あなたの町の役所にもいるかも? 知られざる「スーパー公務員」の世界

ビジネス

公開日:2021/9/29

ライク・ア・ローリング公務員
『ライク・ア・ローリング公務員』(福野博昭/木楽舎)

 県庁・市庁・役所など自治体の施設を、ワクワクしながら訪れたことはあるでしょうか? 「時間がかかりそうで面倒くさい」「書類に不備がないか不安」「たらい回しにされそうな気がする」「早く済ませたい」といった気持ちになる人もいるかもしれません。ご紹介する『ライク・ア・ローリング公務員』(福野博昭/木楽舎)を読むと、自治体の「お堅い」イメージは払拭されます。本書は「スーパー公務員」こと福野博昭さんの約40年にわたる奈良県庁での軌跡を、2006年に奈良の山村・東吉野村で邂逅を果たしたデザイナー・坂本大祐さん(合同会社オフィスキャンプ代表取締役)がディレクションしてまとめた一冊です。

 18歳で奈良県庁に入庁した福野さんは、奈良県税事務所といういかにも堅そうな部署からキャリアをスタートさせました。その後、奈良公園管理事務所、本庁(開発調整課、青少年課、管財課、平城遷都1300年記念事業準備事務局)で約15年勤務した後、滞在戦略室という部署に配属になり、このタイミングで坂本さんと出会います。2020年度に退官するまでは「ならの魅力創造課」「移住交流推進室」などといった部署で「奥大和」という新たなエリアをブランディングし、退官してからはアミューズメント総合企業・平川商事株式会社の社長室顧問を務めています。

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 本書は、福野さんの人間的魅力がなるべくそのまま読者に伝わるように、話し口調で構成されています。たとえば、2016年に移住交流推進室に所属している際に、『コミュニティナース ―まちを元気にする“おせっかい”焼きの看護師』(木楽舎)の著者である矢田明子さんと出会ったときに、「活動を応援するために、制度そのものをつくってしまおう!」と福野さんが思い立った様子はこう記されています。

県知事は、地域に入りたいコミュニティナースがいるのか、都会に比べて不便なところでコミュニティナースが活動を続けられるのか心配したけど、俺はこう宣言したんや。
「世の中にはこういうことにチャレンジしたいと思っている人がいっぱいおるんです。やらなあかんことですし、制度をつくって成果を上げます!」
熱くなって机をバン! と叩いてん。

 冒頭にも述べた通り、自治体の施設に行くとどうしても「たらい回し」をされるイメージがあります。しかし本書を読むと、たらい回すどころか「回っている」自治体職員がいるのだと知ることができます。

 本書の題名はボブ・ディランの名曲『ライク・ア・ローリング・ストーン』をもじっていて、「ローリング・ストーン(転がる石)」は、曲中では転落人生や住所不定を意味しています。本書で「ローリング公務員」という言葉には「各部署を転がるように渡り歩いていく」という由来があると説明されていますが、筆者は「他者を巻き込んで物事をずんずん進めていく」というイメージを思い浮かべました。実際、キャリアの締めくくり年度となった2020年度において、福野さんは「コロナ禍というピンチはチャンス」というスタンスで、アートイベントの開催やブランディング・ムービーの制作に取り組みました。

坂本 行政のお金って、未来をつくるためのお金やと思うんですよ。民間ビジネスのお金って、なかなかそうはなりにくいんですよ。儲かるためにやるから、現実を拡張することはできても、全く分からへん未来に対して投資しづらいんですよ。エビデンス取られへんから。でも行政やったら、うまいことそこをちゃんとロジックで説明できれば、お金付くじゃないですか。
(中略)
福野 絶対そうやで。役所は、夢を語らなあかんねん。暗いこというたらあかんねん。夢語って怒られへんのが自治体職員やから(笑)。

 決して明るいニュースが多くないこのご時勢、「社会は変えられる」と本気で信じてきた「スーパー公務員」のエナジーを、ぜひ本書から受け取ってみてください。

文=神保慶政