コロナ禍で人気復活! 創刊71年の雑誌『モーターサイクリスト』が伝え続ける、バイクの魅力とは

エンタメ

更新日:2021/10/1

モーターサイクリスト

 バイクは目的地までの単なる移動手段ではなく、運転そのものの楽しさや、変わりゆく景色を味わったり、見知らぬ土地を駆け抜けたりする面白さが魅力だ。バイク=危険というイメージが先行してしまうこともあるが、そのリスク以上に全身でバイクを操る高揚感は何事にも変えがたい。

 そんなバイクが昨年からのコロナ禍で売れている。7月に全国軽自動車協会連合会から発表された2021年上半期(1月~6月)の小型二輪新車販売台数では、バイクの販売台数が前年比21.8増の3万8625台で、コロナ前の2019年と比べても14.3%増と好調だ。コロナ禍でも密を避けられることや、配達や運送などに使用するバイクの需要増などが要因とされる。

advertisement

 また警視庁の運転免許統計によると、普通二輪、大型二輪免許証の交付件数は2018年までは減少傾向だったが、2019年に転じて以降、3年連続で増加している。

 新たなバイクユーザーが増える昨今、バイクの楽しみ方を教えてくれるのにふさわしい雑誌がある。戦後まもないころからバイクを愛する人々とともに歩んできた雑誌『モーターサイクリスト』(八重洲出版)だ。

 現在日本では、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキが4大バイクメーカーの地位にあるが、世界のバイクのシェアでも1位ホンダ(22.6%)、2位ヤマハ (10.4%)、8位スズキ(2.6%)、9位カワサキ(2.3%)と日本の4メーカーで世界シェアの37.9%を占めている(「業界再編の動向」2020年度金額ベース)。

 しかし戦前戦中、日本のバイク産業は世界から見向きもされない状況だった。戦後、敗戦により軍需工業から民間工業へと転換した技術者たちがバイク製造に携わり、1950年ごろになると120社ほどのバイクメーカーが日本に乱立。日本のバイク産業は急激に拡大した。

 そんなか、当初は商用が中心だったバイクが徐々にレジャーへと広がり、バイク愛好家たちに向けて一冊の雑誌『モーターサイクリスト』は誕生した。

“まちに、野に快よいエンジンの爆音をひびかせて、スピードの快味を充分に、颯爽たるモーターサイクリスト –– その好伴侶として、本誌をその人々のポケットに贈る。”

モーターサイクリスト
※1951年12月創刊『モーターサイクリスト』創刊号。(復刻版)

「創刊のことば」の文末にこう記されている『モーターサイクリスト』は1951年12月に創刊した。現在も月刊で発売されている老舗バイク専門誌だ(創刊当時はモーターサイクル普及会発行。現在は八重洲出版発行)。創刊から71年。現在もライダーたちに読まれ続けている雑誌『モーターサイクリスト』について現編集長の太田力也氏に話を聞いた。

(取材・文=すずきたけし)

――1951年と終戦から僅か6年で創刊された『モーターサイクリスト』ですが、どのような経緯で誕生したのでしょうか。

太田 1951年12月に創刊した当時の日本のバイク産業は、雨後の竹の子のように多くのメーカーが登場したのですが、企業というより町工場レベルの、今でいうベンチャーのような会社がたくさんあって、多くの工場が二輪の製造にチャレンジしていた時代だったと聞いています。当時はミシマやメグロといったバイクメーカーが有名でした。ただ、当時は今のようにスピードや楽しさというよりも、現在の四輪トラック以前の貴重な商用道具として、箱根をノンストップで越えられるバイクを作れたら一人前のバイクメーカーだと言われていたような、壊れない、丈夫な製品が第一に考えられていて、質実剛健さがアピールされていました。

