「次にくるマンガ大賞2021」Webマンガ部門で第3位に輝いた『先輩はおとこのこ』作者・ぽむさんインタビュー
更新日:2021/9/27
「次にくるマンガ大賞2021」Webマンガ部門にノミネートされ、なんと5万ポイント以上も獲得し第3位に輝いた『先輩はおとこのこ』(ぽむ)。LINEマンガオリジナルの作品が「次にくるマンガ大賞」の3位以内にランクインしたのは史上初ということもあり、結果が発表されてから本作への注目度は日に日に高まっている。
でも、作者のぽむさんは少し謎に包まれた存在。突然現れた新人作家がどんな人物なのか、気になっているマンガファンも少なくないだろう。
そこで、時の人となったぽむさんに特別インタビューを敢行。『先輩はおとこのこ』についてはもちろん、ぽむさん自身のこともたくさん教えてもらった。
■アドバイスから生まれた、女装する主人公
――『先輩はおとこのこ』が「次にくるマンガ大賞」Webマンガ部門で第3位にランクインしました! おめでとうございます!
ぽむさん(以下、ぽむ):ありがとうございます。でもびっくりしたというか……「え、本当に?」っていう疑いの気持ちのほうが強くて。
――しかも、LINEマンガオリジナルの作品では初の快挙です。これを機に編集者からも読者からもますます期待されそうですね。
ぽむ:これまで外の人たちをあまり意識したことがなくて、ただひたすら描くだけという感じだったんです。なので、期待されているのかどうかも実感がないんですけど、でも、少し怖くなってきました(笑)。
――本作が生まれた経緯を教えてください。
ぽむ:そもそも私、男の子が描けなかったんです。だから最初は百合マンガを描くつもりでした。でもそれもなかなかうまく描けなくて、「どうしよう、もうマンガ描くの向いてないかも……」と悩んでしまったんです。そうしたら知人から「女の子同士じゃなくて、片方を女装している子にしてみたら?」とアドバイスをもらって。それなら描けそうだなと思って、主人公のまこと先輩が生まれて、対になるキャラの蒼井ちゃんもできて、という感じなんです。
――男の子を描くのが苦手とのことですが、第1話でまこと先輩が自身の正体を明かすシーンなんかはとても魅力的です。
ぽむ:いやぁ、そんな風に褒めていただけると気分がいいです(笑)。あそこはキメカットだと思っていたので、気合を入れて描いたんですよ。参考画像をたくさん集めて、時間もかけたと思います。それでも、いま見てみると下手くそなんですけどね。
――まこと先輩は「幼い頃からかわいいものが好きだったけれど、母親からは否定されている」というバックボーンを抱えています。そんな彼を描く上で意識していることはありますか?
ぽむ:当初はギャグマンガとして進めるつもりだったので、ただキャッキャする話として考えていたんです。でも私、シリアスな物語が好きで、自然とそっちに寄ってしまって。それで母親との関係に悩む、という過去も生まれました。とはいえ、まこと先輩の問題は、あくまでも彼自身のこととして捉えたいんです。「ひとりの子がこういう悩みを抱えていたら、どうしますか?」みたいな。
それと、まこと先輩はかわいいものが好きだから女装しているだけなので、内面は男の子なんです。女装男子=内面も女子ではなくて。だから、ひとりの男の子として描くことは常に意識していますね。
■登場人物を幸せにするために描いている
――まこと先輩の相手役となる蒼井ちゃんについても教えてください。
ぽむ:私の中での蒼井ちゃんは“未熟な子”というイメージ。それもあって、友達の前、家の中、ひとりのとき、それぞれで彼女の性格が違って見えると思うんです。でも、偽っているわけではなくて、全部が蒼井ちゃん。「どの瞬間も、あなたはあなたなんだよ」と蒼井ちゃんに語りかけるように、成長を見守りながら描いています。ただ、最初の頃は「なんなんだ、この子」とも思っていて、蒼井ちゃんのことがよくわからなかったんです。一方でまこと先輩のことが理解できているかというと、やっぱり彼は彼で抱えているものが複雑なので心から理解はできない。そこでバランスを取るために生まれたのが、りゅーじですね。
――暴走気味な蒼井ちゃんと比べると、りゅーじはとても常識人ですね。
ぽむ:まこと先輩が抱える問題に対して、蒼井ちゃんが「そんなのどっちでもいいじゃん!」と思っているキャラだとしたら、りゅーじはそれをすごく気にするキャラです。それに蒼井ちゃんはまこと先輩に対して積極的だし、反対意見もぶつけるけれど、りゅーじはいつだって「それでいいよ」と同意してくれるようなタイプ。まこと先輩と蒼井ちゃんの間にいて、ちょうどいい存在として描いています。
――でも、物語が進むにつれて蒼井ちゃんやりゅーじが抱えている問題も少しずつ描かれていきます。
ぽむ:そうですね。実は当初、本作は16話で終わる予定だったんです。だからそこまでの流れしか考えていなくて。でも応援のおかげもあって本格連載が決まり、そこで初めて蒼井ちゃんやりゅーじの過去をもっと深掘りしていこうと考えました。でも、ストーリーの流れを綿密に決めているわけではないんです。各キャラクターの設定だけを細かく詰めて、あとは行きあたりばったりというか(笑)。設定さえ決めてしまえば、あとはキャラクターが動いてくれるんですよね。
――読み返してみると伏線になっているコマが見つかることもあるんですが、行きあたりばったりだったとは!
