『アイドルマスター シンデレラガールズ』の10年を語る①(島村卯月編):大橋彩香インタビュー

アニメ

更新日:2021/9/30

島村卯月
(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

 2021年、『アイドルマスター シンデレラガールズ』がプロジェクトのスタートから10周年を迎えた。10年の間にTVアニメ化やリズムゲームのヒット、大規模アリーナをめぐるツアーなど躍進してきた『シンデレラガールズ』。多くのアイドル(=キャスト)が加わり、映像・楽曲・ライブのパフォーマンスで、プロデューサー(=ファン)を楽しませてくれている。今回は10周年を記念して、キャスト&クリエイターへのインタビューをたっぷりお届けしたい。第1弾には、『シンデレラガールズ』の中心メンバーとして走り続けてきた島村卯月役・大橋彩香が登場。卯月と駆け抜けてきた10年を振り返ってもらった。

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卯月が個性について悩む時期があって、わりと自分も似たようなことで悩んでいたので、より距離が縮まった

――『シンデレラガールズ』の中心的な存在である卯月役として長くプロジェクトに関わってきて、10周年という節目について大橋さんはどう感じていますか。

大橋:765プロダクションの皆さんと10周年の合同ライブに参加させていただいたことがあって、そのときに「10周年ってすごいなあ」って思っていて。いつか『シンデレラガールズ』も10周年を迎える日が来るんだろうか?と思ったら本当に10周年を迎えたので、すごくビックリしています。ゲームやTVアニメ、その後にはデレステ(『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』)もできて、いろいろな展開がありながら10周年を迎えることができました。わたしも、デビュー当時から卯月とずっと一緒に歩んできているので、わたしもデビューして10年経ったんだなって思います。

――10年間『シンデレラガールズ』の一員として活動してきて、3つ訊きたいことがあります。大橋さんが一番嬉しかったこと、一番悔しかったこと、そして一番誇れること。それぞれなんでしょうか。

大橋:ドームツアーができたのは嬉しかったです。やっぱり、ドームでツアーができるって、すごいことなので。悔しかったこと――なんだろう、何をやっても満足しないタイプなので悔しいことだらけですけど、ライブよりもトークイベントで悔しいと思うことのほうが多いかもしれない(笑)。トークが苦手なことと、まわりの役者さんも皆さん個性が強いので、その中で自分が上手く立ち回れたのか、反省することも多いです。立場上、MCをやることも多いので、家で反省会をすることもありますね。誇れることは、やっぱりアイドルがいっぱいいることですかね(笑)。

わたし自身は、誇れるようなことは何もできてないと思っていますけど、でもアイドルに対してはいつも誇らしいな、とは思っています。卯月は常に成長し続けていて、どんどん人間らしくなっていると思います。特にTVアニメ以降、人間臭いところがいっぱいあることに気づきました。あまり満足せず、頑張って高みを目指している姿を見ると、自分が演じている島村卯月ちゃんが誇らしいなって思います。

――卯月と大橋さんの精神的な距離が縮まったのは、TVアニメの頃なんですか。

大橋:はい、TVアニメでした。それまでは「ミステリアスだな」って思っていて(笑)。卯月は笑顔が魅力的な女の子なんですけど、自分の個性について悩む時期があって。わりと自分も似たようなことで悩んだりはしていたので、そこで自分とリンクして、より距離が縮まったような気がします。

――大橋さん自身も卯月と同じような悩みを抱えている時期があった?

大橋:そうですね。この業界にいると、同年代でも輝いてる子がいっぱいいて、そういう人たちを見て置いていかれた気分になったり、自分が一番伸ばせる部分ってなんだろう?って考えたりしていて。この世界を生き抜く上での武器についても、当時は悩んだりしていました。卯月を演じるようになってから、笑顔がいいねって褒めてもらえることが多くなったけど、「笑顔って誰でもできるんじゃ?」って、卯月と同じようなことを考えたりしたこともありました。卯月の笑顔は、わたしに比べたら特段パーフェクトに素晴らしいと思うので、そんなに悩むことないのに、とは思ったりもしていましたけど(笑)、第三者だからこそわかる魅力はありますね。

――大橋さん自身の悩みに対する答えは、ある程度は出たんですか。

大橋:いやあ、悩んでます(笑)。昔から器用貧乏なところがコンプレックスだったので。自分には特段秀でたものがないなあって思っていて、それはもう10年くらい悩んでたりはします。だからこそ今は、マルチで頑張ろうかなって思っています。

