教師の時から変わらない、児童文学の名手・はやみねかおるさんが意地張ってでも貫き通したいこと

文芸・カルチャー

公開日:2021/9/23

はやみねかおるさんインタビューを3日連続でお届けします!>

 記憶に新しい『都会(まち)のトム&ソーヤ』の映画化に、2022年には『怪盗クイーンはサーカスがお好き』の劇場OVAアニメ化が決定し、ますます注目が集まる、児童文学の名手はやみねかおるさん。1990年のデビュー以来、著作の累計発行部数は660万部を突破。朝井リョウさんをはじめとする多くの小説家に影響を与え、芦田愛菜さん、上白石萌音さんといった本好きで知られる芸能人の支持もアツく、今の30~40代を筆頭に、はやみね作品を読んで育った人も多いことだろう。そこで、ダ・ヴィンチニュースは、三重県に仕事場を持つはやみねさんに、これまでとこれからのお話をうかがった。

(取材・文=立花もも)

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――遅ればせながら『都会(まち)のトム&ソーヤ』映画化おめでとうございます! デビュー31年、初の映画化ですね。

はやみねかおる(以下、はやみねさん):ありがとうございます。2年くらい前にお話をいただいたときは、「嬉しいです~。よろしくお願いいたします~」なんて言いつつ、実はあんまり期待しとらんかったんですよ(笑)。というのも、これまでいくつかいただいていたメディア化のお話は毎回ぽしゃっていたもんで。ところが、今回はとんとん拍子に話が進みまして。『かぐや様は告らせたい』の河合(勇人)監督だとか、内人役には『万引き家族』の城(桧吏)さんだとか、夢みたいなことばっかりおっしゃるので、これは絶対に無理やろな~って思っていたら、本当に映画化されたので、びっくりすると同時に嬉しかったですね。

――映画化も嬉しかったのですが、メディアにはやみねさんのお名前が出たことで、Twitterを中心にネット上で「はやみねさん、大好き!!」という大人たちの声が沸き起こったのも、胸がアツくなりました。

はやみねさん:いやあ、ほんとにねえ。ぼくは教師をやっていたものですから、卒業した連中が「おー! 先生、懐かしい! まだやっとんかぁ!」って声をかけてくれたような気がして、感動してしまいました。「おお、そうかあ~。先生のこと、覚えてくれとったかぁ」って。

――覚えてるも何も、今も現役で教え子のつもりですよ! っていう読者からの声が聞こえてきそうです(笑)。これほどまでに、今の子どもたちもかつて子どもだった大人たちも、はやみねさんの作品に夢中になってしまうのは、なぜなんでしょう。

はやみねさん:やっぱり自分は小学校の先生なんやろなって、辞めた今もときどき思うんです。担任の先生に飽きることって、あんまりないやないですか。毎日違う授業をやって、ときどきしょうもない話をしながら、一緒に遊んでくれる。子どもたちや読者にとってぼくはずっとそんな存在だから、歳をとった今もずっと書かせてもらえているのかもしれないな、と。

――先生として、作家として、子どもたちと向きあい続けてきたなかで、時代による変化を感じることはありますか?

はやみねさん:「知らないことを知るのは、楽しいし嬉しい」という好奇心は、今も昔も変わらないし、これから先何年経とうと変わらへんやろなあ、とは思います。ただ、読解力はちょっと落ちてきたかなと。以前は「それほどくどく書かなくても読みとってくれるだろう」と委ねられたことが、今は「ここまで書かないとわからないかもしれない」と不安を覚えるようになってきた。

――『都会のトム&ソーヤ』の15巻でも、読解力の低下を危惧するエピソードがありましたね。

はやみねさん:解釈の違いなら全然気にならないんですけど、ファンレターをもらったときに「こんなことは書いてへんのに、どうしてこう読みとったんやろう」と気になることが少しずつ増えてきて。ぼくにファンレターを送るような子は、日ごろからたくさん本を読んでいるはずだから、単に娯楽の種類が増えたから、ってことでもない気がするんですよね。理由はぼくにもわからないんですけど。

――あるいは、ふだん本を読まない子どもたちも、はやみねさんの小説には手紙を書くくらい夢中になっている、ということかもしれません。『都会のトム&ソーヤ』を読みかえして改めて感じたのは「自分の頭を使って考えることって、こんなにも楽しいんだ!」と自然と思わされるということで。

はやみねさん:ああ、ありがとうございます。

――デビュー作の『怪盗道化師(ピエロ)』のあとがきに〈子どもたちに、「悪口はダメだ!」というあたりまえでかんたんなことを、いえなかった〉〈物語を読んだ子どもたちが自分で、「そうか、悪口って、いけないことなんだ。」って気づいてほしかった〉と書かれていましたが、その想いは今も変わらずお持ちなんだなあ、と。

はやみねさん:やっぱりまずは子どもたちに「楽しい!」って思ってほしいんですよね。教師をやっていたときもそうですが、小説を書いているときも、子どもらには「世の中っちゅうんは楽しいものなんだよ。大人になったらもっともっと楽しくなるんだよ」という思いでいます。道徳みたいなもんはそのあと、というかいまだにぼく自身、わかっていないところがありますから(笑)。

――「楽しい!」を伝えるために心がけていることはありますか?

