目標は大胆に! 失敗しても次に生かせばいい。自分で環境を変え、挑戦することの大切さ/努力の習慣化

ビジネス

公開日:2021/10/4

目的地のヒントは「ロールモデル」から学ぶ

「いいお手本」がいたら徹底的に聞く

 ここでは、契約形態のことは「プロ」、仕事に対する姿勢のことは「プロフェッショナル」と呼ぶ前提でお話ししていきたいと思います。

「バレーボールのプロ選手になりたい」と目標は立てましたが、目的地まではモヤがかかっているというか、プロセスが思い浮かびませんでした。そんな時に助けていただいたのが、酒井大祐さんでした。酒井さんは、男子Vリーグで通算出場セット数歴代1位を獲得したこともある日本バレー史に名を刻むリベロです。今は現役を引退され、業界の発展に寄与されています。

 酒井さんには、こうやったらうまくいくというプロセスを具体的に教えていただきましたし、様々な話をしていく中で、「プロとはどういうことか」という話もしていただきました。自分にとってのプロフェッショナル像は、酒井さんと話す中で固まっていったことですし、酒井さんとたくさんお話しさせていただいたことが僕の分岐点でした。

 2015〜16シーズンはサントリーが入れ替え戦に行ってしまったのですが、「プロになること」や「どのようなプロフェッショナルでありたいか」など、数々のヒントをもらえた貴重なシーズンになりました。

 ちょうどその頃は、2015年のワールドカップで成績を出して注目されるようになっていて、多くのファンの方がサントリーの応援に来てくださるようになっていました。とても嬉しかった一方で、どう受け止めたらいいのかわからない、という葛藤がありました。いちバレーボール選手としての魅力ではなく、テレビ中継があったりした影響での人気ではないかと……。チームが負け続けた時などは余計にそう思いました。

 酒井さんとはお話をたくさんさせていただいただけでなくて、実はずっと観察をしていたのです。話せば話すほど気になって、酒井さんはどうしているのか興味が湧いて、練習中、試合中と観察しました。バレーボールはコートに6人、ベンチを含めて14人、チーム全体を見たらもっと選手がいます。その中で、「選手として違いを見せたい」「負けている時にはより強くなってチームを救いたい」という、いち選手としての欲求は誰にでもあります。

 しかし酒井さんは、練習前や練習中の姿勢ですら、他の選手とは違って見えました。バレーボールは団体スポーツですから、どこかで同調してしまってみんなと同じことをしがちですが、酒井さんは常に他の選手と同じ言動をしないよう意識しているように見えました。

 仲間とのコミュニケーションやバレーボールに取り組む姿勢について、酒井さんは決めていることがあるし、そのプロセスにも一本芯が通っている。酒井さんを見ていると、選手としてだけでなく人間としても、プロフェッショナルというのはこういうことなんだなと思いました。そして、僕もこういう人になりたいと思えたのです。

 プロフェッショナルのマインド――。酒井さんにはそのことを教わった気がします。

「納得している人」がその道のプロフェッショナル

 団体スポーツでも個人の評価は大事で、そこを上げたいと強く思うようにもなりました。酒井さんのように一目で違うとわかる選手になりたいと思いましたし、その先にあったのがプロという契約方法であり、プロフェッショナルという意識でした。

 プロとして何より大事なのは、自分が納得していることです。プロはとても厳しい世界なので、酒井さんもJTの優勝に貢献したシーズンにチームとの契約が終わってしまいました。

 ただ、そのことがきっかけで翌シーズンからサントリーと契約することになって、一緒にプレーすることができたのです。酒井さんから聞く話は、いい面だけではなく、厳しい経験談もありましたし、とてもリアルなのですが、だからこそ自分が納得して取り組めているかが重要になるのだと思いました。

 プロになるということ、どういうマインドや姿勢で取り組むかという意味でのプロフェッショナルについては、自分一人ではそこまで考えられませんでした。酒井さんという一人のロールモデルから学べたと思っていますし、これからも他の人から多くのことを学んでいきたいと思っています。

目的と手段を、常にアップデートする

トライできた時点でポジティブ

 バレーボールの世界でずっと生きてきた自分にとって、バレーボール選手としてとはいえ海外に飛び出した経験はとても新鮮でした。バレーボールを続けてはいるものの、未知の世界に行った感覚で、見るもの聞くものすべてが新鮮で楽しい。もともとはバレーボールがうまくなりたい、選手として成長したいというのが目的でしたが、それ以上に一人の人間として得たものが大きかったです。

 まずは語学や生活などにおける文化。リーグの違いはもちろん、バレーボール文化やスポーツ文化の違いなど、競技そのものだけでなく様々な要素に触れることで、バレーボール選手として成長できたと思います。

 たとえば、リーグ戦で言えば、アウェーとホームには圧倒的な違いがあります。お客さんのブーイングもそうですし、欧州リーグだと広いヨーロッパを移動して試合をしたり、スポンサーのロゴが入った自動車を支給されたり。日本ではあまりありませんが、海外のスポーツ選手と同じ経験ができました。

