塚治虫文化賞・短編賞を受賞しましたが、それより前の2015年に刊行されたのが『ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望』(KADOKAWA)。『消えたママ友』と一緒に読んでもらいたいママ友にまつわるお話です。

 普通の友だち関係とは異なり、子どもを介して友だちになるという特徴を持つママ友。いい面もたくさんありますが、良くないイメージを持つ人もいるかもしれません。この漫画では、子育て中のママが抱える孤独やママカーストの闇が描かれ、ママ友の実態を知るのと同時に、ママ友のいい例良くない例のような“ママ友あるある”を見て取ることができます。

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ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望 p.07

 物語の主人公サキは、以前は経理の仕事をしていましたが、出入りの営業マンと知り合って結婚。今はサラリーマンの夫、年長の娘ミイちゃんと3人暮らし。ミイちゃんが小さな田舎町の幼稚園に通うようになってから、はじめてママ友ができました。それがリエちゃんです。リエちゃんとはなんでも打ち明けられる間柄になりますが、あることを理由にハブられてしまいます。今では朝の挨拶も返してもらえません。

 ママ友から無視されるって、サキはどんな人なのでしょうか。しかしサキは、挨拶を無視されても“いい大人だから”と声を掛けることを欠かさない、常識的な人であるように思えます。

ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望 p.52

 楽しかったママ友との日々は一転。サキは毎日の幼稚園の送迎がつらくて仕方なく、今では胃薬を手放せません。幼稚園のママたちとのつきあいなんて、世間から見たら小さな出来事でしょうか。でも今のサキにとってはその小さな世界がすべてなのです。そんなサキのことを夫は理解してくれず、イライラは募っていくばかり。

ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望 p.56

 娘が生まれて幸せだけれど、ひとりで世話をするのは不安。そんな話を夫にしても通じないし、姑からの“2人目まだ?”の声もイヤ…。そんなサキに声を掛けてくれたのがリエでした。幸せと孤独を共有できたことがうれしくて心を全開にしてしまうサキ。でも今は、“距離感を間違えてしまった”と後悔しています。

 子どもの話をしても気を遣うことがなく、家庭というプライベートな部分も共有しやすいママ友。それがいいところでもあるのですが、サキの場合はそれが空回りしてしまったようです。

ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望 p.84

 サキを無視する、保護者会で意地悪をするなど、良くない面が語られるリエ。しかし、リエにも悩みはあるのです。リエは厳しい家庭で期待されながら育てられたものの、就活で全滅するという挫折感を味わってきたタイプ。夫との仲は冷め気味だし、2人目不妊で通院もしています。“子どもが友だちだから”とサキに声を掛けましたが、いつも余裕がありそうなサキの笑顔が本当は嫌いでした。“幸せなんだから少しくらいイライラをぶつけてもいいでしょ?”がリエの本音。無視をしても笑顔で挨拶してくるサキに苛立ちが隠せません。

 育ってきた環境も性格もまったく違うサキとリエは、子どもが友だちでなければ仲良くならないタイプだったのかもしれず、ママ友づきあいの難しさが伝わってきました。終盤、2人には思わぬ結末が待ち受けています。ラストシーンでリエが発する何気ないセリフと表情に、ママ友の現実を嫌というほど見せつけられるはず。

主婦の孤独と闇が生んでしまったすれ違い

 サキとリエの関係は、出会いから後々まですれ違いっぱなし。タイプの違いもありますが、それぞれが家庭の事情を抱えていることに、同じママとして共感せずにはいられませんでした。出産後は夫婦や親との関係が変わりやすく、仕事を辞めるなどして逃げ場を失くしているママが多いもの。まともな自分を保てなくなった時、静かに感情をぶつける相手がママ友になってしまうことも有り得るのです。これからママになる人にとっては、ママ友読本として参考になるかも。

 誰かの幸せをうらやみ、自分のほうが幸せであろうとする。これは誰しも当てはまる心情ではないでしょうか。人間の暗部をも包み隠さず生々しく描く本作は、ママじゃなくても共感できる物語であり、刊行から6年経った今でも色褪せない1冊となっています。

 野原さんのシンプルで可愛らしい絵は変幻自在。ほのぼのとしたあと、とんでもなくゾッとさせられたりしてドキドキハラハラします。それが楽しくて、こわいもの見たさも相まって、何度も読み返してしまうのです。

文=吉田あき