 そんななかで、戦後急激に拡大したバイクの普及と振興も含めて、愛好家たちにバイクの様々な情報を届けようと『モーターサイクリスト』が創刊されました。

モーターサイクリスト

――『モーターサイクリスト』に籍を置いていた八重洲出版の創業者で会長の故酒井文人さんは当時のバイク愛好家たちをまとめた組織を結成、レースを開催されています。

太田 創刊の翌年に酒井文人さんが、『モーターサイクリスト』を発行していた「モーターサイクル普及会」に入社しています。

 バイクを使用したレジャーの気運も高まっていた当時、まだバイク愛好家をまとめるような組織がなかったので、酒井さんは全国の愛好家に呼びかけて、アマチュアライダーの団体であるMCFAJを結成しました。そして1958年には第1回全日本モーターサイクルクラブマンレースを開催します。

 1955年には浅間高原レースという国産メーカー対抗の技術を競うレースがありましたがプロライダーしか出場できず、クラブマンレースは純粋にアマチュアによるアマチュアのための日本史上初のレースで(四輪も含めて)、国内のモータースポーツの草分け的なレースとして、現在も続いています。

モーターサイクリスト
※八重洲出版のロビーには会長・酒井文人氏が1965年に読者との強い絆を求めて「全国一周の旅」で使用したBMW R50が展示されている。ナンバープレートも往時のまま。

――『モーターサイクリスト』の誌面作りの特徴とはなんでしょうか。

太田 まずは正統的なバイクの総合誌として70年以上続けていることですね。もちろんその時代で扱うものは当然変わっていますが、創刊のことばにあるように、ライダーの良き伴侶として、バイクの楽しみ方や魅力を提案できるような雑誌作りをしています。

――70年も続けていると、時代によってバイクへの読者の好みや捉え方、嗜好の変化などは感じられますか。

太田 時代によってバイクにもブームがあり、スタイルや人気モデルの流行がありましたが、現在はバイクそのものよりも、それを使ってどのように楽しむか? というところが中心となっています。

 性能もあがり、すぐに壊れるようなバイクもなくなりましたので、昔のように最高速とかスペックとかで選ぶのではなく、運転のしやすさだったり、曲がるときの気持ち良さだったり、デザインだったりと、「感覚や感情」のほうにバイクへの興味がシフトしてきた感じですね。

――一昔前まで、バイクの社会的なイメージは危険、迷惑とあまり良いものではありませんでしたが、そのあたりのバイクへのイメージの変化というのはどうでしょうか。

太田 80年代には270万台も売れたバイクブームというのがありまして、若い人がみんなバイクに乗っていました。けれども若い人のバイク事故が増えて、あと暴走族の問題もあって、学校では「三ない運動」(高校生に「免許を取らせない」「買わせない」「運転させない」とする運動)などがあり、バイクはいけないものというイメージが広まりました。90年代になるとバイクブームも過ぎて、大人や女性のライダーが増えてきて落ち着きましたけど。

 現在では高校生も講習会を受ければ免許を取れるようになった地域も出てきて、だいぶバイクのイメージは変わってきてはいます。

モーターサイクリスト
※資料室にはこれまでの誌面で使われてきた写真が保管されている。今ではメーカーにも保存されていないバイクの写真などがあり、メーカーや海外メディアからの問い合わせもあるという。

――『モーターサイクリスト』の誌面作りとして気を付けていることなど教えてください。

太田 「雑誌の力」というのはまだ信じています。ネットとは違ってレイアウトひとつでも作り手の意図を読者に伝えやすいというのもありますし、例えばあるバイクの新モデルについて知りたくて雑誌を読んだら、知らなかったツーリングスポットの情報に出会えたりと、情報を広く俯瞰して見られるのが雑誌の良さだと思っています。また、バイクの本質的な部分、つまり走らせたときの楽しさとか、気持ち良さはライダーなら気になると思うんです。だから「THE EDGE」という連載ではプロライダー梨本圭さんにしっかりバイクに乗ってもらい、時にはサーキットでのテストもやって、様々なバイクの限界付近の性能まで伝えることも続けています。

 あとネットでの情報発信としては「モーサイ」というWebサイトを雑誌と併せてやっています。バイクにほんの少しだけ興味がある人がまず検索してみるのがネットなので、バイクをあまりよく知らない人も見る媒体として、速報性も含めて、雑誌とはまた違った構成で情報を発信するようにしています。