――『シンデレラガールズ』は卯月が扇の要のような位置にいるけれども、リーダーではないですよね。大橋さん自身も、「わたしがまとめたりしているわけでは全然なくて」と以前話してくれていましたけど、とはいえ『シンデレラガールズ』といえば島村卯月であり大橋彩香、と感じている人もいると思うんです。そのポジションを10年間務めてきたことについて、いまどう感じていますか。

大橋:そんなに大変ではなかったです。キャストも多いし、最初は17、18歳とかだったので、お姉さんたちもわたしを助けないとって思ってくださっていたので、そこまで気負い過ぎることはなかったです。本当にのびのびさせてもらっていたので、そこまで大きな苦労はなかったですけど、最後の挨拶にはいつも苦労してました。初期の頃は、ライブの終わりに全員ひとりずつ挨拶していたので、言うことがどんどんなくなっていくんです(笑)。29人言った後の最後だし、でも何かまとめたことを言わないといけないから――ずっとわたしのこと観察してるプロデューサーさんから、「はっしーが、もうみんなが挨拶しているとき、マジで真顔になって必死に挨拶考えてるのが面白かった」っていう感想があったりして――順番が近づくたび、どんどん顔が険しくなっているらしいです(笑)。

765プロダクションさんと合同でイベントをやると、やっぱり(中村)繪里子さんは挨拶がめちゃくちゃ上手だし、「こうやってやらないといけないんだ」って、プレッシャーを感じていたんです。でも『シンデレラガールズ』のみんなは「はっしーは、はっしーらしくしていればいいと思うよ」って、いつもわたしの個性を尊重してくれて、皆さん優しいです(笑)。だから真ん中に立つプレッシャーはあまり感じていないですが、ニュージェネ(new generations。大橋・福原綾香・原紗友里のユニット)で自分しかいないライブがあって、そのときはすごく不安だったことがあります。左右に福原さんと原さんがいてくれる安心感がいつもはあったから、不安の嵐でした。その日はサプライズでふたりが出てきてくれる演出があって、もう感極まりましたね。知ってたのに泣いちゃう、みたいな(笑)。

――(笑)ニュージェネとして一緒にやって来た福原さんと原さんとは、どういうコミュニケーションを取ってきたんですか。

大橋:なんだろう、しゃべっていなくても、安心感があります。謎の絆というか(笑)。3人でいると、福原さんと原さんがずっと漫才みたいにしていて、それをわたしがボーッと見てることが多いかもしれない(笑)。ふたりとも、ギャグセンが高いです(笑)。もしかしたら、兄弟に近いのかもしれないです。「姉がふたりいる」みたいな。ふたりの前だと「何々しなきゃ」みたいな感じはあまりなくて、自分らしくいられる気がするので、すごくありがたいです。

――黒沢ともよさんに先にお話を聞いたんですが、『シンデレラガールズ』の初期からいるメンバーだと、大橋さんと黒沢さんだけが当初10代だったそうですね。同年代のメンバーとして一緒に過ごしてきた黒沢さんは、大橋さんにとってはどういう存在でしたか。

大橋:ともよは、『シンデレラガールズ』以外でも長く一緒でしたし、プライベートでもすごく仲良くしている役者さんです。やっぱり……彼女はすごいんです。めちゃくちゃ努力家だし、技術もあるし、自分の意見もしっかり持っているので、そういう子が近くにいると、刺激はたくさんもらいます。友達でもありライバルでもあり、でもいろいろ教えてくれて、自分を高めてくれる、いい関係だなって思っています。お互い子役出身で、まずそこで意気投合しました。ともよはキャリアが長くて、ずっと業界にいた分すごくしっかりしているので、彼女のステージを見ていても感心の嵐ですし、尊敬しています。

大橋彩香

大橋彩香

ずっと卯月が笑っていてくれたら、わたしも幸せ

――以前、7周年特集のときに、大橋さんには“S(mile)ING!”の話を訊かせてもらいました。今回は、卯月のもうひとつのソロ曲“はにかみdays”についてお話を伺いたいのですが。

大橋:曲をいただいたときは、「やっぱり卯月は笑顔にまつわる楽曲が多いんだなあ」って思いました。“S(mile)ING!”は、TVアニメを経てすごく特別な楽曲になっていて、逆に“はにかみdays”はフラットな感じで歌える楽曲ですが、実はすごく難しいです。“S(mile)ING!”以上にキュートな要素がたくさん含まれていて、ライブでもミュージカルのように歩きながら歌う演出がついたりしていて。“S(mile)ING!”とはまた違う、ライブ映えする楽曲をいただいたなって思います。

――『シンデレラガールズ』は面白い楽曲が揃っていますが、ご自身が参加している以外で好きな曲はありますか?

