「お前の子じゃん。お前が面倒見ろよ」という言葉に離婚を意識。モラハラ夫との生活のリアル
更新日:2021/9/21
夫婦間の問題や離婚原因のひとつである「モラハラ」。DVや不倫などの行動としてわかりやすいトラブルに比べると、どんな言動がモラハラなのか、なかなかイメージしにくいのではないだろうか。『顔で選んだダンナはモラハラの塊でした』(モグ:原案、鳥頭ゆば:漫画/KADOKAWA)は、そんなモラハラに満ちた夫婦生活のリアルを、ポップでかわいい漫画で伝えるコミックエッセイだ。
モラル・ハラスメントとは、言葉や態度で繰り返し相手を攻撃する、精神的暴力のこと。人間関係全般で起こるハラスメントだ。家庭内では、夫から妻へ、妻から夫に対して、相手を非難して貶める、支配しようとする、無視するなどの行動がモラハラにあたる。
本書の主人公・モグは、結婚に憧れた20代後半に、顔がドストライクな「マロくん」と出会う。顔だけでなく引っ張ってくれる性格や優しさに惹かれ、年齢的な焦りもあって結婚。大好きなマロくんとの生活は幸せいっぱいで、だらしない彼の性格への違和感も顔のカッコよさでかき消されていたが、徐々にマロくんは、自分勝手なふるまいや妻の人格を否定する言葉など、モラハラ夫の片鱗を見せていく。
モグが妊娠・出産してからも、身勝手な言動は続く。子どもの世話を頼むと冷たい言葉を浴びせ、妻が病気になっても心配せず、面倒なことを嫌がる。妻の責められる点を見つけると、離婚と子の親権をちらつかせて土下座で謝らせる。妻が座る座椅子を蹴ったり、突き倒したりと、暴力への恐怖でねじ伏せようとすることも。どこからどう見てもひどい言動が続くが、たまに見せる優しさと顔の良さから、モグはマロくんを憎み切れない。ダメな男や暴力男と離れられない女性たちが、「でも彼は優しいところがあって」と言うのをよく聞くが、なるほどこのことか!と膝を打った。
モラハラのエピソードは衝撃的だが、修羅場の数々も、ポップで明るいタッチのため冷静に読める。マロくんのぶっ飛んだモラハラぶりと憎めなさも、最終的にはちょっと笑えてくる。生々しいモラハラの実情を知り、こんなことはあってはならないと思うが、実は似たようなことは多くの家で起きているのではないかと想像してしまう。夫へ不信感を持ちながらも妻は二人目を望み、夫の求めに応じつつ妊娠しやすいタイミングを図ったという話も、モラハラ夫との生活の実態として切実でリアルだ。追い詰められつつも、現実的で前向きなモグの思考に深く共感し、全力で応援したくなる。現実はもっと過酷だったと思うが、外に伝わりにくい家庭内の問題を身近なテーマとしてキャッチーにシェアできるのは、コミックエッセイの魅力であり、パワーだとも感じる。
モラハラをモラハラと気付かなかったため、誰にも相談できず苦しんでいた主人公が、最後は離婚を決意して前を向く。つらい毎日でも未来に目を向けると力が湧いてくる、そんな人間の強さが涙を誘う。
離婚した後に書かれた本書は夫との生活を客観的に振り返っているため、人間関係にまつわる示唆も多い。交際中にもモラハラの兆候があったこと、妻が育った家庭が亭主関白で、高圧的な夫に疑問を持ちにくかったことなどは、共に暮らすパートナーを決めるときのヒントになりそうだ。同時に、閉ざされているように見えても逃げ道はあること、そして人と人が支え合うことの大切さも教えてくれる。これからパートナー選びや結婚をしようとする人だけでなく、大切にしたい存在がいる人なら、誰もが手にとってほしい1冊だ。
文=川辺美希