宇宙旅行がいよいよ現実に! 民間企業の活躍で宇宙開発も低価格化がすすむ!?

文芸・カルチャー

公開日:2021/10/16

人類がもっと遠い宇宙へ行くためのロケット入門
『人類がもっと遠い宇宙へ行くためのロケット入門』(小泉宏之/インプレス)

 今年の7月に、大手通販会社Amazonの創業者であり世界一の資産家でもあるジェフ・ベゾス氏が、自身の民間宇宙飛行会社ブルーオリジンのロケットで宇宙旅行を体験して無事に帰還したことが話題になった。旅行の時間はたった4分間、それも滞在したのは国際航空連盟(FAI)が定めた「カーマン・ライン」と呼ばれる高度100キロメートルの、宇宙空間と大気圏を分ける仮想の境界線だ。しかし、そこに辿り着くこと自体が容易ではない。日本では、ホリエモンこと堀江貴文氏が出資するインターステラテクノロジズ株式会社がロケットの打ち上げにトライしていることは知っている人も多いだろう。宇宙に行くための課題はなんなのか、小惑星探査機「はやぶさ」プロジェクトにも携わった著者による『人類がもっと遠い宇宙へ行くためのロケット入門』(小泉宏之/インプレス)で学んでみよう。

「ロケット」の定義と2人の「宇宙飛行の父たち」

 まずロケットの定義だが、「宇宙に行くための装置」ではないという説明に面食らった。たとえばジェット戦闘機は、周囲の空気を取り込み燃焼ガスを噴出して前に進む。それに対してロケットは、自らが持参したガスのみを噴出するので周囲の環境に影響されずに作動する。この「加速する方法(ロケット推進)そのもの、およびロケット推進を備えた装置」のことをロケットと呼ぶという。なるほど『マジンガーZ』のロケットパンチは、推進剤を搭載しているらしく自力で飛んでおり、周囲の空気を取り入れているような描写は無い。

 そのロケットの開発史の中にはまず、約100年前に「宇宙飛行の父」と呼ばれる2人の人物がおり、1人はロケットの加速を計算する「ロケット公式」を考案したコンスタンチン・ツィオルコフスキー博士。もう1人は、実際にロケットを開発しようとした実験家のロバート・ゴダード氏。しかし、本書によればゴダード氏は生前には業績を評価されなかったという。その一因は「マスコミが実験の失敗のみにフォーカスして大々的に批判・嘲笑したことにある」そうで、しかも大新聞が間違った物理解釈に基づいてそれを行なった。アポロ計画時代の科学者ジョージ・サットンは、「当時ゴダードの仕事を知らなかったが、もしその詳細を知っていれば時間の節約になった」と語っていたとのこと。なんとも報われない話だ。

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「電気推進」の実用化が打ち上げの低価格化を後押し

 ロケットが燃焼を利用するとは限らないというように、「イオンエンジン」に代表される「電気推進」もある。「はやぶさ」に搭載されていたのがこのエンジンで、太陽電池によって発生させた電気エネルギーを推進剤の運動エネルギーに転換する。化学推進ロケットで加速しようとすると本体の約半分を推進剤が占めて質量を犠牲にするのに対して、効率的に加速できるのが利点だそうだ。イオンエンジンの実用化は「はやぶさ」が世界で初めてだが、考案したのは先述のツィオルコフスキー博士だという。

 そして現在、気象衛星などの静止衛星にも搭載しようと、実用化の研究が進められているという。地球の回転に合わせて赤道上空を回り続けている静止衛星は、地球からの重力はもちろん月や太陽、その他の惑星の重力の影響も受けているため少しずつ軌道がズレていくのを、小刻みにエンジンを噴いて修正している。そのエンジンをイオンエンジンにするなどして「オール電化衛星」が実用化されれば小型化が可能となり、打ち上げロケット1つで2台の静止衛星を打ち上げることができるとのこと。打ち上げロケットの搭載能力を倍にするより、はるかに技術的な難易度は乗り越えやすいし、打ち上げ費用を大幅に下げられるというわけだ。

宇宙開発の世界に低価格化をもたらす民間企業の活躍

 そのロケットの打ち上げ費用だが、民間の宇宙開発会社「スペースX」のウェブサイトにはなんと、「定価」が掲載されているそうだ。本書では、「国際宇宙ステーション(ISS)」が飛ぶ高度400キロメートルに22tの貨物を運ぶことのできるファルコン9の定価が「約62億円」と提示されているのを「驚きの安さ!」と評している。なにしろ、日本の国産「H2Aロケット」で100億円前後するうえ、輸送能力はファルコン9のほうが2倍近いのだから、お得感が断然違う。

 実は冒頭の宇宙旅行に続く7月末日に、インターステラテクノロジズが株式会社TENGAとの協同プロジェクトとして進めてきた「TENGAロケット」の打ち上げを実施し、成功している。同社としては3度目の宇宙空間到達で、失敗したときには大きく報じていたマスコミが今回、国内民間で唯一、事業化に歩を進めているロケットのことをあまり取り上げなかったのは、東京オリンピックの開催期間と重なったとはいえ残念でならない。『宇宙兄弟』という漫画作品で主人公が「本気でやった失敗には価値がある」と云っていたように、失敗無くして成功も無いのだ。本書を読んで、新たな人材が日本に育つことを期待したい。

文=清水銀嶺