大橋:カッコいい曲が大好きです。卯月はキュートなので、カッコいい曲を歌う機会がないですけど、その分憧れも強いです。ライブでも、カッコいい曲をやってるときはこう、モニターにかぶりついて見てます(笑)。“バベル”はすごく好きですね。あといつか歌ってみたいのが、“Bloody Festa”ですね――超難しそうだけど(笑)。本当に楽曲の幅が広いので、いつか卯月もカッコいい曲を歌ってほしいなって思います。

――前回ツアーで披露したニュージェネの新曲“Great Journey”は、歌詞の内容的にも『シンデレラガールズ』を長く応援してきた人はグッとくる楽曲だと思いますが、大橋さんはこの曲や歌詞を受け取ってどんなことを感じましたか。

大橋:すごくワクワク感があふれる曲だなって思います。旅する感、というか。プロデューサーさんたちとの旅はこれからも続いていくわけで、これからもいろんな景色をみんなで見に行くんだろうなあっていう、希望に満ちあふれた歌詞になっているので、ニュージェネに限らず、いろんな人が聴いても背中を押してくれるような楽曲だなあって思います。速いテンポの中で、ニュアンスを入れていくのが難しかったりもしたんですけど、曲として聴いたりリズムゲームとして遊ぶにはすごく楽しい楽曲だし、またひとつバラエティ豊かな楽曲がニュージェネに増えたのは嬉しかったです。

――今回、10周年のツアーもありますが、キャストを代表してツアーに向けた意気込みの表明をお願いしてもよいですか。

大橋:はい。ツアーは久々で、2年ぶりになりますが、またいろいろなテーマで各地を回らせていただきます。今回は10周年ということで、応援してくださってるプロデューサーさんに、改めて感謝の気持ちを届けられる場になったらいいな、と思いますし、みんなにとって元気が出るようなライブにできたらいいな、と思います。

――改めて、10代の頃から一緒に歩んできたコンテンツ『シンデレラガールズ』は、大橋さんにとってどういう存在ですか。

大橋:わたしの声優人生は、まるまる『アイドルマスター』にずっと携わらせていただいてるので、生活の一部になっているような気がします。だから『アイドルマスター』は生活であり、教科書のような感じでもあります。アイドルって、けっこう自分たち声優と土俵が似てたりもしますし、作品から考え方を学ぶこともたくさんあるし、自分自身もアーティスト活動をやって、ステージに立たせていただくことも多いので、アイドルたちから学ぶことは多いです。デビューして、早い段階で『アイドルマスター シンデレラガールズ』に関わらせていただけたことは、自分の人生においてすごく大きかったです。『シンデレラガールズ』がきっかけでわたしのことを知ってくださった方もすごく多いと思いますし、大きな作品に17歳から関わらせていただけて、自分にとっての代表作でもあるので、本当に大きな存在です。

――『シンデレラガールズ』が大橋さんにくれたものの中で、一番大きなものってなんでしょう?

大橋:なんだろう、パブリックイメージかな。やっぱり卯月を演じたことによって――わたしのパブリックイメージの色はピンクなんですけど、それも『シンデレラガールズ』から来てるのかなって思いますし、わりと自分がアーティスト活動をする上でのイメージとかも、そこから来てるものは多いのかもって思います。「笑顔で明るく元気で」みたいなところですね。卯月がきっかけで笑顔を意識するようになりましたし、役を演じていないときのパブリックイメージにも、大きな影響を与えてくれたのが『シンデレラガールズ』だなって思います。

――卯月からもたらされるイメージは、同時に大橋さんも自分のものとして背負っているんですね。

大橋:そうですね。やっぱり自己表現としても、「カッコいい」よりは「かわいくて明るく元気!」のほうが表現しやすかったりもしますし、その部分で卯月に引っ張っていってもらっている気持ちはあります。いい影響を受けているなって思います。

――ではラストになりますが、10年間ともに進んできた卯月に、今かけたい言葉はなんですか。ちなみに3年前は「一緒に頑張ろうね」でした。

大橋:幸せになってほしいです(笑)。卯月には、アイドルとして突き抜けていってほしいですし、わたしもこれからの声優人生を卯月と一緒に頑張っていきたいと思っています。それを踏まえて、単純に卯月の人生が、総合的にすべて幸せになってほしいです。自分も、卯月との年齢が10歳離れちゃったので、ちょっと娘を見るような感じがあって(笑)。以前よりも、卯月への母性のようなものが湧くようになった気がします。卯月が仕事においてもプライベートにおいても幸せになって、ずっと卯月が笑っていてくれたらわたしも幸せです。

取材・文=清水大輔