――読者からの意見などもあるのでしょうか。

太田 毎月、読者プレゼントの応募を兼ねたアンケートハガキやメールがたくさん送られてきます。読者の皆さんの興味関心、バイクライフでの困りごと、オススメのツーリングスポットなど、いろいろなことを教えてくれる大切な「接点」です。例えば最近では、「125ccが気になる」とか「ドラレコについて知りたい」なんて声が増えているな、というのが分かる。そうなると編集会議でも、ちょっと125ccとかドラレコの企画をやってみようか、となる。読者の声と編集の目線のバランスをとった企画を考えています。

―― 取材で大変だったことはありますか。

太田 天気ですね。ツーリングの記事などではやっぱり雨よりも快晴のほうが絵になるし気持ちがいいじゃないですか。けれどもバイクの取材だと山のほうに行くことが多くて、でも山は天気が変わりやすい。雨が降ってしまうと、取材日を変えたり、メーカーさんからお借りしているバイクの返却までの期間を長めにしたりと、気を使いますね。

 あとは季節です。人気の北海道や、桜や紅葉の記事は、その年に取材していたら発売には間に合わないので、前年に翌年分の取材をしたり、これまでの取材のストックなどを活用したりすることが多いんです。

 ほかにも取材のためのロケーション探し。箱根ターンパイクや芦ノ湖スカイラインなど許可をいただいて取材できることもありますが、バイクの取材の許可が取れない場所もあって絵になるロケーションを探すのは大変ですね。

 今だとコロナ禍でイベントがなくなっているので、雑誌のネタも少なくて困っています。

モーターサイクリスト
※モーターサイクリスト編集部

――これからの『モーターサイクリスト』について聞かせてください。

太田 ネットや動画と共存していくことはもちろんですが、モーターサイクリスト主催のイベントを行って読者と交流したいと思っています。今はコロナ禍で難しいのですが、創刊から71年もの間、バイクを愛する読者とともに歩んできた雑誌なので、読者の声をもっと聞きたいというのがあります。

――最後に、これからバイクに乗ってみたい、ちょっとバイクに興味が湧いてきた人に向けてアドバイスをお願いします。

太田 バイクって、倒れちゃうし、夏は暑いし、冬は寒いし、首や腰は痛くなるしで、不自由な乗り物なんです。けれどもバイクには車にはない素晴らしい快感があるんですね。これは乗ってみないと分からない部分があるんですけど、少しでも興味が湧いたらチャレンジしてほしい。今では個性的なバイクがたくさんありますので自分の気に入るバイクに必ず出会えると思います。

 そんな時が来たら『モーターサイクリスト』にはバイクの楽しみ方やバイクの世界を知るための情報がたくさん載っていますので、ぜひ手に取ってほしいと思います。

モーターサイクリスト

太田力也
1978年生まれ 東京出身。バイクとの出会いは小学生のころに読んだ『バリバリ伝説』。大学入学とともにバイクの免許を取得し、最初に買ったのは中古のヤマハR1-Z。大学卒業後、アルバイトとしてモーターサイクリスト編集部に潜り込む。その後、四輪誌『driver』の編集などに携わり、2021年からモーターサイクリストの編集長を務める。

『モーターサイクリスト』(八重洲出版)
1951年(昭和26年)に創刊したバイクの総合誌。紙版は毎月1日、デジタル版は毎月2日発売。新車紹介、ロードテスト&試乗インプレッション、ツーリング、ライディングスキル、バイク用品紹介など、初心者からベテランまでバイクを趣味とするライダーのための雑誌。

八重洲出版
1957年創業。趣味やレジャーの雑誌、ムックを発行。月刊誌では『モーターサイクリスト』のほか、自動車専門誌の『driver』や自転車の専門誌『サイクルスポーツ』、キャンピングカー専門誌『オートキャンパー』などがある。

参考)
・全国軽自動車協会連合会 2021年6月 小型二輪 新車販売台数

・バイク業界の世界市場シェアの分析

・警視庁の運転免許統計