はやみねさん:まず自分が楽しく生きることですよね。もちろんしんどいことはいっぱいありますけど、それでも「なんか楽しいんだよなあ、人生って」思えるような生き方をする。ぼくね、「人生でいつがいちばん楽しかった?」と聞かれたら、いつでも「今や!」って答えられるようにしとこう、って思ってるんですよ。死ぬ直前まで、意地張ってでもそれは貫きとおしたい。そういうのが、原稿を書くときに滲みでてるから、子どもらも楽しくなってくれるのかもしれませんね。

――意地張ってでも、っていうのが素敵ですね。

はやみねさん:まあ、もともと自分は、人がいやがるようなこともわりとおもしろがる人間なんで。たとえば、毎日洗濯物を干すのがめんどくさいってよく聞くじゃないですか。でもぼく、洗濯機をまわしおわったあと「今日の上着(トップス)は何枚かな?」と予想した数だけガッとハンガーを掴んで持っていく。それがぴったり合うと「やった~!」と本気で喜ぶし、足りなかったり余ったりしたら悔しくなる(笑)。干すときも、どうすれば全部に日当たりがよく効率的に配置できるか?ってことを考えるのが、ゲームみたいで楽しくて。

――家事というより、遊びなんですね(笑)。

はやみねさん:そうそう。あとはぼく、熱中症警報が出てる日も欠かさず、平気でランニングしてるんですけど、それも健康のためっちゅうより、楽しいからなんです。ときどき、近所の爺さん婆さんが「こらー! この暑いのになに走っとる!」って怒ってくるんですけど(笑)、それに対して「今日も暑いで、ばあちゃんたちは家に入っとってなあ!」って言い返すのも楽しい。世の中、面倒なこともしんどいことも多いですけど「なんでこんな思いをしてまでやらなきゃいけないんだ」ってぶつくさ言うより、最初に「こんなふうに工夫したらおもしろくなるんちゃうか?」って考えたら、世の中で起きるほとんどのことにワクワクできるんじゃないかと思います。とはいえ、炎天下に走るというのはぼくも他人にはすすめない、というかむしろ止めますけどね。真似しないでくださいね(笑)。

――その感覚は、とくに『都会のトム&ソーヤ』に強く表れているような気がします。R・RPG(リアル・ロールプレイングゲーム)という、現実世界を舞台にした最高のRPG作りに挑む中学生の物語、という設定からしてそうですが、「この世のすべてはゲームの舞台。おもしろいことも危険もそこらじゅうに転がっているから、ワクワクする」ということがシリーズを通じて描かれている。

はやみねさん:最初は学園ミステリーを書くつもりだったのに、どうしてこうなったのか……。中学生を対象にした新レーベルで、というお話だったので、「砦」という秘密基地のような場所を舞台に中学生たちの夢を守っていくようなお話にしたいと思っていたんです。学校で起きる事件を次々と解決していく竜王創也という名探偵の少年を主役に物語をつくっていこう、と。ワトソン役となるはずの内人が創也のいる砦を訪ねていくシーンを書いてみたら、創也は砦に罠をしかけまくるし、内人は内人で学生服を脱いでサバイバル能力を駆使してそれを突破しはじめて。「あれ? これどうなるの?」と思いながら進めていった結果が、今の『都会のトム&ソーヤ』です。

――今と全然違いますね。創也は今もとても頭のいい少年ですが、けっこう行き当たりばったりでポンコツなところも多いし、主役は内人に奪われている(笑)。

はやみねさん:名前も最初は「創」でしたしね。担当さんから「これじゃあかん」と言われて「也」を足し「ソーヤ」になりました。「これならトム&ソーヤになるだろう」って。でも「トムはどこにいるんですか?」と聞いても答えてくれなかった(笑)。

――作中でも明かされていましたが、「ナイト→無いト→トム」というのは読者が考えたことなんですよね。

はやみねさん:読者からの手紙に「こういうことじゃないか」と書いてあったのを見て「ほな、それを使わせてもらおう」と(笑)。2人がゲーム作りをするうえでライバルとなる「栗井栄太」も、1巻を書き終えた段階では正体も何も考えてなかったですからねえ。1巻の終わりで太った郵便屋さんが出てくるんですけど「それっぽいミステリアスな雰囲気で終わらせとこう」というだけだったんです。なにせ、2巻が出るとは思ってませんでしたから! 刊行してみたら「1巻」と書かれていて、仰天しました。それでしかたなく、続きの設定を考えたんです。

▶9/24(金)公開のインタビュー中編では、『都会のトム&ソーヤ』以外の作品創作秘話についてもうかがっています。