ぽむ:たまたま伏線になったぜ、ラッキー、みたいな感じです(笑)。ただ、絶対に決めていることもあるんです。それは、みんなを幸せにすること。昔、編集者さんから「物語を作るときは、なんらかの理由で不幸な状態にいる人をいかに幸せにするのか、を考えるといいよ」とアドバイスされたことがあって。だから、まこと先輩と蒼井ちゃん、りゅーじの3人がどうやったら幸せになるのかを考えながら、ゴールを目指しています。
■マンガ家になれたことが、いまだに信じられない
――ここからはぽむ先生ご自身について掘り下げていきたいと思います。まずはマンガ家を目指すようになったきっかけを教えてください。
ぽむ:もともとはイラストレーターとしてLINEスタンプを制作していたんです。でも、その作業に慣れてきた頃、「このままスタンプを作り続けて終わるのかな」と寂しくなって。なにか新しいことをやってみたいと考えたときに思いついたのが、マンガを描くことでした。
――「マンガ家になりたい」という夢は持っていなかったということですか?
ぽむ:小学生の頃はマンガ家に憧れていました。その頃からずっと絵を描いていましたし、表彰されるくらい得意でもあったんです。でも、途中で「いや無理でしょ。なれるわけないじゃん」って悟るんですよ(笑)。だから大学も絵とは関係ない学科に進学しましたし、いまこうしてマンガを描いていることが信じられなくて。
――では、小学生のときの夢が叶ったんですね。ちなみに、当時はどんなマンガを読んでいましたか?
ぽむ:父があだち充先生のファンで、『タッチ』や『みゆき』(どちらも小学館)などが本棚に並んでいました。一方で母は吉田戦車先生やいがらしみきお先生のファンで。子どもの頃の私は、その3人の先生の作品に囲まれていたんです。
――お父さんとお母さんでだいぶ好みが違いますね!
ぽむ:そうなんです。母は結構シュールな作品が好きで。私はどちらかというと、静かで淡々としたテンポで進む作品に夢中になっていた気がします。それから少し大人になると、今度は自分でマンガを集めるようになって、少女マンガにハマっていきました。
――これまで読んできた中でとても印象に残っている作品を教えてください。
ぽむ:アニメ発のものなんですけど、『宇宙よりも遠い場所』(KADOKAWA)という作品ですね。女子高生4人組が南極を目指すストーリーで、途中、人間関係がとことん掘り下げられるんです。5話くらいから最終話までわんわん泣きながら読みました。
――『先輩はおとこのこ』でも人間関係がリアルに描かれていますが、そういう作品がお好きなんですね。
ぽむ:これまで生きてきた中で悩んだり困ったりしたことって、結局は人間関係にまつわるものばかりだったと思うんです。だからこそ、それをテーマにした作品に惹かれてしまうのかもしれません。そして、マンガを描き始めて感じたのは、自分が体験したことじゃないとリアルに描けないということ。なんかもう、すべてのキャラが私だし!っていう気持ちですね(笑)。
――意図しなくても投影されてしまう部分はあるんでしょうね。だからこそ、本作で描かれる感情はリアルなんだと思います。では最後に、読者に向けてメッセージをお願いします!
ぽむ:『先輩はおとこのこ』、年内に単行本を出すことになりました! いま作業の真っ最中なんですが、楽しみに待っていてください!
取材・文=五十嵐 大