 行ったからこそ思えるのは、海外を知らないまま選手としてのキャリアを終えるのはもったいないということ。海外は知らないことばかり。それが楽しそうだなと少しでも思えるのならチャレンジすべきです。

 ただ、「海外で一人になるのは寂しい」というようなネガティブな感情が起こるなら、無理しなくてもいいと思います。ネガティブな気持ちでチャレンジしてしまうと、目に映るものすべてが新鮮という感覚にはなりませんよね。未知の世界へのチャレンジも、いかに楽しめるかが大切。楽しめることで初めて未知の世界で多くのことを得られるのではないでしょうか。

 もし少しでもチャレンジしたい気持ちがあるのであれば、僕は応援します。バレーボール選手でも、他の競技の選手でも、ビジネスマンでも、海外に行ってもダメなら日本に帰ればいいのです。

 たまたまうまくいかないタイミングだってあります。大切なのはその次のステップ。ダメだったらそれを生かして次にどう戦うか。目的と手段は、常にアップデートされ、入れ替わっていくものです。

 繰り返しになりますが、たとえば、世間的には「失敗」と評価されることを自分がしたとしましょう。でも、その「失敗」から学び、次の目的のための武器にできるなら、それは「失敗」ではありません。

 ネガティブな気持ちがあるならチャレンジしなくてもいいと言いましたが、チャレンジ、トライしてみるだけでもいいかもしれません。「トライする」という時点で相当ポジティブですから。

「環境」が向上心も作る

 海外に挑戦する時に言葉がわからなかったとお伝えしましたが、どれくらいのレベルかというと、英語は「Google翻訳」を使ってコミュニケーションを取るような状態。言い訳をするつもりはないのですが、目的の見えない勉強が苦手で、海外に行くと思っていなかった頃は英語の勉強に全く身が入らなかったのです(笑)。だからまずは、飛び込んじゃえ、と。

 ただ、現地で死ぬ気で英語を勉強しようとは思っていました。ドイツでもポーランドでも、チームは多国籍でしたから、英語でコミュニケーションを取っていました。幸いドイツ人は英語が堪能でしたので、英語を勉強するだけでドイツ語は勉強せずにすみました。

 国際試合の記者会見にも出席する機会は多かったので、英語は必要ですし、もっと喋れるようになりたいですね。「よくなりたいです」というくらいの簡単なことなら英語で伝えることはできますが、「いつまでに、どういうところをどうやってよくするのか」ということまで話せるようになりたいと、日本代表のキャプテンになったことで思うようになりました。誰かに見られていることを意識すると、成長したいという思いも強くなります。

 個人的には、日本人バレーボール選手は海外でも活躍できると思います。オポジットやミドルはポジション柄相当頑張らないといけませんが、僕のポジション(アウトサイドヒッター)やリベロ、セッターはその可能性が高いと思います。

 ハードルを感じる必要はないのですが、海外へのチャンスがあることを知っている選手がはたしてどれくらいいるのか……?

 日本バレーボール界が向上するためにも、選手が海外に挑戦しやすくなるような環境に変えていきたいと思っています。

 未知の世界に飛び込んだことによって、僕はバレーの面で成長しただけでなく、様々な刺激を受けて多くのことに考えが及ぶようになりました。思いきって飛び込んでみることは、思いがけないものを得られる大きなチャンスなのです。

「プロセス」も重視する

過程も「結果」に寄与する

 スポーツは結果がすべての世界ですが、結果だけを追い求めるよりも、プロセスを重視したほうが自然といい結果がついてくることもあります。完璧な結果を出せたかどうかではなくて、トライしたということがポイントであり、そのプロセスが重要だと思っています。

 僕は先々のことは、「短期」「中期」「長期」に分けて考えています。

 目の前の一歩が「短期」、達成すべき目標は「長期」、そのプロセスを「中期」としています。プロセスを言語化する人は少ないかもしれませんが、多くの人は頭の中でプロセスを明確にしていると思います。

 たとえば、考えるということ自体もプロセスですよね。考えが自分の中にあるからこそ、人の意見を聞くことができますし、相手の属性で自分の態度がぶれることもなくなります。

目標達成のためには妥協しない

 与えられたテーマがあるとして、それを完璧にこなすことが目標だとすると、短期、中期、長期の考え方でどう取り組んでいくか。そして、そのプロセスにおいて妥協しないことも目標達成へのカギです。

 僕は日本代表のキャプテンには立候補したわけではなく、まわりから選んでいただきました。こういうチームにしたいという理想は話しましたが、理想に近づくように日々努力することを重視しました。これがプロセスです。

 幸いにもチームメイトはバレーボールのセンスの塊みたいな選手ばかり。理解力もあり、納得してプレーしているので、妥協するような選手は一人もいません。

 問題をコートの外に持ち越すことはありませんでしたから、キャプテンをしていた時に問題が起きたことはありませんでした。志が同じ人同士なら、たとえ集団になったとしても、目標に向かって足並みを揃えることができるのです。

<第4回に続く>